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今こそ、「家庭観」のアップデートを。『ワーキングカップルの人生戦略 ― 2人が「最高のチーム」になる』読書感想

(A)はじめに:理想だって古くなる。

夫ががむしゃらに働き金を稼ぎ、妻は家庭でそれをサポートする…
こんな生活が理想的で、一般的にしようという動きは、近代の中でも決して長い歴史を持っていない。それは精々戦後の高度経済成長期に政府が理想として掲げていた期間があった程度で、それ以前はオフィスでなくても妻も家事とは異なる労働(農業など)をしていたし、そもそも上記のような理想形は、夫が家庭を顧みずがむしゃらに働けば、雇用と昇進昇級が約束されていた、一時代のある一部の地域にあった神話を基にしている形である。

今の時代は不安や不確実性と当然のように共存しており、それらと上手く付き合っていく向きまで出てきている。にもかかわらず、「家庭観」だけは古いままの人が未だに少なくないのは、自分たちの親世代が正に過去の理想形を体現しているケースが多いことが原因だろう。旧来の理想形が悪いものだとは言わないし、その理想形の中で育ってきた自分たちとしては、考え方を変えるのは簡単ではない。しかし、古い考え方は今の世の中のスピードに対応できないこともまた事実だ。
本書を通じて、「家庭観」のアップデートを行っていこう。

(B)筆者について/あらすじ

筆者は小室 淑恵(こむろ よしえ)さんと駒崎 弘樹(こまざき ひろき)さん。小室さんは株式会社ワーク・ライフバランスの代表取締役社長であり、2児の母でもある。駒崎さんはNPO法人フローレンスの代表理事であり、2児の父親でもある。お二人とも官公庁の、男女の働き方や子育てとの両立について進言を行う立場もされている。

本書は、初めに「共働き」の重要性を小室さんと駒崎さんが対談形式で語り、以降は夫婦・カップルの「コミュニケーション」、「時間の使い方」、「妊娠・出産」、「育児」、「お金」にまつわる考え方が述べられる。男性と女性のそれぞれの視点から各テーマについて触れられるので、共感できるパートも多く、逆にパートナーとなる異性の考え方に触れることが出来る。

(C)感想:共働きこそ最高のリスクヘッジ。

本書では「共働き」をしながらQOLを上げていく様々なヒントが取り上げられているが、その前段であり、最も重要な主張は、「共働きこそ最高のリスクヘッジ」であるという事だろう。序盤でも話した通り、私のような20代の両親世代は、「夫ががむしゃらに働き、妻は家庭を守る」というようなロールモデルが推奨され、実践されてきたのではないかと思う。しかし、これらのロールモデルは。日本の歴史の中で言えばマイノリティであり、人口減少や少子高齢化、終身雇用の崩壊といった不確実性をはらんだ社会には対応しがたい考え方である。病気やケガといった従来のリスクはもちろん、転職や企業といった働き方の変化や、妊娠・出産といったライフイベントに渡るまで、収入が不安定になったり途絶えてしまう可能性は往々にして存在する。社会の変化するスピードが加速している中、家計の集住の軸を一つに頼らず、パートナーと共存していく「共働き」は、人生戦略としても理に適っていると感じる。

もう一つ、本書で深堀されないながらも重要だと感じた点は、地域と市民の問題だ。都市への人口集中、核家族化に伴い、地域コミュニティへの参画意識は薄れているように感じる。近隣住民の人となりを把握し、気軽に物事を頼みあうことが出来る関係性を作り上げている人は、確かに減っているような感覚がある。一方で、子育てを夫婦のみで行うことは、共働きかどうかは別として、負担が大きいことも確かだ。双方の両親に助けを求められれば良いが、様々な問題からそれが叶わない夫婦も少なくないだろう。子育ては地域で取り組む、そんなかつての日本にあった地域連携の仕組みが整わない限り、これからの若い世代の子育ての負担は益々多くなり、結果としてそれを忌避して出生率が下がっていく可能性は大いにある。これらを回避するためにも、地域づくりの仕組みや、個々人が市民として市政にコミットしていく意識の重要性が説かれている。求めるだけではなく、自分たちで理想的なコミュニティを創り上げる、次世代のワーキングカップルにはそういった姿勢が求められているのかもしれない。

(D)ためになる一節

「これまでとは違った生き方をしていく上では、…(中略)…「知恵」をシェアしていかなくちゃならないはずです」

共働きをしているカップルは、それぞれが違うフィールドで違う知恵を蓄積していることが多いだろう。それらを一つに集約して、この不確実な世の中を乗り越えていきたい。

「今後は男性も両親や配偶者の介護に直面するなど、…」

時間制約を持って働くことは、妊娠・出産・育児を行う女性だけという考え方は最早古い。妊娠・出産時にも男性が家庭をサポートできる点は、仕事をする以外にもは多くあるはずだし、育児はそれこそ夫婦で取り組むべきだ。
企業も、100%の力を事業にそそぐことが出来る人材ではなく、ワークライフを相互に充実させることが出来る人材を評価するべき時が来ている。

「一分でも三分でもコミュニケーション」

夫婦はどこまでいっても、驚くほど他人だ。だからこそ、意識的にコミュニケーション、特に対面での会話を取り続けたいと思う。

(E)まとめ:今こそ、「家庭観」のアップデートを。

本書を再読するにあたり、自身の取り巻く環境は変わっている。付き合っていた頃と結婚した今では受け取ることが出来たメッセージは違ったし、これが子供が出来るとまた変わるだろうという確信もある。
どんなライフステージであっても助けになる本書を読んで、次世代の「家庭観」にアップデートしてほしい。


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