![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/58262249/rectangle_large_type_2_980f43af1e37865e1ffabbe4b2179325.jpg?width=1200)
水の生命表現とは──『カオスの自然学』を読む
今回は、『カオスの自然学』(テオドール・シュベンク、赤井敏夫訳、工作舎、1986)から引用して、「水が生命を表現する」様子を見てみます。
まず、モノクロの図版が80点あります。
水の流体運動を撮ったものや古代・中世の彫刻の写真が並びます。
上は静止した水面に水滴を落とすと、星型が出現するところ。
ケルト文明の石柱。
ギリシア文明の石碑。
(すっと背の伸びたまっすぐな立ち姿は、どこか宮本武蔵の立ち姿を思わせます。)
水はあらゆる状況において、球型の形態をとろうとする傾向をもつ。
自然の水の流れを観察すると…略…水はけっして一直線に流れることはない。それゆえに、この「蛇行」は水本来の特性なのではないだろうか。
また、生物についても水との境界が測られます。
たとえば滴虫類はほんのわずかに固体化しただけの生物であって、周囲の水とほとんど区別することができない。
このあたりで、球と蛇行のほかに、「螺旋」を描く性質があることも示されます。
さて、水の形状はそのようですが、次は、それを生み出す内的な力についてです。
それぞれの水のもつ固有の性質は、この水から生じ多彩な調和(ハーモニー)と律動(リスム)をおりなして振動する波にあらわされている。
おのおの水の固有振動は、月の軌道および潮の干満によって生ずる力と、著しい共鳴関係にある。
ここで水は、宇宙と地上をつなぐものと考えられます。(著者は、ルドルフ・シュタイナーを土台に考察しています。)
その例として、カリフォルニアのワカサギについて、やや神秘的な生態が書かれます。
ワカサギは満月の三日後、潮がもっとも高くまで満ちてくるときまで、海岸近くに待機している。そして最後の、もっとも高い波に乗ってようやく岸に到達する。
ここで産卵と受精が起こります。四十日後には潮は、砂浜の上のワカサギの卵に達するのですが、その直前に孵化するのだそうです。
だから、卵は潮に流されずに済むと。
律動とはまさに水の<生命要素(レーベンスエレメント)>であり、したがって律動的に活動すればするほど、そのもっとも奥深い本性において生命に満ちあふれるようになる
律動がなくなり、波も蛇行もなくなれば、水は死んでしまう、とのことです。
これは、人間もそうかもしれません。日々の生活から精神の活動まで、リズム(律動)が活発であるほど、活き活きとするように思えます。
翻訳の元は、"Sensitive Chaos"という英語の本のようですが(重訳でしょう)、ドイツ語の原著は "Das Sensible Chaos" シュトゥットガルトで1961年に出版されています。
このタイトルは、詩人ノヴァーリスの言葉から取られているみたいですね。
詩の図書館の運営に当てます。応援いただけると幸いです。すぐれた本、心に届く言葉を探します。