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しんやの餃子世界紀行 Vol.54

「悔しさが糧になる男」

金曜日の奉還町は静かに始まった。

「奉還町の金曜日は暇なんだよ」

ってともさんが教えてくれる。

確かに、緊急事態宣言下の週末にふさわしいか。

出だしはゆっくり時間が流れる。

この空間に悔しい思いをした男一人。

安藤遼。

今日のKAMPでDJをやる男。

昼から一緒にいるけど、今日はバリバリ気合いが入ってる。

スタッフの一人としての安藤の顔ではなく、アーティストとしての顔だ。

どんなアーティストでも誰かの目の前で自分を出したい。

「しんやさん、悔しいっす」

気持ちはすごくわかる。
でも、今日に関しては街の流れもある。

「プロのアーティストは何人のお客さんの前だって常に同じパフォーマンスをするし、パフォーマンスがブレる要因が他人のことなんか絶対にありえないよ」

今のメンタルの安藤にとってはかなり厳しい言葉をかけてしまったかもしれない。

でもね、安藤。

本当にそうなんだよ。

でも悔しい気持ちはすごく大切だと思う。
その気持ちがぶつかるアクトができる一日は絶対前に進める一日になる。

少しトゲトゲして荒々しい、まあるい安藤の殻を今日また破って出てくるかもしれない。

だから死ぬ気で回しなさい。
裏から聞いてるよ。

安藤がDJを始め出した頃、脱兎くんがお店に寄ってくれる。

empire coffee以外で初めて会えた、プライベートの脱兎くん。

次の日にあるはずのイベントがこの時世で流れた。

「脱兎のライブ見たかったから5月岡山いたから悔しかったわ」

「でも伸びた1ヶ月分練習出来るんでプラスに捉えますわ」

良い思考。
プラス思考。

ほんとは絶対悔しいはず。

「絶対良いライブするんで」

の言葉を楽しみにしてた。
その言葉の通りのライブをやってくれると思ってた。

延長した悔しさを、ひと月の期間で更に磨いて帰ってくるから期待して待っとけって言われてる。

やっぱり脱兎くんはすげえ。
たまげた男だよ。

ちょっとしか一緒にいれなかったけど、しっかり存在感を残して颯爽と帰る脱兎と、ムッシーのVJを背景にDJ回す安藤の姿が重なってこれまたエモい。

悔しさを糧に回す安藤のプレイと壁に映るムッシーのアートが妙に高まるんだよ、夜が良い感じに更けていく。

その頃にはKAMPも盛り上がり出して、安藤のプレイに磨きがかかりだす。

初めて見た安藤のアクト。
見たことない目、男前やん。

TTrがくる。

良く食うわ、TTr。
その身体のどこにその容量が入るの。

ハイカロが出してる悪魔的カロリーのスーパーハイカロリードーナツ(エイリアンドッツ)とカレーと日式餃子。

食い過ぎやろ、やっぱりどう考えても。

「今日車なんすよ」

「いや飲めや」

と守屋に唆させてビールを飲むTTr。

「今日はウチに連れて帰るけえ」

あの守屋が珍しい。

店も終わりを迎えて、家路に着く安藤。

「楽しかった?」

「はい、めちゃめちゃ楽しかったです」

ちょっと疲れた安藤もまた凛々しい。

また明日も良い音楽頼むね。

TTrと守屋との帰り道。

ラップで売れたいTTrを大人の正論でねじ伏せていく守屋。

違うんだよって悔しそうな顔のTTr。

守屋の正論は、悔しいけど正解。

アーティストが自分に自信を持つのって当たり前。
スタートライン。

みんなその土俵の上から先は守屋の言う正論みたいなものを消化してエネルギーに変えた人間が前に進む。

そのエネルギーは多分今のTTrの耳には重たくて、響きも鈍いかもしれない。

でもいつか必ず行き着く壁の話。

多少酔いながらではあるけど。
不器用ではあるけど。

守屋がするのはそんな近い未来のTTrの話。

家に着いて3人で飲む。

「逆に俺の良いとこってどこっすかね」

良い質問だねえ。

守屋も新谷も3つずつ。
TTrの良いところを上げる。

人に自分がどう見られているかってステージの上の自分をオーディエンスがどう見てるかと同義。

今のTTrが大きく化けるために必要な会話だった気がする。

TTrはまだまだ先に進まないと、上に登らないといけない男だからこそまだ焦っても仕方ない。

焦る前にやらないといけないことをやるべき男。

感化されて凛々しいTTrの眼は相変わらず人を殺しそうな目をしていた。

先に寝て、ずっと寝言を言いながら夢と闘う守屋を二人で笑いながら。

今日の濃すぎる男たちの葛藤の夜が終わる。

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