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水の生命表現とは──『カオスの自然学』を読む

今回は、『カオスの自然学』(テオドール・シュベンク、赤井敏夫訳、工作舎、1986)から引用して、「水が生命を表現する」様子を見てみます。

まず、モノクロの図版が80点あります。

水の流体運動を撮ったものや古代・中世の彫刻の写真が並びます。

上は静止した水面に水滴を落とすと、星型が出現するところ。

ケルト文明の石柱。

ギリシア文明の石碑。
(すっと背の伸びたまっすぐな立ち姿は、どこか宮本武蔵の立ち姿を思わせます。)

水はあらゆる状況において、球型の形態をとろうとする傾向をもつ。
自然の水の流れを観察すると…略…水はけっして一直線に流れることはない。それゆえに、この「蛇行」は水本来の特性なのではないだろうか。

また、生物についても水との境界が測られます。

たとえば滴虫類はほんのわずかに固体化しただけの生物であって、周囲の水とほとんど区別することができない。

このあたりで、球と蛇行のほかに、「螺旋」を描く性質があることも示されます。

さて、水の形状はそのようですが、次は、それを生み出す内的な力についてです。

それぞれの水のもつ固有の性質は、この水から生じ多彩な調和(ハーモニー)と律動(リスム)をおりなして振動する波にあらわされている。
おのおの水の固有振動は、月の軌道および潮の干満によって生ずる力と、著しい共鳴関係にある。

ここで水は、宇宙と地上をつなぐものと考えられます。(著者は、ルドルフ・シュタイナーを土台に考察しています。)

その例として、カリフォルニアのワカサギについて、やや神秘的な生態が書かれます。

ワカサギは満月の三日後、潮がもっとも高くまで満ちてくるときまで、海岸近くに待機している。そして最後の、もっとも高い波に乗ってようやく岸に到達する。

ここで産卵と受精が起こります。四十日後には潮は、砂浜の上のワカサギの卵に達するのですが、その直前に孵化するのだそうです。

だから、卵は潮に流されずに済むと。

律動とはまさに水の<生命要素(レーベンスエレメント)>であり、したがって律動的に活動すればするほど、そのもっとも奥深い本性において生命に満ちあふれるようになる

律動がなくなり、波も蛇行もなくなれば、水は死んでしまう、とのことです。

これは、人間もそうかもしれません。日々の生活から精神の活動まで、リズム(律動)が活発であるほど、活き活きとするように思えます。


翻訳の元は、"Sensitive Chaos"という英語の本のようですが(重訳でしょう)、ドイツ語の原著は "Das Sensible Chaos" シュトゥットガルトで1961年に出版されています。

このタイトルは、詩人ノヴァーリスの言葉から取られているみたいですね。




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