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穴の中の君に贈る #毎週ショートショートnote

せっせと穴を掘る彼女に僕は聞いた。「何でそんなの掘ってるの?」「いや、私が死んだらさ、この穴に埋めてほしいんだよね」彼女はさも当然のように返す。「え、何?死ぬ予定でもあるの?」「うん、私はもうすぐ死ぬよ」「は?」一切躊躇わずされたカミングアウトから伝わる確かな覚悟、嘘ではないと直感で理解した。

「…そっか。で、もうすぐ死ぬってのに穴なんか掘ってるわけ?てか、日本は火葬でしょ」「そうなんだけどさ、何て言うか土になりたくて」「何それ」「私は地球になるんだよ」ロマンチストかよ、とは言わなかった。

その三日後、彼女はあっさり死んだ。不治の病に罹っていたことはその時知った。彼女の遺書には死体は僕に譲渡すると書かれていた。ただの幼馴染の僕に。何で僕なのかは書かれていなかった。

「お前はさ、地球なんて大層なやつじゃないよ」約束通り彼女を穴に埋める、一つの苗木とともに。「…僕も大概ロマンチストだな」また春に会いに来るよ、さくら。(409文字)

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