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河合隼雄さんの『こころの処方箋』より(4)人間関係について

『こころの処方箋』をあちこち「つまみぐい」のように紹介するシリーズ4回目です。

今回は、人間関係を保つ会話について。

うそは常備薬 真実は劇薬
人間関係を維持することは、あんがい難しいことである。
(一般にひとは)適当なうそを上手に混じえて、人間関係を円滑にしている。しかし、そのような常備薬としての「うそ」も、いつもいつも用いていると、中毒症状がでてくる。

お世辞ばかりで、会話がしらじらしくなり、周りも不愉快になるというのです。

中毒症状に陥らぬためには、われわれはここぞというときに、真実を言う練習をしておかねばならない。しかし、真実は劇薬なので

慎重に使う必要があります。他人を非難するのにも、

うそが混じっている間はまだ安全である。その人の真実の欠点を指摘するとき、それは致命傷になる。

それを言ってしまって、

人間関係が壊れてしまった経験をお持ちの方は、多くおられると思う。

ところで、欧米人は

「うそ」を非常に嫌うので、うそでも真実でもない表現をするのが上手なことに気づく。

たとえば、下手な歌を聴いても「下手ですね」と言わず、「上手ですね」とも言わず、「心がこもっていましたね」というように。

とはいえ、結局は、この方法も一辺倒だと飽きるので、うそや真実をときには混ぜて「さじ加減こそが大切」と河合隼雄さんはまとめます。

どっぷりつかったものがほんとうに離れられる

続いて、また人間関係の話です。

A子さんは人間関係のしがらみから自由であろうと、ひたすらに心がけて生きてきました。

うっかり他人に頼ったり、世話になったりしないことが大切と考えた。

ところが、あるとき、頼ったことがないはずの母親のひと言に強く動かされ、ある恋愛が一気に冷めてしまいます。

このような例はあんがいに多い。
表面的には自立しているように見えても、深いところではひっついていたり、ともかくべたべたとひっつくことを期待していたりする。

そうならないためには、人間関係でも趣味でも、一度どっぷりとつかってみるとよいようで、すっと離れられるようになるそうです。

ただし、「どっぷり」のときに「溺れる」可能性があり、これは危険です。だから、「溺れ」そうになる恐怖を感じながらも、「どっぷり」経験を持つことが大切、という結論でした。

以上、ふたつの話を紹介しましたが、最後は「微妙な塩梅(あんばい)」「さじ加減」の問題ということで、答えのない、妙味を見せるエッセイでした。


『こころの処方箋』河合隼雄 新潮文庫 1998



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