カンボジアの雑種犬たち・その後🇰🇭【スーパースターを目指すカンボジアの若者たち】第49話
🇰🇭サソリ&クジラ
こんにちは、レナです。
私は日本での平凡で穏やかな生活を心の底から満喫している。
「パートのおばちゃん」という肩書きが、自分には一番しっくりくるんだなぁと「自分らしさ」を見つけられた気がしている。
職場の皆さんはとっても面白くて、毎日、職場でゲラゲラ笑わせてもらっている。
一緒に行くランチや飲み会が最高に楽しい。
介護を経験したおばちゃんたちがアドバイスもたくさんくれるし
「私をお母さんだと思って、甘えていいよ」
と言ってくれるその優しさに、涙がでそうな時もある。
お母さんの介護は、最初が特に大変だった。
認知症になり、被害妄想がひどくなるお母さんの暴言に頭にくるわ、悲しくなるわ、何度爆発したかわからないけれど
病気が進行するにつれて、お母さんはどんどん幼い子どものようになっていった。
今では、シワシワの大きな可愛い赤ちゃんだ。
ぶっきらぼうなお父さんも、一生懸命にお母さんの世話をしているし、
オナラばっかりしている夫もお母さんにとても親切に接してくれるし、
カンボジアから連れて来た犬・クジラが、お母さんやお父さんの癒しになってくれている。
クジラはカンボジアの犬らしく、半分野外で自由気ままに育ったから、日本の生活は窮屈でつまらないんじゃないかと心配だったけれど、
今ではそれなりに楽しんでくれているように見える。
クジラの生い立ちを考慮して、時々、残飯をあげたりしているけど、クジラはドッグフードも残飯も両方よく食べて、めちゃくちゃ元気。
この犬は本当に頑丈で、もう8歳になるけれど、生まれてこのかた病気になったことがない。
散歩中にネズミを見つけて、茂みなどに突っ込んで行ってしまうんだけど、その時に擦りむいて怪我をしても、翌日にはケロッと治っている。
そういえば、クジラを日本に連れて帰ってくる前に、タイの動物病院で抗体検査をしてもらったのだけど、
クジラは犬の平均抗体の数値を大幅に上回っていて
「クジラちゃんは素晴らしく頑丈な身体の持ち主」
と褒めてもらったっけ。
残飯もドッグフードもおやつもよく食べるけど、無駄な脂肪のない美しい身体や毛艶は変わらず。
まるでエジプトのアヌビス神のよう。
狂犬病の注射で獣医さんに行っても、とても良い状態と褒めてもらえる。
ただ、クジラは陰気な性格で、家族以外の人には全く懐かない。
どんなに可愛い、と褒めてもらっても、見知らぬ人には全く愛想を見せない。
何だか、子供の頃の私を見ているみたいで、そんなクジラが丸ごと愛おしい。
いつかサソリが迎えにくるまで、のんびり暮らして欲しいなと思っている。
時々、あのサソリという犬は、何だったのだろうと思う。
見た目は、東南アジアのどこにでもいる、グチャッとした中くらいの雑種犬。
オスだと言われてもらって来たのに、成犬になってもキンタマが無かった。
獣医さんに診てもらったら
「この子は、オスとメス、両方の性器を持ってるわ!この子はまさに天使ね!」
そう言われた。
わんぱくで、みんなのご飯や誕生日ケーキも奪い取るし、すぐ脱走するし、
世話の焼ける犬だった。
それでも、誰かが泣いていると一生懸命にその涙を舐めて、いつもポラリックスを見ていた。
プノンペンでは、コンやキン(私が腹を立ててた面々)の布団にしょっちゅうウンコをしてくれた。
夫が芸能プロダクションを開設した時にやって来て、事務所を閉めたら去ってしまった、そんな犬。
サソリがいなくなってしまった後、私は死ぬほど泣いて、まあカンボジア生活では他にもいろんな事があってよく泣いてたんだけど、サソリがいなくなった時が一番、悲しかった。
ただ、その翌日から、不思議なことが起こった。
家族、友達、同僚、繰り返し訪れる日々
太陽と共に訪れる朝、汗ばむ気温、
降り注ぐ雨、星の瞬く夜
全てのものが、キラキラと輝き出した。
それは今でも続いている。
街中で話す親子や、通勤電車の人々
スーパーや飲食店、あらゆるところで働く人たち
学校へ向かう小学生、
待ち合わせして遊びに行く若い女の子たち
何だか全てがキラキラして見えるのだ。
きっとサソリは今ごろアンコールワットにいて、ゴロゴロしたり、残飯をあさったりしているような気がする。
それに、時々クジラは何もない空中をジッと見ていることがあり、きっとサソリに何か報告しているのだろう、と思う。
きっとあの犬は、アンコールワットの神様のお遣いで、出来損ないの私や夫のところに来てくれたのだ。
そして、ポラリックスを見守っていてくれたのだ。
きっと、これからも、ずっと。
幸せな日々の中でも、仕事行くの面倒くさいなぁなんて思うときもあるけれど、そんな時にはスーパースターたちの力を借りている。
スポーツを観て興奮したり、映画やドラマを見て感動したり。
一番身近なのは、私のスマホの音楽ライブラリーだ。
電車を待つホームで再生ボタンを押すと流れてくるのは・・・“POLARIX”
彼らの曲が、とある平凡な主婦の生活に彩りを加え、道を照らしてくれる。
POLARIXに導かれ、私は迷うことなくパート先にたどり着き、同僚たちと元気に挨拶を交わす。
間違いなく、POLARIXは私にとっての道しるべ・北極星だ。