快・不快と心地よさ
「心地よさ」という軸
市川望美です。今日は「心地よさ」という軸について。
Polarisの事務所であり、シェアのワークスペース(今は内部限定利用のみ)である”cococi”は、「ココチ」と読み、「心地よく暮らし、はたらくための拠点」として2011年8月に立ち上げました。
『cocociは、新しい働き方、多様な働き方を実践していくための試行錯誤の場。今までの自分のやり方や慣習、しきたり、さまざまなあたりまえを越えて、「自分にとっての心地よさ」ということを価値判断の軸にしていこうよ』という思いを込めて名付けました。Polarisという組織は、この「心地よさ」という軸を大事な判断軸として使っています。
「子どもは快・不快の世界に生きている」
もともとこの言葉は、私が子育て支援のNPOにいるとき、子育て支援講座の中で、ある保育園の園長先生がお話されていたものです。
(「ある園長先生」というのは、世田谷で自然保育に取り組む「大きな木保育園」の園長、藤井浩子さん。私が事務局としてかかわっていた子育て支援グループamigoが設立当初からしばらく間借りしていたのが大きな木保育園で、子育てのスタート期にこの保育園の日常や考え方に触れることができて本当によかったなあと、今改めて思います。)
0歳~2歳児の、いわゆる「未就園児」の子育てをしている方を対象にした講座の中で藤井さんは、「子どもは、「快・不快」の世界に生きているから、大人の正解を押し付けてはいけない。」と言われ、みんなで「ハッ」としました。
藤井さんはいつも、温かくもドキっとしたりハッ!とさせてくれるお話を沢山してくださるのですが、(「しつけは押し付け」という名言あり)、その時私は、「そのためには、わたしたち大人がもっと「快・不快」の感覚を大事に生きていかないとできないし、子どもたちに余計なものを背負わせてしまうな・・・」と思ったものです。
数年経ってPolarisを立ち上げることになり、自分たちが目指すはたらき方、提案したいはたらき方はどんなものだろう?と考えた時、この「快・不快」が浮かびました。
そう考え、「心地よく暮らし、心地よくはたらく」をビジョンに掲げて事業はスタートしました。
正解のない世界で。
なぜ、正誤じゃなく、快・不快の感覚が大事なのか?新しいはたらき方をしようと思ったときに、なぜ「心地よさ」が大事になるのか。
それは、私たちが行こうとしているのは、決まった正解のない世界だから。
決まった正解がない世界で頼りになるのは、自分自身がどうしたいのかということ。だけど、自分自身がどうしたいのか、明確に分からない事も多いし、不透明で不確実なこの時代においては、たとえ一度決めたとしても、その先何が起こるのかによって状況は変わり、考え方や感じ方もわかっていく。
そんな時代の中、知識や経験や情報などをフルに駆使して合理的な意思決定をし続けるのは疲れるし、とてもやり切れない。「変わらないのは変わり続けるということのみ」というような言葉もよく語られる時代なので、「正誤」を基準に物事を考えるのはナンセンス。そもそも正解がない時代なのですから。
そこで大事なのが、直感や感覚を頼りにするということ。スティーブ・ジョブズも「最も大事なのは、心の声、直感に従う勇気をもつことだ」と言っていた^^
目指すものは、一人一人が願う「多様で柔軟なはたらき方」である以上、「他の人はそう思ってないけど、自分一人だけがイイと思うはたらき方、自分だけが欲しいはたらき方」であることだって考えられる。
誰かに合わせるのでなく、既存の仕組みに合わせるのでもなく、自分自身が望むものをつくっていくわけだから、頼りになるのは自分自身となります。
「本当にやりたいことをやればいいんだよ」「ワクワクする方を選べばいんだよ」という人もいて、それはそうなんだろうと思うけれど、でもそれって結構難易度高い・・・。
「自信不足」や「美しい言い訳」を越えて
特に、子育て中の女性たちは、離職したことで自信を失って自分の考えに自信が持てないことも多いし、自分のことは後回しにすることも多く、「自分がどうしたいのか」を考えることそのものに罪悪感があることも。
そして、「子どものため」「家族のため」という「美しい言い訳」に隠れて、自分の人生を自分で引き受けず、自分がやりたいことを、やり残したことを、子どもの人生に乗せてしまいそうになることもある。これは、多かれ少なかれ、誰でも思い当たるのではないかしら。
そんなときに頼りになるのが「心地よさ」という言葉です。
それは心地よいか?
この言葉には、身体性が備わっている。頭で考えたことではなく、自分の内側から生まれる感情や感覚、直感に照らし合わせて答えを教えてくれる力があると思っています。
本当はそうしたいのに、頭で考えるとそうしたいと言えない、そうしたいと思えないことって結構あって、「正しさ」の軸からアプローチするとたどり着けないことも多い。
たとえば、仕事を辞めたいと思っているけれど、今やめたら迷惑をかけてしまうとか、無責任だと思われてしまうとか、色々な理由で「辞めない」ということに決める。もやもやしたりするけど、やめない理由を探すことは簡単で、やっぱりやめないほうがいいんだ、続けるべきだ、と頭では思うのに、すっきりしない。間違ってはいない、と自分を納得させる。
でもそんなとき、「今の状態は心地いいのか?」と自分に問うと、心地いいと言えない。ってことは、何か違うんだ、って気がつける。
そんなエピソードに沢山出会って来ました。
我慢しようと思えばできる、そのほうが得、みんなのためになる。「正解」であることを証明するための色々な理由は探すことができても、心地よいと思えないことを心地よいということって、結構抵抗があるんです。
心地よさとは、嘘がつけない。
そして、誰かのために使えない、自分のためだけに使う言葉。自分主語でしか使えない言葉。だから、「それって心地いい?」という問いは、最終的に自分がどうしたいのかを問うときに、威力を発揮します。
コミュニティや組織のマネジメントにおいても「心地よさ」を軸とする
Polarisは、「心地いいかどうか」を事業の中の判断軸としても使います。
担当している仕事が負担だなと思った時とか、上手く自分が組織にはまっていないんじゃないかと思うときとか、クライアントからの要望や反応にちょっとモヤっとするとき。
そういう時、「それって心地いいのか」で考えてみると、理論武装が解除されて、自分の気持ちや自分たちの感覚、美意識みたいなものがふわっと見えてきたりするものです。
それこそが、「自分らしさ」であると思うのです。最近聞くようになった言葉で表現すると、「オーセンティック」。自分の中心、真実に根差したものに、「心地よさ」はつながっている。
何かモヤっとするとき、ムズカシイ決断をしないといけないとき、迷っているとき、「今は心地いいか」「その選択は心地いいか」と質問してみてください。
もちろん、具体的な方法論をもって行動していくことも同じように重要だし、心地よくないならすぐやめればいい、というわけでなく、「自分の快・不快がどこに根差しているのか」が分かるだけで、ずいぶんその後の考え方や行動が変わっていくと思っています。
今は心地いいと思えていないけど、心地よいと思うためにはこうできたらいいな、と落ち着いて受け止められるような辛抱強さ(ネガティブ・ケイパビリティ)が得られたり、、この部分はやっぱり大事だから死守したいけど、他はそこまでこだわらなくてもいいなといった、寛容さや柔軟さを獲得するきっかけにもなりえます。
「心地よさ」という価値判断の軸は、大事なことを教えてくれます。
やらないことを決める、手放すものを選ぶのにもとてもいい。私たちは、劣後順位って意外とつけられない。
それに、誰かの「心地よさ」に根差した決断って、周囲の人にとっても受け止めやすかったり応援しやすかったりするんですよね。利害が対立したとしても、歩み寄ったりすり合わせたりできる。愛着と尊重があるからなのかなあー。
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