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カタンカタン

カタンカタン

遥かから、音が響いてくる。

カタンカタン、カタンカタン

あれは中央線だろうか。

車輪とレールと、ああ、枕木もか。

線路からは、2kmほどあるはずだけれど。

柔らかな心音のような規則正しいリフレイン。

永遠を思わせる繰り返しが、私を満たす。

ああ、私は海に潜っていたのだっけ。

カタンカタン、カタンカタン、カタンカタン

漆黒。

私は耳だけになってしまった。

境界線が怪しい。

私なのか、空気なのか、水なのか。

私は「ぽってりと柔らかなもの」に抱かれているようだ。

音が彼方に消えていく。

残滓。

耳となった私によって、音が、像を結ぶ。

一瞬? 永遠?

軸は溶け、歪む。


……どれくらいたったのだろう。


遠のいてゆく「カタンカタン」が、私の意識に近づいてきたのだ。

それで私は、また私になってしまった。

腰のあたりに、ラグマットの短い毛を感じる。

不自由な物体が、また、私と繋がってしまった。

胸は、上下動を繰り返している。

なんのことはない。

いつも通り私は一日を終え、そして明日を迎え入れるのだ。

トックントックン、ドクンドクン、ドッドッドッドッ

カタン、カタン

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