こどもごころ
やばい、かなりやばい。
自転車を漕ぐスピードが上がる。
今日はゆっくりとした休日なはずなのに。
帰路でトイレに急かされる。
音楽を口ずさみ意識を遠のかせる努力はしたものの無意味に近い。
それなのに、今日はいつも通らない道を通ってみたくなった。大丈夫、家までの最短距離は変わらない。そんな時にこそ出会いはやってくる。
軒下のオレンジライト。家の前にまで溢れた本たち。手書きの看板。木にマジックで書かれた子どもの文字。
ふーん、。寄ってくか。
「たまに子ども店員がいます。探してみてね」
と書かれた木に目を通しながら6畳程度の店内を物色する。絵本、写真集、古雑誌、戦争録とある中で、沖縄に関する一角が1番大きかった。
沖縄の美容室
僕が旅行した時には見れなかった、地元のための地元床屋で働く店主と地元のジジババたちが写真に映っていた。
現地って言葉に弱い。そして強烈な熱い香り。
買うか。いや他のもいいのがあるかもしれない。迷うな。
ガラガラガラ
タダイマー‼︎‼︎
ウンチー‼︎‼︎‼︎
子ども店員だ!!!!!
本で敷き詰まった店内を、僕の足元を、まるで気にすることもなく一目散に通り抜けた。
すかさず店内から父店員が謝ってきた。すかさずお迎え母が謝ってきた。
「元気で何よりです(^^)」
元気で何よりだ。それは本当に。
ただ、僕は今、少年の声により猛烈にトイレに行きたいことを思い出させられた。まずいことになった。
これを買おう。そして家にはトイレが待っている。だけど、あの本も気になる。もう少し物色と、、、
👦「おまるって何ー!?」
素朴な質問を父にぶつける子ども店員。
可愛いぜ全く。ただ今はトイレの話題はよしてくれ少年よ。
👨「おまるはトイレだ」
👦「おまるはトイレなんだ!僕知ってるよ、イッカクに刺されたおまる!」
父店員も僕も店内も、暖かい。温かい。
オレンジライトのせいかな、なんて。誰も思わない。
本屋さんは紙の匂いのせいでトイレに行きたくなると言ったのは誰だ。
正しくは、本屋さんの子ども店員にトイレを余儀なくされる。だ。
気がついたらレジにいた。素敵な時間だった。たった10分。貴重な10分。
どーっちだ!!
子ども店員は帰らせてくれない。
一途な眼差しと強く握り過ぎた右手を突き出してくる。
「右かな」
「せーかーい」
あろうことか、トイレに急かされた僕は間違えるという選択肢を選べなかった。
彼の手の中は紙屑だった。
大切なのは正解が何かじゃない。選ぶ時の無言のコミュニケーション。やりとり。過程。子どもはいつも偉大で愛おしい。俺たちの宝だ。
もう僕の膀胱が持たない。
丁寧なお辞儀と共に恥ずかしそうな、それであって嬉しそうな「ありがとうござました」を耳に納め、全力でトイレを目指す。
今日もいい日だったな。
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