二階から目薬。三階ではだめなのか?
ラジカセから流れるさだまさしは君への愛を確かめてた。
「梅干しは蜂蜜入りが美味しんだよ。」
「そんなはずはないね。紫蘇の香りの邪魔をしているだけではないか。」
春先に香る花粉の匂いはただの生命活動に過ぎないように、僕らのやりとりも生命活動なのだ。
「喉にもいいんだよ、蜂蜜。」
謳われた文句はすでに一般常識と化している。そしてこのやりとりは既に耳にタコだ。
「寒いね」
「そっちは雪でも降ったのかい」
「ううん、まだ。そっちは。」
「まだ。だけど盆地は底冷えするからね。朝が辛い。」
意味はない。根拠もない。そんな会話が空腹を満たした後のように体を整わせる。そして物理的な距離を社会が突き立ててくる。
「そうだ、今度旅行に行こうよ。」
君には敵わない。だからこそ着いて行きたくなる。暖かい道。決して暖房のような機械的な乾いた空気ではない。温もり。
さだまさしは想い馳せる人の故郷の交差点に立ち、彼女を探していた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?