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湾岸線 side B

私は助手席の窓に写った彼の横顔を見つめている。
彼は、何かから逃れようとするみたいに、さっきから車線変更を繰り返している。
スピードメーターの針は100キロを少し越えた辺りを指していて、私は少し怖い。

この道を、何度彼と通ったのだろう。
青い小さな光がガラスに映ったかと思うと、その点はみるみる大きな観覧車へと形を変えてゆく。
何度、彼とこの観覧車を見ただろう。

今日の観覧車は、青く光っている。
青いイルミネイションは、明日の天気が雨だという予報。

赤は晴、緑は曇、青は雨。
そう教えてくれたのも、彼だった。
あの時の彼は、いつも私の目を見て話してくれていた。
私はそんな彼の言葉を、一つも聞き逃さないように、全身を傾けて聞いていた。

初めてこの観覧車に、彼と二人で乗った日のことを、私は今も覚えている。
それまで饒舌だった彼が、キャビンの中では急に黙り込んでしまい、私達は何となく気恥ずかしい沈黙の中で、ただ夜景を見ていた。私たちの乗ったキャビンが頂上につき、ゆっくり下降を始めた。それまで向かい合って座っていた彼が私の隣に移動して、それからためらいがちに、私にキスをした。

そういえば、あの日の観覧車も、青い光を放っていた気がする。

どうしてこんな風になってしまったのだろう。いつから私たちの心は通い会わなくなったのか。
何度考えてみても、理由が分からない。
どんなに問いかけられても、答えようがない。
私は黙り込むばかりで、やがて車内は重苦しい沈黙に包まれる。

「お腹すいてない?」
唐突で、とんちんかんな彼の問いかけにも、もう笑うことも怒ることもできなかった。

観覧車がちょうど真横にきたとき、一瞬だけ彼がスピードを緩めたような気がした。
でもそれは本当に一瞬のことだった。
みるみる後方に遠ざかっていく観覧車を、私は目で追うこともしない。
振り返りも、しない。

あの時の二人を、置き去りにしてきたような寂しさから逃れたい一心で、私はかたく目を閉じた。

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