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知ってしまった以上、もう無邪気ではいられない;「マスク」無き世界で (旅で★深読み)

昨年8月後半の約2週間、マスクのない世界を旅しました。

そこでは、基本的に誰もがマスクレス、列車などでたまに見かけるマスク姿は、せき込んでいたりして、── つまり体調が悪い人がマスクしている、という環境でした。
だから、マスク姿は逆に警戒される気配もありましたが、当時まだ「帰国前日PCR検査陰性」が帰国便搭乗の必要条件だったこともあり、ゴンドラの中など人が密集する場所ではマスクで自衛するなど「安全第一」で過ごしていました。

ある街で4泊しましたが、宿泊先は1階がレストランになったホテルで、そこでの食事は宿泊客のみ15%引き、というおトクな条件でした。

最初の夕刻、さっそく行きました。
観光シーズンでもあり、レストランはほぼ満員 ── 言うまでもなく、店員も客も、誰もマスクをしていません。

私たちのテーブルに注文を取りに来たウェイターは慣れていないようで、料理や飲み物について質問するたびに厨房に問い合わせていました。
「なんだか銀行員みたい ── 場違いなオジサンだね……混んでいるから臨時雇いかな?」
などと言っていると、相方が、
「ねえ、ちょっと、── あの人」
と視線を横に向けました。

フロア係のリーダーっぽい女性が、ゴホゴホ咳をしながら給仕をしていました ── それも、両手に皿を持って、運びながら。
もちろん、マスクなどすることなく、笑顔を作って忙し気に注文を取っていました。
なるほど、ここではマスクをしていたら、むしろ客の警戒を招くかもしれない。

ビールがテーブルに来た後、料理が運ばれるまでにかなり時間があったので、彼女を観察していましたが、体調はあまり良くなさそうで、かなりの頻度で咳をしており、その際は手のひらを口に当てていました ── もちろん、その手で給仕するばかりでなく、おそらくはリーダー格なのでしょう、大きな声で他の店員に指示も飛ばしていました。

「……あの人が担当じゃなくて、良かったね」
でも、よく見ていると、僕たち担当の「銀行員オジサン」も時々咳をしており、かつ、注文を聞き損ねたりして右往左往していました。

「……ねえ、あのオジサンが雇われたのって、混み合って人手が足りなくなったからじゃなくって、この店で体調が悪い人が複数出たから ── クラスターが発生したからかもよ」

それにしても、「ゴホゴホお姉さん」が近くにやってきても他の客は平気なようでした。当時、その国でも結構な数の患者が発生していたにもかかわらず、です。

「ねえ、この店、ヤバいよ」
── 結局僕たちは残り3日間、そのレストランには近づきませんでした。

(それにしても、あの店にいた他の客と、僕らの違いは何なんだろう? ── こちらが神経質なのか、かれらが無知なのか?)

**********

マスク着用が3月13日から個人の判断に委ねられることになったそうです。
私自身は花粉症がひどいので、毎年2-4月の3カ月は抗アレルギー薬と外出時マスクを併用していますが、GW以後は基本的にマスクレスの生活を送る予定です。

でも、完全にBefore-Corona (BC)の世界に戻れるか、といえば、おそらくそうではない、と思っています。

街頭インタビューで、
「マスク生活に慣れてしまって顔をさらすのが恥ずかしい」
と話す女性を見ましたが、その理由ではなく。

友人で、唾を飛ばしながら大声で話す人がいました。
彼に限らず、多くの友人知人とはこの3年間ほとんど呑みに行っていませんが、もし彼と吞むことになった場合、BC時代はさして気にしなかったことを意識するかもしれません。

この3年間、僕たちはスパコン「富岳」の計算成果である、
《飛沫の飛散状況シミュ―レーション》
を数々の設定条件で見せられました。

これが、8月にレストランで見た、他の国から来た観光客との決定的な違いではないか、と思うのです。

ウィルスに感染していようがいまいが、《飛沫》という名の、つまりは《唾》がどのように飛散していくのか、この国の多くの人は学習してしまったわけです。

例えば、テレビドラマを見ていて、俳優ふたりが至近距離で怒鳴り合っているのを見ると、
(ああ、かなりの《飛沫》が飛び交っているなあ)
と思ってしまう。
BC時代はそんなこと、まったく考えもしなかった。

そのことを知ってしまった以上、僕たちはもう無邪気ではいられない。

……なんだか思春期を過ぎた幼なじみカップルみたいですが。

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