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#32 春の草のことなら なんでも知ってる春の土(新川和江)/七草リゾット

せり、なずな、ごぎょう、はこべら、すずな、すずしろ、ほとけのざ。

小学生のとき、覚えなくてはならない呪文のように舌でころがした「春の七草」。実家では1月7日に七草粥を食べる風習はなかったけれども、七草のことは母に教わり、「すずな」がかぶで、「すずしろ」が大根のことだということも知った。かぶ、大根よりもきれいな呼び名だな、と思った。

草のことをなんでも知っている土

1月7日は、七草粥を食べる日。七草は、早春にいち早く芽吹くことから邪気を払うといわれている。そんな日にぜひ読みたいのは新川和江(しんかわ・かずえ)さんの詩。

「せり なずな…(土へのオード13―5)」

せり
なずな
ごぎょう
はこべら
ほとけのざ
すずな
すずしろ・・・・・・
春の草のことなら
なんでも知ってる 春の土

お母さんである「春の土」が、ひとつひとつの草に呼びかけているような一連。せり、なずな・・・と続く名前たちは、季節を春にする魔法のことばみたいだ。つづけて、秋の七草も呼びかけた後、

わたしもなりたい
春秋をゆたかにかかえた
ふところの大きいつちに

で結ばれる「土へのオード※」。
※Ode…人や生きもの、草花などに呼びかける形式で歌う叙情詩のこと 。

新川さんの「けれども大地は」という詩でも、「秋がたえまなく木の葉を降らせてものがたりをする」のを、大地だけが「のこらずすっかり/おしまいまで聞いてやって/母親のようにいちばんあとで寝(やす)む」とある。大地は新川さんの詩の世界において母親の豊かさであり、大いなる優しさなのだ。

七草リゾットをつくる

この詩をイメージして、七草の香りとうまみをしっかりとじこめる芳醇なリゾットをつくる。石川美南さんの短歌にインスパイアされたにんじんの濃厚リゾットと基本的には同じだが、香りを楽しむため、かぶと大根以外は最後にざっと加えるのがコツ。

材料(2人分)
・米 1cup (無洗米でなくても大丈夫)
・にんにく ひとかけら
・春の七草、大根の葉(なくてもOK)
・ベーコン 30g〜
・コンソメ 3g
・お湯 800ccくらい
・白ワイン 30〜50cc(安価なものでよいです) 
・バター 5~10g
・パルメザンチーズ 大さじ2〜
塩、胡椒、オリーブオイル

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作りかた
【下準備】
・大根の葉は細かく刻み、塩をしてしぼる。
・七草、にんにく、ベーコンをそれぞれ細かく刻む
・お湯をわかす。
【調理】
①オリーブオイルをフライパンにしき、にんにく・ベーコンを炒め、大根の葉、かぶと大根をいれてさらに炒める。
②米(洗いません)を足し、お湯(300ccくらい)とコンソメ、白ワインを足す。
★白ワインがお店の味に近づくコツその1
③ときどきナベをかきまぜながら、水分が少なくなったら湯を足していく。
(味をみながら、コンソメを足してOK)
④何粒か食べてみて、アルデンテになっていたらかぶ・だいこん以外の七草を入れてざっとまぜる。(火をいれすぎないよう注意)
⑤塩かげんを見て、バターと胡椒、パルメザンチーズを足す。最後にオリーブオイルをひとまわしかける。
★仕上げのバターとチーズ、オリーブオイルがコツその2

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さいごに加えた七草が、ふわっと香るリゾット。からだの内蔵に感謝しつつ、一年の健康を祈っていただく。米のひとつぶひとつぶが、やわらかに煮えて春のみずみずしい草をうけとめる。ふところの深い、豊かさを育む土壌でありたい、とわたしも願う。

やさしく、すなおなオード

さて、オード(Ode)といえば、イギリスの代表的詩人キーツJohn Keats(1795-1821)によるオードが有名だ。ナイチンゲールやプシュケー(ギリシャ神話に出てくる娘)やギリシアの壷(!)、はたまた「怠惰」に呼びかけて詩を詠んでいる。

好きな人にはたいへん申し訳ないのだけど、個人的に苦手で。
対象を恍惚的に象徴づけすぎているように思えて引いてしまう。たとえば、キーツの「ナイチンゲールに寄す(Ode to a Nightingale) 」は名高い作品なんだけど、

Thou wast not born for death, immortal Bird!
No hungry generations tread thee down;
お前は死ぬべくして生まれたのではないのだ、不滅の鳥よ!
どんなに飢えた世代であろうと、お前を踏みにじりはしなかった。

当のナイチンゲール(鳥)の身にしてみれば「お、おう…」って感じがするのだ。なので「オード」と聞くだけで「ウッ」となる気持ちがあったけど、新川和江さんの作品を読んで、「これは本人(土)もうれしいはず!」とほっとした。とても素直に、おおらかに受け止めることが出来るオード、実はめずらしい(ちなみに、水と火へのオードもある)。詩人のお人柄かな。

新川和江さんについてはこちらの記事もどうぞ。


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