Steps of Love

君が泣くのを、僕はもう、何回見ただろうか。
君が泣くとき、正しい言葉を見つけて、うまく君を励ますことのできない自分に、僕はいつも、とてもはがゆい思いをしているんだ。

僕に言わせれば、君の好きなやつは、ただのつまらない男だ。君はやつを少々買いかぶりすぎなんだ。やつと友人の僕が言うんだから、間違いない。もっとも、男なんて、たいていは単純で、つまらない生き物だけれど。
もちろん、こんなことを思っている僕だって、ただのつまらない男だということは、自覚している。

でも、やつと僕には、大きな違いがある。
それは、僕なら、君を絶対に泣かせたりしないってことなんだ。


1年前の春から、君に片思いをしていた。
サークルの男連中の間では、正直な話、君の人気は中の中あたりだった。


だから安心していた、って訳ではないけれど。僕は、なかなか気持ちを伝えられずにいたんだ。


その年の夏休みがあけると、驚いたことに、君は何だかきれいになっていた。
僕が実家に戻って自動車免許取得に燃えていた頃、やつは君を映画や食事や園地や花火大会に誘っていたことをあとで知った。
君の気持ちがやつに傾いていく様子を、僕はただ見ていることしかできなかった。


後悔先に立たず。


改めて、僕はその諺の真理を学んだような気がする。受験勉強をなまけて第一志望の大学に落ちたときだって、これほど打ちのめされなかったっていうのに。


学園祭の準備で追われていた9月初めのある日。僕は偶然、君が一人で泣いている場面に出くわした。
君は人気のない実験棟の階段に座り、携帯電話を握り締めていた。
僕は気づかない振りをすることに失敗し、君は照れ隠しのつもりか、
「喧嘩しちゃいました」
と聞いてもいないのに白状した。

誰と、なんて聞かなかった。
他愛もない、いわゆるのろけの裏返しのようだった喧嘩の理由が、だんだん深刻に聞こえてくるようになったのは、いつ頃からだろう。


そして。今年の夏休みが始まる少し前、とうとう君はやつと別れてまった。
どちらから切り出したのだろう。やつは今もそのことには何も触れない。
やつはつまらない、ただの男だけれど、そういうところは男らしいんだ。


・・・そして今日、僕は一つの決心をした。

いつもはかかってくるのを待つばかりだった、君の電話番号。
スマートフォンのディスプレイをそれこそ穴が開くほど長い間見つめてから、大きく息を吸い、僕はコールボタンを押した。


誘っておきながら、君とうまく話もできない自分に、僕はつくづくうんざりしていた。
やつの話題に触れないようにすればするほど、僕と君との間には、話題がほとんどなくなってしまうのだ。
それなりに大規模な市の花火大会。シチュエーションは悪くなかったはずなのに。
夜空に次々打ちあがる花を、実験棟の屋上から、僕達はただ黙って見ていた。


時々、ひときわ明るい花火が、一瞬だけ、君の横顔を照らす。
君は微笑みながら、花火に見入っている。


君がその花火に何を思っていたのかは、分からない。
ただ僕は、君の泣き顔よりも笑顔が見たいと思った。
僕の気持ちを打ち明けるタイミングは、今日はないかもしれない。
でも、まあいいか。

とりあえず今は。
君を笑顔にする、この花火大会がいつまでも終わらなければいいと思った。

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近づけそうでなかなか近づけないふたりの距離と、でもお互いを受け入れている優しい気持ちを円に見立てて。タイトルは私の好きなアーティストの曲のひとつです。

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