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初めての場所、知らない道。見たことのない京都をZINEにする|龍崎翔子 #4

ポーラ「WE/Meet Up」主催の、たった一人の読者ゲストを招待する特別な場。今回は、HOTEL SHE, KYOTOなどを運営するホテルプロデューサーの龍崎翔子さんがホストとなり、ゲストとチェキを片手に京都の街をめぐります。そして撮った写真、聞いた話をもとにZINEを制作します。京都に住んでいた龍崎さんと、京都が大好きで何度も訪れているゲスト。その二人が新しく発見する京都の魅力とは。そしてコラボレーションで生まれる世界で一つのZINEは、どんなものになるのでしょうか。

アイスを食べて、ミステリーツアーへ

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よく晴れた、初秋の京都。9月とは思えない暑さのなか、今回の読者ゲストである金子亜寿沙さんがHOTEL SHE, KYOTOに到着しました。現在、東京に住む金子さんは京都が大好きで、2ヶ月に1回訪れていた時期もあるほど。大学時代は大阪に住んでいて、そのときもよく京都に来ていたそうです。そんな金子さんは今回、何度も訪れた京都の違う一面を見つけ出したいと、このMeet Upに参加してくれました。

初対面で龍崎さんが目に留めたのは、金子さんのピアスです。金子さんは、ハンドメイドのアクセサリーを作るのが趣味だそう。この日つけていたのは、透明なアクリル板を自分で紫に染めて作ったピアスでした。アクセサリーの話から仕事の話などにも広がり、二人はあっという間に打ち解けていきました。

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まずは今回の撮影に使う「チェキ」(ポラロイドカメラ)をセットします。説明書を見ながら電池とフィルムを入れて、まずはお互いをパチリ。なかなかいい写真が撮れました。
今日はこのチェキを持って、京都の二条や九条のあたりをめぐり、取材・撮影をします。それを、翌日ZINEとしてまとめるのです。Meet Upの内容にZINEの編集を選んだ背景には、龍崎さんのホテルづくりへの思いがありました。

「ホテルをつくるときは、まずその街を調べ、自分たちなりに解釈します。そして、トレンドなどに合わせた形でホテルとして再構築する。一緒に街を歩いて、出会った物事、感じたことをZINEとして表現するのは、そのホテルづくりの過程に近いんじゃないかと思ったんです」(龍崎さん)

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HOTEL SHE, KYOTOのアイスクリームパーラーで腹ごしらえをして、早速取材ツアーに出発。HOTEL SHE, KYOTO周辺を散策したのち、ロケバスに乗りこみます。今回のツアーは、龍崎さんがホテルのメンバーと選定した7箇所をまわります。金子さんはどこに行くのか知らされていない、いわばミステリーツアーです。

素敵な「旅籠屋」と偶然の出会い

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最初に到着したのは九条通り沿いにある「京都みなみ会館」という映画館でした。ここは2019年夏にリニューアルオープンしたミニシアターです。龍崎さんも、リニューアル後に訪れたのは初めてとのこと。しばし二人で撮影をします。
「京都みなみ会館」は、いわゆる名画座。オールナイト上映などもあり、京都の映画好きにとってはなくてはならない場所です。この日は特別に、入れ替えの時間にスクリーンの観客席にも入らせてもらえました。

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次は崇仁新町に移動します。ここは人口が減ってしまった崇仁地区に作られたコミュニティスペースで、期間限定の屋台村になっています。
屋台村といえど、どの店も京都の人気飲食店が運営しているため本格的。ミシュランガイドでビブグルマンに選ばれた店のホットドッグスタンドなど、味自慢の店が16店並びます。

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なかでも二人が目をつけたのは、「ちょぼ焼き」のお店「やきやき崇仁新町」。ちょぼ焼きは、たこ焼きやお好み焼きのルーツとも言われている食べ物で、崇仁地区には昔からちょぼ焼きを扱う専門店があったのだとか。陽気な女将さんがちょぼ焼きを焼きながら歴史を語ってくれ、二人は話を熱心にメモしています。
そんな崇仁地区のソウルフードを、ライムサワーと共にいただきます。味はもんじゃ焼きに似ているけれど、たくあんやちくわ、こんにゃくなどが入っていてユニーク。駄菓子感覚でぱくぱく食べられます。

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お腹も膨れたところで、次の二条エリアへと出発です。途中、バスが路地を通っていると、「ひばり」と書かれたのれんを発見。入ってみることにしました。
地面には、金属片でできた鳥の足跡が続いています。入り口をのぞいてみると、奥にはカウンターが。どうやら宿のようです。

そして中庭に面したスペースには、本が並んだガラス張りの離れがあります。あまりに素敵な建物を発見し、龍崎さんも金子さんも興奮気味です。ちょうど店主さんがいらっしゃったので、お話をうかがうことにしました。

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ここの名前は「旅籠屋 ひばり」。1933年(昭和8年)に建てられた京町家を改装し、2017年にバリアフリーの宿として生まれ変わらせたそうです。離れは「旅耕社」という古本・古道具の店。町家のあたたかさとモダンなセンスがうまく混じり合い、とても心地よい空間が広がっています。金子さんは「今度京都に来たときは、絶対に泊まってみたいです」と目を輝かせていました。

「泊まれる雑誌」にアートホステル。そして標本

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バスの移動中は隣に座り、ZINEの方向性を話し合ったり関係ない話で盛り上がったりしている二人。これまでに撮ったチェキを見て、「わ、これよく撮れてる!」「これは暗すぎかも。撮影モード変えたほうがいいかな」と仕上がりを確認します。

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二条エリアで最初に訪れたのは「マガザンキョウト」。ここはギャラリーであり、宿であり、店でもある「泊まれる雑誌」です。ドアを開けるとそこには、ヒップでクールな空間が広がっています。

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本が並べられた階段を上がると、2階には畳敷きの部屋が2つ。一部屋は、京都の作家の作品や旅に関係するグッズ、お土産などが展示されています。商品の寝袋が試せるのも、ここならでは。ドライフラワーを入れ込んだビニールバッグやタッセルなどがついたおしゃれな便所サンダル「BENSAN」など、独自のセンスで集められた雑貨はどれも魅力的。思わず、サンダルのためし履きをする金子さん。購入はぐっと我慢して、次に移動します。

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路地に輝く、枝を組み合わせたような三角形のネオンサイン。ここは2015年にオープンした、ギャラリーとホステルを合わせた宿泊型のアートスペース「クマグスク」です。訪れたときはちょうど次の展示の準備期間で、中には、オーナーであり美術家でもある矢津吉隆さんの作品が飾られていました。
建物自体もアート作品になっていて、中庭にある青い塀や柱、床に至るまで、京都の作家がリノベーションの段階から関わっているそう。古い日本家屋の趣を残した建物は、不思議と心が落ち着く空間になっています。

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龍崎さんのおすすめポイントは、2階に上がる階段。漆塗りの作家が一段ずつ下地や漆を塗り重ね、漆塗りの工程が実感できるようになっています。一段ごとの変化がわかるように、写真を工夫して撮る金子さん。チェキでの撮影も、だいぶ慣れてきたようです。龍崎さんは「これ、ZINEに使えるかも」とカードやフライヤーを集めていました。

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クマグスクのあとは、鉱物や植物の標本が並ぶレトロな店へ。ここは京都を拠点に、「自然の造形美」を伝える活動をしている「ウサギノネドコ」。古い町家の建具や、緑のあふれる中庭がなんとも素敵です。龍崎さんはスタッフの高橋さんに標本のセレクトや、植物をガラスに閉じ込めた作品について取材しています。

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ショップの横にはカフェが併設されており、「水晶パフェ」なるものを提供しているのだとか。さっそく食べてみることにしました。実物を目にした瞬間、「うわあ、きれい!」と歓声を上げる二人。接写レンズなどを活用して、まずは写真におさめます。
撮影が終わったら、さっそく実食。大きな結晶は錦玉羹(砂糖や水飴を加えた寒天)、細かな結晶はオレンジリキュールのゼリーでできています。「見た目がきれいで味もおいしいなんて!」「いろんな味が一気にする」と感想を言い合いながら、一つのパフェをはんぶんこしました。

歴史ある銭湯が、新たなコミュニティスペースに

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ツアーもいよいよ大詰め。最後は九条に戻り、昭和初期からの銭湯を改装したレンタルスペース「九条湯」を訪問します。路地を歩いていくと、ゆるやかな曲線を描く唐破風屋根の立派な建物が現れました。
店主の猪飼さんが「中央の鏡を挟んで右が女湯、左が男湯だったんです」と解説してくれます。女湯の方は改装が進んでおり、テーブルや手作りのバーカウンターなどもあります。「お風呂屋さんは、もともと地元のコミュニティスペース。一旦廃業した銭湯が、世界の人が集まる場所として生まれ変わったらおもしろいと思ったんです」と猪飼さんは言います。

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男湯の方は、すべての浴槽が残っており銭湯の面影を残しています。二人は「まだなんとなく水の匂いがする」「ここが水風呂だったのかな? ライオンの飾りがかわいい」と探検を楽しんでいます。脱衣所だったスペースにも、鏡広告や扇風機、お釜ドライヤーなど昔懐かしい要素がいっぱい。体重計の単位はなんと「匁」と「貫」。歴史を感じます。宿泊もできるという2階の和室も見学し、龍崎さんは「会社の総会をここでやりたいな」と経営者としての顔をのぞかせていました。

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5時間という長丁場の取材もこれにて終了。外はもう、暗くなりかけています。濃い青に薄くピンクが混じり合ったマジックアワーの空は、HOTEL,SHE KYOTOのキービジュアルのよう。この夜、金子さんはHOTEL,SHE KYOTOに泊まり、明日のZINE作りに備えます。

「良さを伝えたい」という思いがアイデアを生む

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翌日も晴天。いよいよZINE作りの開始です。まずは、前日を振り返り、方向性を考えます。金子さんは写真を見返し、「臨場感がある、その場所の良さを伝えられる写真が撮れたと思うんです。だから、そんなに多くの言葉はいらないかもしれない」と言い、龍崎さんもそれに同意します。
「各場所について、そのページを見たら『ここに絶対行きたい』と思ってもらえるZINEにしたい」と金子さん。1、2ページごとに1つの場所を紹介する構成に決まりました。ネットで見つけたさまざまなZINEや、『WE/』の紙の冊子などを参考に、全体のイメージを固めていきます。

ここから撮った写真を選定し、整理していきます。200枚以上のポラロイドが机の上に並ぶ様は圧巻。いったん、場所ごとに二人の写真をまとめます。
お互いの担当ページを決めると、黙々と作業に入ります。色紙を台紙にしてみたり、オーロラのセロファン紙をくしゃくしゃにして、その上に写真を配置してみたり。場所のイメージを形にしていきながら、候補の写真をマスキングテープで仮止めし、ページ全体のレイアウトを考えます。

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ランチタイムをはさんで、さらに作業を続行。龍崎さんはチェキをカットし始めました。金子さんは、中央に写真を1枚だけ配置する大胆なレイアウトのページを作っています。ロゴをトレースする、文章を台紙に書き写して背景にする、マスキングテープにキャプションを書く……。手を動かせば動かすほど、どんどんアイデアが生まれてきます。

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そのうち、龍崎さんがクマグスクでもらってきたフライヤーを切り取り、コラージュを作り始めました。

「クマグスクって、建物自体の雰囲気は落ち着いているんですけど、展示などのコンテンツは作家さんやオーナーの谷津さんの熱い思いが込められているんですよね。ページを作っていて、あの場所は静けさと燃え上がるような情熱が融合している空間なのだと気づきました」(龍崎さん)

そうして、エネルギッシュなコラージュを静謐さのあるトレーシングペーパーで包み込んだ独創的なページができあがりました。

違う道を通ることで、街の新たな一面が見えてくる

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作業を続けながら、「ひばりの足跡の再現、かわいい!」「龍崎さんの字おしゃれですね」とお互いのページを見て盛り上がる二人。それぞれの担当ページによってテイストが違うところも、共同で創作する醍醐味です。

「写真を見ていると、同じ対象を撮影しているのに、金子さんの方がより美しい構図で撮っていたりする。物事の素敵な切り取り方ができるんですよね」(龍崎さん)

「龍崎さんこそ、どのページもすごい凝っていて、アイデアがいっぱい詰まっています。HOTEL SHE, のどこを切り取っても絵になる空間は龍崎さんのアウトプットする力から生まれているんだなと思いました」(金子さん)

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金子さんは、この体験でさらに京都のことが好きになったと言います。

「京都でも王道の観光地ではない二条と九条が、こんなにおもしろいところだったなんて。またこのツアーのルートをじっくりまわってみたいです」(金子さん)

そして、龍崎さんについては「会ってみると、気さくで、素直で、一緒にいるとワクワクするパワーを持った方でした」という感想が。向かいでそれを聞いた龍崎さんが照れています。

「道中で、龍崎さんと人生相談みたいな話もたくさんしたんです。自分のしていることや思っていることを話すと、新しいアイデアが生まれるんですね。私、こういうMeet Upに応募したのは初めてで。会ってみたい人に会いに行き、思いを伝えることで、自分の世界は変わるのだと知りました」(金子さん)

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龍崎さんも今回のMeet Upを通し、自分の知らない京都を発見したと言います。

「京都は住んでいることもあり、よく知っているつもりだったけれど、普段通る道の周辺しか見えていなかったんだな、とつくづく感じました。通ったことのない道を歩くと、見える景色が大きく変わりますね。京都という街を多面的に理解できた気がします」(龍崎さん)

そして、旅の仕方を見直すことにもつながりました。

「こうやって最後のアウトプットを決めておいて旅をするのっていいですね。しっかり対象と向き合えるし、形に残すことで思い出にもなります」(龍崎さん)

さらには、観光ツアーにZINEを作るところまでをセットにしたサービスを提供するというアイデアも浮かんだそうです。

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今回のZINEは金子さんが東京に帰ったあと、龍崎さんが最後の仕上げをして完成しました。2019年12月からHOTEL SHE, KYOTOで実物をご覧いただける予定です。

初対面の二人で街の魅力を掘り下げ、再発見するZINE作り。Meet Upでの体験を通し、ゲストは会いたい人に会いに行く勇気を手に入れ、ホストは街の新しい見方を手に入れました。
次回はどんな出会い、そして対話の化学変化が起きるのでしょうか。


■納得できるホテルがなかった。だから自分で作った|龍崎翔子 ♯1

■その街にしかないたった一つのホテルを創り出す、龍崎翔子の頭の中|龍崎翔子 ♯2

■ホテルはメディアであり、ドラマティックが溢れている|龍崎翔子 ♯3

この記事は、POLAが発信するイノベーティブ体験「WE/」のコンテンツを転載したものです。ぜひ「WE/」のサイトもご覧ください。
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