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奥様は《右手》?(街で★深読み)
懐かしい街と友を訪ねる東京の旅日記、その3回目です。
まず、学生時代、月イチぐらいで歌詞を書き、提供していた友人(彼が曲を付け、自分のバンドで演奏していた)と教養時代のキャンパスで会い、カフェで「《胸の谷間》に囲まれた谷間」のような幸運な席についた話:
続いて、将棋の師匠でもある、工学部時代の同級生と、彼が住んでいた千駄ヶ谷を訪ね、鳩森神社を通って将棋会館まで歩き、道場で3局指した話(全敗でした……トホホ):
その後、そもそも上京の主目的である、工学部時代のキャンパスに向かいました。
そこで会うことになっていたのは、卒業研究をした学部4年の時、同じ研究室で修士課程1年(M1)だった2人、2年(M2)だった2人、計4人の先輩です。
九州の鳥栖に住んでいるひとりが上京することになり、千葉に住む2人、単身赴任中の町から東京に帰宅するひとりと、懐かしいキャンパスに集まることにしたわけです。
ついては生意気だった後輩もひとり呼ぼうぜ、ということになったようです。
この研究室は、卒論研究で配属された4年生を大学院生が1対1で指導しつつ、修士論文研究の手伝いもさせるという、理系研究室でよくあるシステムをとっていました。
私が「弟子」としてついたのがM2のNさんで、この人に会うのがこの夜の最大の目的でした。
この時代、研究室のメンバーは、全員男性でした。
Nさんは学生時代からウィットに富んだ人で、いつも半分冗談に紛らわせながら右も左もわからない「弟子」にゆるーい指導をしてくれました。
Nさんと会ったのは、下記のエッセイに書いた教授の退官記念パーティー以来です。
その時、2次会で彼が右手をひらひらと宙に揺らせて言った言葉について、その後の経過を確かめたい、という気持ちを胸に抱いてのこの日となりました。
キャンパスの門の前で懐かしい顔がそろいました。
当時のM2は、Nさんと、体育会野球部員で朴訥とした人柄のKさん。
当時M1は、優等生タイプのHさんと、卒論研究を行ったブラック研究室から脱出するためにわざと院の入試に落ちて留年し、修士ではテーマを変えたYさん。
懐かしいキャンパスを歩き回り、研究室のあった建物の中を覗き、学食を覗き、予約してあった中華料理屋に入りました。
さて、ひとりずつ近況を話した時です。
Nさんが、
「いや、最近娘がね……」
とつぶやいた時、全員が驚いて声を上げました。
「ええっ! 結婚したの?」
「《右手》が奥さんだって言ってたじゃん!」
**************
それは、前回Nさんと会った、教授退官記念の2次会のことでした。
私も、Nさんも30代前半で、その前後の先輩後輩の多くは結婚していました。
「Nさん、結婚は?」
尋ねると、彼は片手をひらひら舞わせて言いました。
「オレ? 俺の奥さんはこの《右手》だよ!」
そして手を換えると、
「《左手》は、浮気したい気分の時ね!」
「……はあ💧」
私だけでなく、この「名言!」は印象的だったようで、30年ぶりに集まった全員が異口同音でした。
「《右手》が奥さんだって言ってたじゃん!」
「うーん。そうだったんだけどね。まあ、いろいろあってね……。39の時に結婚したんだよ ── 右手以外とね」
(それは……結婚というより、再婚?)
吞み放題コースを頼んだにもかかわらず、学生のようなハイピッチで吞み続けるジジイたちに、怖れをいだいた中華料理屋の店主が怒りだし、
「ハイ! もう終わりネ終わりネ! ラストオーダーネ!」
と叫んだくらい、学生時代に還った、愉しい夜でした。
最後に別れる時の《異口同音》は、
「みんな、あの頃から全然変わっていないね!」
うーん。それぞれ異なった環境で長い職業人生を送ってきたわけだけど……人格を変えるには至らないってことなのかな……。
ところで、ある集まりにひとりだけ欠席者がいたら、その人に関する話題が一番多くなり、何を言われるかわからない ── というのも、
《マーフィーの法則》です。
この日、一番多く話題に出た人物は、その時代に研究室院生で最年長だった、博士課程のTさんでした。
数々の武勇伝の持ち主・T先輩は、企業をいくつか渡り歩いた後、JICAのシニアボランティアに応募してアフリカに数年間派遣され、次は南米行き、という時にコロナ禍で派遣中止になっていました。
「次回はTさんを呼ぼうぜ!」
「でも、彼は今、丸亀で閑居しているから、みんなで四国に行かなきゃ……」
「よし、行こう行こう! 次は丸亀だ!」
というわけで、Tさんに連絡を取り、12月に丸亀に押し掛けることになりました。
さて、どうなることやら……。
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