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ショートショート 不愉快の連鎖を止めたひと言

スーパーでも病院でも、空いているであろう時間めがけて行くのに、着いたとたん続々と人が集まりだすことがある。
ガラガラの時もあれば、混みだすといっきに人が押し寄せる、混雑の波は予測不能。混雑の波に法則があればいいのに。あと何分したら混むってわかれば心づもりもできるのに、いや知らない方がましか。
そんなことを考え始めたとたんに混雑の波が押し寄せた。今日は朝から来客が多い。

私の仕事は受付兼事務処理。来客が持ち込む申請書類を受け取って処理をしたり、担当部署へ取り次いだり、とにかく来客の様々な要望に合わせて対応する仕事。3人が受付を担当し3人が裏方の仕事をする。
これだけ人数がいても行列ができると天手古舞。後に回せる処理はおいておき、とにかくこの波をさばいていく。

私の隣にいるのは入社半年のスタッフ。人の波とハイペースに消耗して息絶え絶えといった感じ。後回しでなく、客が帰るまでに今、処理すべきことがたまっていき、とうとう私に頼んできた
「これ、入力やってください」
手に持っていた書類の束から半分を私に差し出した。
「これ全部?入力するの?」
すぐやらないとだめなものばかり、よくもこれだけためたものだ。
すると彼女はふてくされた。心のこもっていない「すみません」のひと言が返ってきた。
不愉快だ。何なのこの態度。手伝いたくないなと思った。
自分の仕事を優先していると、わからない点があり先輩に聞いた。
まわりくどい説明だったのでイライラしてつい強く言ってしまった
「わからないから、どう処理をしたらいいかを聞いてるんです」と。

その先輩は一瞬、顔がこわばった。きっとカチンときただろう。そしてこう思ったはずだ「なにその言い方。教えてあげているのに」

その後、その先輩は自分の仕事に戻ったが
どう処理していいかわからないことがあり、課長に相談していた。すると課長が
「そんなこともわからないのか」と一喝。

そんな言い方しなくてもいいのに、と傍で聞いていて思った。いつも強気の先輩ははたしてどう反論するか、興味津々で見ていると、先輩は動揺した様子もなく、素直に「申し訳ありません。わからないので教えてください」と言った。

混雑の波にのみこまれて誰もがイライラやストレスを感じ、それを人にあたって発散し、人を不愉快にしていくというループの中で、その先輩の詫びの一言で不愉快の連鎖は止まった。

課長に怒られてかっこわるい、ではなく
課長に怒られたのに潔くかっこよかった。

年を重ねたり、経験を重ねるうちに、やらなくなっていくことってある。
自分の非を認めること、あやまること。
いくつになっても素直な心でいるって素敵だな。


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