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井上陽水『傘がない』
「コロナ疲れ」ってやつだろうか。
なんだか身体も気分もずいぶんと重い気がする。
連日の寒暖差・コロナの緊張感・年度はじめのせわしさ・何がよくて何がダメなのかの境界さがし……あれこれ重なって疲労がたまっているみたいだ。
だからといって、気晴らししたくても今はまだ好き勝手に行動できるわけでもなく。こんな時だから楽しく明るくいたい・負けないようにしっかりしないと……そんな緊張感をぬぐえずに、なかなかに代謝も燃費もわるくなっている。
「疲れた」って口にしていいのかな、とためらってしまうのは、なぜなんだろう。
そんな折、コロナにまつわるあれこれを見聞きしていて、思い出さずにいられない歌がある。井上陽水の「傘がない」である。
冒頭の歌詞はこうだ。
都会では自殺する若者が増えている
今朝来た新聞の片隅に書いていた
だけども問題は今日の雨
傘がない
井上陽水によると、ここでの「傘」は「平和」や「やさしさ」のメタファーなのだそうだ。
このご時世、コロナに対して薬がない・仕事のために外に出ざるを得ない・医療現場がパンクしている・休業要請が出ても補償がなされない、そんな状況を重ねてしまう。
今『傘がない』を聴くと、
「深刻な問題だって分かってる。ひとの命がかかっているって分かってる。わたしたちみんなの問題だって、社会全体でどうにかしなきゃいけないって、わたしもできることやんなきゃって、分かってる。だけども。だけども、だ。わたしにとっては、雨を前にして傘がないことのほうが一大事なんだ。」
わたしには、そんなふうに聞こえてならない。
コロナのことは分かっていながらも、お店をあけなきゃ生活できなくなる・電車にのって出勤しなきゃ仕事がなくなる・自分が働かなきゃ困るひとがたくさんいる、そんな状況下にいる知人の顔が浮かぶ。
遠くの顔も知らない誰かの命、もしかしたら明日にでも来るかもしれない「その時」、それらを憂いている余裕など正直ない、なぜなら、今わたしに「傘」がないのだから、と。
「傘がない」ではこう続く。
行かなくちゃ
君に逢いに行かなくちゃ
君の街に行かなくちゃ
雨にぬれ
曲の後半は、このフレーズが繰り返される。とうとう「君」に逢いに行ったのかわからずじまいでこの曲は終わってしまうのだけれど。
人間くさくてクセになる歌だ。
世の中で起きている問題のことも、君に会いに行かなくちゃいけないことも、分かっていはいる。けれども、まずは雨をまえにして「傘がない」のだ。
社会問題よりも先に「君」に会いに行きたいけど、今は「雨」を前にして「傘」がないんだ、と。もし雨に濡れながら君に会いに行ったら、自分は……それでも……、そんな葛藤を感じる。
世界のことを思う前に、君のことを思う前に、自分のことで精一杯だと、そう聞こえてならない。
「傘がない」を聞いたあとは、世界・日本・会社・飲食店・知人が~と考えているようで、実は自分のことだけで精一杯なんじゃないか、と立ち止まる瞬間が、葛藤が、ある。
3月から、世界はどうなんだろう、日本はどうかな、何が正解なんだろう、どうすべきなんだろう、これはしても大丈夫かな、でも自分はこうしたいな……そんなことを一日中あたまのどこかで考え続けていて休むひまがない。
「今はこうすべき」というのも分かるし、それが出来ない人の事情も他人なりに察する。
だからわたしには、人それぞれの言動について、「そうかー」くらいの軽いきもちで、ただ眺めることしかできない。
ただ、そうやって「まあ人それぞれだよね」といって過ごしていると、なんだか孤独だし、寂しい気もしてくる。自分が他者に干渉しないのと同じくらい、誰も近づいてきてくれないような気がしてしまって。
だからといって口を出されると、放っておいてくれ、となってしまう。わたしは干渉しないんだから、あなたも干渉しないでよ、と。
つくづく自分勝手だなと思う。「傘がない」を聴くと、そんな自分勝手な自分に気づかされてドキッとしちゃう。思い当たる節があるのだろうね。
コロナの影響で、いろんな角度で矛盾を抱えて、絶えず葛藤しているような毎日だ。
しかもそれが、人と顔を合わせないまま、ことばを交わさないないまま、触れあいもしないまま繰り広げられるもんだから、もう。もう。
参った。
まあまあ、それはそれとして。
今の季節、花がとてもきれいなんだよね。だからさ、最近、花の写真をたくさん撮っている。晴れの日も多いから、青空も夕暮れも星もとってもきれいだ。
散歩くらいは、してもいいよね……?
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