003「異邦人」 著者:アルベール・カミュ 訳:窪田啓作

われわれはすべて死刑囚なのだ、と彼は言った。(p148)

 第一部はムルソーにとっては日常生活の延長線上に思われた。ページを捲る度に彼の思う世間への不和はどんどん色濃くなっていく。少しずれた彼らの交流は防空壕のようなものなのかもしれない。困ったことに、世間は少しでも違うと排除したくなる性質を帯びているらしい。私は排除されていた側の人間だった。中・高で感じた居心地の悪さ、馴染めなさはきっとこのせいだったのだろう。ある程度の距離を置いた今だからわかるのかもしれない。

 そういえば異邦人について文章を書く機会があった。私の考える異邦人というのは、誰しもが抱えうる鬱憤を目に見えた形で発散している人である。芸術家や作家は自分の考えや世間への不和、性癖などを赤裸々にかくひともいる。それがそうなのだと考えた。少し違えば、お気に召されなければ糾弾される。それが異邦人。うまく適応すれば芸術家。アーティストとして受け入れられるのだろう。


あの大きな憤怒が、私の罪を洗い清め、希望をすべて空にしてしまったかのように、このしるしと星々と満ちた夜を前にして、私ははじめて、世界の優しい無関心に心をひらいた。(p156)

 目立つのが嫌いだった。ただ、自分の好みを貫くと、目立ってしまうことに気が付いた。それでも私は好きなものを貫きたかったので、目立つことを受け入れた。ただ、好きなものを貫ける幸福とは裏腹に、標的になる不幸が待っていた。学校という狭い社会では、皆が見慣れるのも早く、「そういう子」として、皆から無関心でいられることに大層居心地の良さを覚えた。無関心であってほしい。私は好きなことをしていたい、ただ、だれにもかかわってほしくない。別に実害は与えていないのだから、放っておいてほしい。

 他人を攻撃して自分の足りない自己肯定感や、自己満足を満たさないでほしい。自分の平穏を守らないでほしい。ばかばかしい。そう批判してても、傷つくのは事実だから。頼むから静かに暮らしていたい。

 だからムルソーの気持ちは何となくわかる。人と違う感情を抱いただけで排除されてしまうのは気に食わない。でも抵抗するとまたたたかれる。でも、それでも普通に迎合はしたくない。相反する気持ちがあるけれど、好きなものを貫いて生きていたいと思う。そのほうが死ぬときに満足できると思う。


三千世界の鴉を殺して、安眠したい。


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