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どんな子どもにも、居場所を。『かがみの孤城』読書感想

(A)はじめに:2018年本屋大賞受賞作

本書は2018年本屋大賞受賞作である。
読み始めたきっかけは知人からの紹介だが、本屋大賞受賞作は、読書が趣味である人はもちろん、普段読書をしない人も、まず手に取るきっかけにしてほしいと思う。ミーハーに捉えられなくもないが、数ある文学賞と違って、本屋大賞は、手に取るハードルがいい意味で低いように感じる。様々なジャンルの中から、今読んだら面白い本がピックアップされるので、取り急ぎ読みたいものが見つからない時や、久々に読書をするか、という人にうってつけだ。

(B)あらすじ

本書の主人公である中学一年生の安西こころは、クラスメイトによる心無い事件により、5月から登校が出来なくなる。不登校であることや、家族からのプレッシャーに後ろめたさを感じていたころ、突然部屋の鏡が光り始める。鏡を通り抜けた先には、童話の世界にあるような城がそびえ立つ。そこには、こころと似た境遇を持つ7人の少年少女と、管理人のようにふるまう、狼のお面をつけた"オオカミさま"がいた。見つけたものの願いが一つかなう"願いの部屋"とその鍵を探すよう言い渡された彼女たちの一年間が始まる。

本書は後述の感想の通り、闘う子どもたちについて深く考えさせられる小説である。
一方で、集められた7人の謎、「願いの部屋」とその鍵の在りか、願いは叶えられるのか、それは誰のどんな願いなのか…、これらが巧みに張られた伏線によって回収されていく様を楽しむこともできるので、読者も謎に挑戦しながら読み進めてほしい。
また、流石の辻村深月作品であり、登場人物の心理描写や作りこみが素晴らしい。終盤の少年少女たちが城に招かれる経緯が明かされる場面では、各人の心理描写と謎の答え合わせが絶妙に織り込まれており、一気に読み進めてしまうこと間違いなしだ。

(C)感想:学校でなくてもいい。けど。

主人公をはじめとする7人の少年少女は、様々な理由から、学校に行けなかったり、学校での人間関係に苦悩している。また不登校と向き合っている各家庭の環境も様々で、子供たちはそのギャップにも戦わなくてはならない。こころが不登校になった原因は、一人の少女に負うところが大きいが、そういった子はこれからも決していなくなることはない。学校もその仕組み上、全ての子どもに寄り添いきることは難しくなっている。本書で大きな役割を持つ、フリースクールの喜多嶋先生の言葉を借りれば、そのような限界を持つ学校には、必ずしも行かなくてもよいのである。本書はそんなメッセージを伝えてくれている。

これは小説の世界だけの話ではなく、現実の世界でも同じことがいえる。学校というコミュニティに所属する必要性に疑問を呈する論調は少しずつ存在感を示しているし、不登校であることを前面に出している子どもYouTuber(?)もいるようだ。学校を正しい枠として、その内か外かというだけで判断を下される時代ではもはやないし、何より子どもを不幸にする場所であるならば、学校に必ずしも行く必要はないと感じる。

一方で、本書が伝えるメッセージはもう一つあり、そちらの方が重要ではないかと感じる。それは、子どもたちはコミュニティの中で成長をしていくということだ。
こころ達は、城での一年を通して、少しずつ成長をしていく。様々なタイプの子どもたちと接し、悩みを共有することで、人間関係の難しさと友達の重要さを学び、家族と向き合う勇気を得る。そして遂には、学校という理不尽に、一時的でも立ち向かうことが出来るようになるのだ。これらの成長は、もちろん周囲の大人たちの協力もあるが、子供たち同士の交流による所が大きい。

闘う子どもたちに重要なのは、親や理解ある大人たちの信頼・協力と、同世代の子どもたちの交流による気づきなのだということが、本書のメッセージなのではないだろうか。

(D)素敵な一節

「私は、だから"溶け込めなかった"わけじゃない。そんな、生ぬるい理由で…」

子どもが不登校になってしまう理由を、正しく理解できる大人はどれくらいいるのだろうか。それだけではなく、子どもを正しく理解することはとても難しい。

「誰かに、悪くないよ、と言ってほしかった」

子どもを正しく信じるということも難しいことだ。ただ、子どもが求めていることも、正しく理解し信じてもらうことなのだ。

「改めて、自分たち中学生の居場所は「学校」と「家」以外に…」

学校になんて行かなくていい、というのは簡単だ。けれど子どもたちにとって、「学校」は数少ない居場所の一つで、それを放棄することの難しさは想像を絶する。行かなくてよいという前に、子どもたちに居場所の選択肢を増やしてあげることが大事だと感じる。

(E)まとめ:どんな子どもにも、居場所を。

いつの時代にもなくなることはない、不登校というテーマ。
学校がすべてではなくなってきている今の世の中において、
逆に一遍通りの学校否定になってしまう前に、子どもたちに必要な居場所について、考えるきっかけにしたい一冊。


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