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海外SaaS企業ニュースで見る最新業界動向(Slack, shopify, Zoomなど)

本記事は、#SaaSLoversというバトンブログ企画の21日目の記事です。

2019年はユニコーンSaaS企業だった名刺管理のSansanやクラウド会計ソフトのfreee(フリー)が上場し、日本国内でもSaaS業界により注目が集まった年でした。

一方、Salesforce(セールスフォース)、Slack(スラック)、Atlassian(アトラシアン)、shopify(ショッピファイ)など、巨大なSaaS企業が海外には多く存在しています。

また、日本のSaaS企業でも、より先を行く海外SaaS企業をベンチマークにしていると聞くことがあります。

今回はSaaSの先端を行く海外SaaS企業サイトのニュース・プレスリリース記事(2018年1月〜2020年3月)から業界の最新動向を考えていきます。

調査対象とした海外SaaS企業

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今回調査した6社(Datadog:データドッグ、okta:オクタ、shopify、Slack、Zendesk:ゼンデスク、Zoom:ズーム)は、いずれも上場しており、企業サイトに適度な量のプレスリリース・ニュース記事が掲載されている海外SaaS企業を選びました。

Slack、shopify、Zoomなど、日本でも比較的馴染みのある企業ではないでしょうか。(Salesforce、Atlassian、Dropboxなどは記事内容の粒度が合わなかったり、動向がつかみにくそうだったため、今回は割愛しました。)

調査した海外SaaS企業サイトのニュース記事数

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’18年、’19年の記事数は各社とも20件前後に固まっており、比較的均等に評価できそうです。’20年の記事数は各社ともまだ少なく(Slackは0件)、参考レベルになります。

また、決算レポート関連の記事は今回の対象には含めていません。

【調査した各社のニュースサイトURL】
Datadog
okta
shopify
Slack
Zendesk
Zoom

海外SaaS業界のニュース動向

まずは全体的な動向を見るため、今回対象としたSaaS企業のニュース記事に出現するキーワード出現率を調べました。キーワードはNLTK(Natural Language Toolkit)を使い、名詞(固有名詞含む)、動名詞(動詞の現在分詞含む)に分類された単語のみを抽出しています。

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ニュース記事のタイトルに出てくるキーワード出現率は、「customer」「Cloud」「platform」「management」「integration」などが比較的高く、SaaSの特徴を表していそうです。

また、’18年から’19年に向けて、「experience」「security」の出現率が上昇しており、注力度が上がってきているのかもしれません。一方、「enterprise」がやや減少しています。

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ニュース記事本文では、「customer」「experience」「security」「technology」などが定常的に上位にランクインしています。SaaSにおいて、顧客体験、セキュリティ、技術力がサービスの基盤になっているとも考えられるのではないでしょうか。

また、「enterprise」は’18年では3番目に出現率が高かったのが、’19年では出現ランクを落としています。逆に「cloud」「platform」「partner」などのキーワードは出現率が増加してきています。

これは各サービスの企業向け認知度が上がり、わざわざPRする必要がなくった一方で、プロダクトをより強いプラットフォームへと育て、ビジネスパートナーとも連携することで、海外なども含めたより広いマーケットへ展開していこうと考えている表れなのかもしれません。

それでは続いて、SaaS企業各社のニュース動向を見ていきます。

Datadog

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Datadogのニュースタイトルには「monitoring」「log」「analytics」など、システム・アプリケーションの監視&分析サービス特有のキーワードが上位にきています。

’18年と’19年を比較すると、’18年に上位にあった「performance」「infrastructure」「APM(Application Performance Monitoring)」などサービスの基礎機能的なワードが’19年には下がっている印象を受けます。

一方、’19年は「integration」「platform」「Azure」「Amazon」「IBM」など、他サービスとの統合・連携によるプラットフォーム化を匂わすようなキーワードが上位に入っています。

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ニュース本文では、やはり「Cloud」の割合が高くなっています。また、’18年から’20年にかけて「security」の使用頻度が徐々に上がってきており、安全性を訴える動きが高まってきていると思われます。’19年は本文でも「integration」「platform」「Amazon」「Azure」の使用頻度が上がっています。

’20年は新たに「partner」「ISO/IEC」というキーワードが出てきており、パートナープログラムを組んだり、国際標準規格を取得することで、海外展開を積極的に図ろうとしているのかもしれません。

okta

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ニュースタイトルは、oktaのサービスを特徴付ける「identity」「Cloud」「security」「authentication」というキーワードが上位に入ってます。

’19年に伸びてきたワードとしては、「infrastructure」「experience」などが挙げられ、単なる機能やツールとしての役割だけでなく、サービス導入を通した顧客体験を強調しようとしているのかもしれません。’19年に出現率が下がったワードとしては「API」などがありました。

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ニュース本文では、「identity」「Cloud」「security」「authentication」などに加えて、「technology」というキーワードも多く使用されており、技術面を強調したいのかもしれません。また、本文でも「API」が’19年からランク圏外になっています。

shopify

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shopifyのニュースタイトルは、サービスに特徴的な「merchants」「payments」といったキーワードの出現率が高いです。

また、「experience」「platform」といったワードの出現率が’19年に上がっており、ユーザー体験やプラットフォームサービスをアピールしたい狙いがあるのかもしれません。一方、「POS」というワードは’19年にランク圏外になっています。

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ニュース本文は、’19年に「experience」「platform」「marketing」「chat」というキーワードの出現率が増加しています。

’19年に導入ユーザーが買い手とオンラインチャットができるShopify Chatという機能をリリースしているため、chatというキーワードが上昇したと考えられます。shopifyサービスを導入することで購入体験やマーケティング力をより高められ、eコマースに必要な要素全てを包括するプラットフォーマーになろうとしていそうです。

Slack

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Slackのニュースタイトルは、業務コミュニケーションツールに特徴的な「work」「collaboration」「channel」というワードが上位に来ていますが、「communication」ではなく「collaboration」という単語を使用しているのが面白いです。

’19年には’18年でランク圏外だった「productivity(生産性)」が2番目に入っており、Slackがユーザーの生産性向上によりフォーカスしてきていると読み取れます。一方、「enterprise」が’19年にランク圏外になっており、企業でもSlackを使用することが広く浸透してきたため、敢えて強調しなくなったのかもしれません。

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本文では、「work」「channel」に加え、「people」や「time」が上位に入っており、業務効率化することでヒトの時間を節約することを訴えている印象を受けます。

’19年に出現率が増加したワードとして、「employees」「email」「calendar」「mobile」などが入っていますが、Slackとemailやカレンダーを連携することで、従業員の業務効率化を図ろうとしているようです。また、mobile版もより使いやすくすることで、更なるユーザー利便性を向上させようとする狙いなのかもしれません。

一方、’18年にランクインしていた「enterprise」「platform」は、’19年には圏外に落ちています。

Zendesk

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Zendeskのタイトルは、「customer」「support」「experience」「CRM」などがサービスの特徴を表すキーワードとして上位に入っています。

’19年に「partner」というキーワードがランクインしており、提携や連携を強化していこうとしているのかもしれません。一方、’19年に「enterprise」の出現率が下がっています。

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本文は、「customer」「support」「experience」に加えて「data」も入っており、顧客データの有効活用化などをアピールしていそうです。

出現率の上昇ワードとしては、「WhatsApp」「messaging」「conversation」「Amazon」「partner」「platform」などが入っており、メッセンジャーアプリのWhatsAppや問い合わせセンターサービスのAmazon connectなどと連携することで、プラットフォームを強化していると考えられます。

本文でも「enterprise」の出現率は下がっていますが、認知度が高まり、そこまで強調しなくなったのかもしれません。

Zoom

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最後にZoomのニュースタイトルを見ていきます。

出現率の高いキーワードは、「video」「communication」「room」「meeting」などZoomのサービス特徴を示すものが入っています。

’19年に出現率が増加したワードは、「phone」などがあります。「phone」は、クラウド電話システムのZoom Phoneを拡大していく動きの中で出現率が増加したと考えられます。一方、「enterprise」はやや減少しており、企業におけるZoom利用が普及してきたため、積極的なアピールが不要になったのかもしれません。

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本文では、「phone」以外に、「Cloud」「platform」「integration」「security」「experience」などが上昇ワードとなっています。Zoomが普及し、安全性や他サービスとの連携を強化することで、ユーザー体験をより高められるプラットフォームになろうとしているのではないでしょうか。

’19年に出現率が減少したワードとしては「technology」「enterprise」などが挙げられます。

LexRankによるSaaS企業各社の動向要約

次にLexRank(文書の要約アルゴリズム)を用いて、各社の年別ニュース記事要約を3文で抽出してみます。

LexRankでは以下の文の重要度が高く、要約文の候補になります。(詳細はこちら

・多くの文と類似している(比較する文と共通する単語が多いと類似度が高い)
・重要度の高い文と類似している

Datadog

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’19年にAWS App Meshとの連携に関する内容が含まれているようです。また、’20年にはISO、サービス連携、パートナーネットワークに関する内容が含まれており、これらによってサービス拡大していこうと狙っているとも読み取れそうです。

okta

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’18年にはAPIの話題が入っていますが、’19年以降には含まれていないようです。

shopify

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’19年はShopify App BridgeやShopify Paymentsの話題が入ってきています。

Slack

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’18年も’19年もeメールに関する話題が入っており、Slackとしてはプロダクト内に取り込んでいきたいという考えがありそうです。

Zendesk

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’19年はZendesk SunshineやWhatsApp連携の話題が含まれています。

Zoom

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’19年以降はZoom Phoneの話題が多くなっています。

Doc2VecによるSaaS企業ニュースの類似度比較

最後にDoc2Vec(文書のベクトル化)によって、各社の動向類似度を考察できないか試してみました。少し乱暴な方法ですが、各社のニュース本文を年別にまとめて類似度比較しました。

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数字が1に近いほど文書間の類似度が高いということになりますが、やはり年が変わっても各社ともに自社のニュース本文の類似度が高い結果になっています。

他社同士の比較では、以下の動向がそれぞれ比較的類似度が高くないっています。(類似度が0.38以上のもの)

・oktaの’18年動向とZoomの’19年の動向(oktaの’19年動向との類似度は下がった)
・shopifyの’18年および’19年動向とZendeskの’19年動向(shopifyの’19年動向との類似度の方が’18年より0.1pt高くなった)

こういう視点で見ることで、分野の違うサービスでも事業やプロダクトの方向性をウォッチしたりする時のヒントになるかもしれません。

まとめ

・今回調査した海外SaaS企業の全体的な動向としては、「customer」「experience」「security」「technology」などが定常的に上位ランクインしており、SaaSにおいて、顧客体験、セキュリティ、技術力がサービスの基盤になっていると言い表していると考えられる。

・’19年に「cloud」「platform」「partner」などのキーワード出現率が増加している一方で、「enterprise」の出現ランクは下がっている。これは、各社SaaSの企業向け認知度が上がり、わざわざPRする必要がなくった一方で、プロダクトをより強いプラットフォームへと育て、ビジネスパートナーとも連携することで、海外なども含めたより広いマーケットへ展開していこうと考えていると推察される。

・文書要約アルゴリズムであるLexRankを用いたSaaS各社の年別ニュースリリース要約も比較的要点をまとめられているようだったが、定型文がある場合、その定型文が選択される傾向が高いので、そういう定型文を除外すると、よりトレンドを言い表すことができるかもしれない。

・Doc2Vecを用いたSaaS各社のニュースリリース間の類似度比較では、oktaの’18年動向とZoomの’19年の動向類似度がやや高く、Zoomの将来の動向を予測する上で、oktaの動向をウォッチするのも一つの手段かもしれない。また、shopifyとZendeskの動向も比較的類似していることから、ECとカスタマーサポートのプラットフォーム動向を予測する上でお互いの業界動向をウォッチすると役立つかもしれない。


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