母の味けんちん汁
最近はレシピのサイトがあるおかげで、母親が娘に料理を教える必要がなくなった。
うちの場合だけかもしれないけど😅
でも、祖母から母へ、母から私へ伝わる味が…、
というとすごい料理みたいだけれど、今の季節なら「けんちん汁」の作り方なんかは、もう娘に伝える機会はなさそうで、きもち残念な気もする。
けんちん汁なんて、根菜や豆腐を入れて煮て、醤油で味をつけるだけだから、誰でもできると言やあできる、簡単な料理だ。
でも、子どものころから冬の定番けんちん汁を大鍋に作るのを見てきて、祖母が来たときなんか母との会話を聞くとは無しに聞いていると、ちょっとしたコツみたいなものを話していたのを思い出す。
「大根はな、透きとおるまで炒めよや」
「煮干しは半分に割った方がええなぁ」
「干し椎茸でもええけど、生の方が口当たりがええ」
などなど、けんちん汁だけでもいろんなことを聞いた。
そして私は祖母と母の話から、自分の一番好きなやり方で作るようになっていった。
素材によって、毎回微妙に味が違う。
寒くならないと、大根がいい味を出してくれないことや、包丁で切る豆腐とくずし豆腐では味が違うことなど、けんちん汁で知った。
祖母から私まで変わらないのは、煮干しの出汁と、にごし(お米の研ぎ汁)を使うことだ。
自慢料理と言うにはオシャレじゃない献立だけれど、作っているとき、心の中で母や祖母と会話をしているような気になる。
二人の声が聞こえてきそうなくらい。
五目ご飯や柳川風卵とじなど、私の作ったものを娘の夫は美味しいと言って食べてくれる。
でもあまりに「ザ・田舎の母の味」すぎて、見栄えがちょっと…。
でもこんどけんちん汁を、押し付けで持っていこうかな。
昨夜はけんちん汁を作った。
そのためにあるような大鍋の出番だ。
たくさん作れば、翌日の夕ご飯の準備が楽なのもいい。
今夜はその二日目のけんちん汁だ。
幸い夫も好きだから、大量に作っても残らず食べてくれる。
帰宅した夫が、「おー、けんちゃんか」と言う。
何度言っても、けんちん汁のことを「けんちゃん」と訛って言う。
そんな言葉も一緒に、うちのキッチンが岐阜の山間の台所の匂いになっている。