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【特別対談】変革期を迎える“メンズ美容” Z世代の彼らとどう向き合っていけばいい?(堀かおり×田口尚平)

あけましておめでとうございます!
2022年も実直にZ世代とメンズ美容の動きを追ってまいりますので、よろしくお願いいたします。

2022年1回目のBoys Beautyのnoteは特別対談をお届けします。Boys Beautyプロデューサーの堀かおりが、Boys Beautyにアドバイザーとして参加いただいているフリーアナウンサーの田口尚平さんとこれまでの活動を振り返りつつ「メンズ美容」をテーマに対談しました!

田口尚平
1991年8月22日生まれ。2015年に株式会社テレビ東京にアナウンス職で入社後、スポーツ番組、報道番組、バラエティ番組などで活躍。2018年からはイベント開発事業部を兼任し、eスポーツ事業「TOKYO eSPORTS HIGH!」を立ち上げ。株式会社電通と共にeスポーツ事業を手掛け、高校生のeスポーツ大会「STAGE:0」を開発した。
2020年3月に「オタクを極める」とし同局を退社、早稲田大学大学院 経営管理研究科に入学しMBAを取得しながら、アナウンサー/MC、eスポーツキャスター、YouTuberとして活躍中。

YouTube、Instagram…これまでの活動を振り返る

堀:田口さんと一緒にBoys Beautyの活動をするようになったのは、田口さんの退職エントリのnote記事を読んでコンタクトを取ったのがきっかけでした。「面白そうだな。一緒に面白いものが作れそう」と思ったんです。田口さんは、なぜBoys Beautyに参加しようと思ったんですか?

田口:僕は22歳からアナウンサーとして働いていて、身近にメイクをする環境がありました。その時から「メイク後の自信の付き方ってすごいな」と思っていたんです。自信がついたからでしょうけど、メイク後は自分の話し方や現場での振る舞い方も変わったなという実感もありました。自己肯定にすごく寄与しているなと感じたんです。
そういう経験から「これは世の男性陣に経験してもらった方がいいんじゃないかな?もっとメンズメイクや美容を広めたい!」と思うようになり、Boys Beautyに参加させてもらいました。

堀:最初の活動は、YouTubeを用いたコンテンツ作りでしたよね。実際に当時19歳と20歳の男性2人をキャスティングし、一緒に活動してきました。コンテンツを作る上で意識したところはどこですか?

田口:僕は、掛け合わせを意識していましたね。メンズ美容に限ったことではありませんが、ある特定の分野が普及するときって「モノに惹かれるユーザーが増える」もしくは「人にファンがつく」のどちらかが要因になることが多いと思っているんです。僕の出発点は、その2つがうまく掛け合わさるようにする仕組み作りからでしたね。

堀:ただ、YouTubeでメンズ美容のコンテンツを大きく成長させることは難しかったなと。ちなみに、いま時間を戻してやり直せるとしたら、どんなところを変えようと思います?

田口:1つは「男はメイクしていいの?」のような根本的な疑問に対する回答をもっと出してあげたかったなと思いますね。そもそも美容グッズやコスメといったモノに興味を持つ人って、すでに「男はメイクをしてもいい」と思っている。でもその前には、メイクをすること自体に疑問を持つ人たちがいたんです。その人達に、ものすごく低いラインを引いてあげたかったかなと。
あとはできる限り制作フローを簡単にして、YouTube上でのコンタクトポイントをもっと増やすことかな。昨今は、メンズ美容のコンテンツがレッドオーシャンになっていますよね。その中でInstagramやTikTokといった流行りのツールと競うには、とにかく動画の量を増やすしかないんです。もっとユーザーとの接触頻度を増やせば良かったなと思います。

堀:その後は活動の場をInstagramに戻して、YouTubeでの反省点を活かしつつ3人の美容男子とコンテンツを作ってきました。そこで難しさを感じたことはありましたか?

田口:時節柄、オンラインベースでの活動が主流でしたが「彼らと距離感がなかなか縮めきれないな」という思いはありました。もちろん一緒にコンテンツを作ることは楽しかったです。でもプロデュースする側としては、彼らのアイディアをもっと細かい部分まで汲み取ってあげたかった。言いたいことのその奥にあるものを引き出してあげたかったですね。「彼らの言葉の裏にあるところまで迫れてないよな」という感じは常にあるかな。

堀:確かに、距離感はもっと縮めたいなとは思いますね。一方で、Boys Beautyの活動を一緒に始めて1年超ですが、やってて良かったなと思うことはありましたか…?

田口:1つはメンズ美容の需要が高くなったことで、僕らがいままでやってきたことは間違ってなかったと実感できた点ですね。Boys Beautyに関わっていなかったら確認すらできなかったでしょうし。もう1つは、フレッシュなアイディアやトレンドに触れられた点です。毎回「いまの20歳ってこんなこと考えているんだ」とか、「いまの若い子はこういうのが好きなんだ」といった発見がたくさんありました。しかも彼らが取り入れるトレンドは、大きなハズレがない。先見の明みたいなものを身近に感じられた気がします(笑)。

堀:そうなんですよね!あの子たちが使ってたアイテムや身に付けていたものが、いつの間にかめちゃくちゃ韓国系のスタイルとして流行っていたなんてこともありましたね。すでにあの頃から時代を先取りしていたんだな…。

メンズメイクは日本の男性に浸透するのか

堀:メンズメイクにおいては、個人的にはまだ一般男性への浸透率は低いイメージなんですが、今後世の男性にメンズメイクが浸透する可能性はあると思いますか?

田口:フェーズを分けて考えたとき、BBクリームやファンデーションのようなメンズ基礎化粧に関してはあっという間に浸透するんじゃないかな。 僕は仕事でeスポーツの実況に携わっていますが、それこそメンズ美容にあまり興味がなさそうな男の子が多いです。でも、そんな彼らも1度現場でメイクを体験してからは続けているみたい。自身でストリーム配信する前にBBクリームなどを塗っているそうなんですよ。そういう意味では、1度感動体験を味わってもらえば自然と浸透していくのかなと思います。
ただ逆に言えば、1度体験するまでのハードルがめちゃくちゃ高い気がします。一般男性がメンズメイクを体験する機会はほとんどありませんから…。

堀:確かにそうかもしれない。あと、私は世代間にも線引きがあると思います。おそらく世代が上になるほど、1度メイクを体験しても「自分はいいや…」と遠慮する人が多い気がしますね。田口さんは、そんな世代間の需要度の差って感じたことありますか?

田口:ありますね。声優さんと一緒に仕事をしたときの話ですが、35歳以上の人はやはりメイク道具は一切持ってきていませんでした。一方で、僕と同年代とか少し下の世代の人はメイクグッズを持参するんです。しかも、事務所の先輩とのメイクグッズに関するコミュニティも出来上がっているのでトレンドにもかなり敏感。やはり、メイクに対して身近に相談できる相手がいる人ほど、メイク道具を使うことに対してポジティブな気がします。

堀:そうそう。メンズ美容メンズメイクに関するリサーチをかけていても、身近な人の声とか友達・恋人・家族から薦められたらとりあえず試す若者が圧倒的に多い。メイクに関する行動自体がかなりポジティブなんですよね。

堀:メンズメイクに関する世代間の差でいうと、メイクに対して抱く印象も世代間で違うのかなと。上の世代はマイナスな部分を隠すための手段、下の世代は自分をより良く見せるための手段という印象を持っていると思うんですけど、田口さんどう思いますか?

田口: ニッチな業界での経験則からしか判断できませんが、アナウンサー業界ではその印象が当てはまると思います。確かに上の世代の方々はヒゲを隠すためにメイクをしている感じがあるなと。逆に若手は「このファンデを使ってほしい」と言うくらいこだわりが強いですね。本能的に自分が納得するものを使いたいと思っているんじゃないかな。

堀:確かにInstagram用の写真を撮影しているときとか、メイク道具の入れ替えめちゃめちゃあったなー(笑)。「私でもそんなに持ち歩かないんだけど…」と思っていました。

田口:きっと若者がメンズメイクにこだわる根底には「自分の理想像に近づきたい」という思いがあるんだろうな。現に彼らは、SNOWなどの写真加工アプリで実物よりも画面に映った自分の方がキレイであることを目の当たりにしているわけですし。現実の自分とのギャップをかなり感じているんじゃないかな。

堀:でも、意外とそれがメンズメイクを始めたり、メンズ美容に興味を持ち始めたりするきっかけになるんですよね。いつかは加工されないカメラで撮っても、理想の自分と遜色ないくらいの状態になりたいというか。そこからスキンケアにハマっていく若者も多いみたい。

田口:そういう風に思えるって良い人生経験ですよね。「現実の自分をかっこよくしていこう」ってポジティブに捉えられている証でもあるし。どんどんメンズ美容にハマってほしいですよね!

2人が考える、メンズ美容の未来

堀:いままでの活動を振り返った上で、メンズ美容の今後についてお聞きしますね。単刀直入に言うと、私の中ではメンズ美容全般が変革期に入っていると思うんです。

田口:それはどんな理由から?

堀:近年「ジェンダーレス※」というワードが世に浸透しているじゃないですか。現にジェンダーレス男子のインフルエンサーが「自分が思うコスメ・美容ってこうあるべき」みたいなメッセージを発信し始めていて。それに伴なって、メーカー側もジェンダーレスコスメを打ち出し始めているからですね。
あとコスメの場合、「メンズ向け」って書かれるとなぜか「荒さ」や「雑」といったイメージが強くないですか?結果、男性も女性用コスメやジェンダーレスコスメに走っていく現状があるのかなと。田口さん、どう思いますか?

※ジェンダーレス=性の区別・差をなくそうという価値観・考え方

田口:確かに「メンズ向け」って言葉はネガティブ要素ですね。常に「女性用に比べて」という枕詞がつくから。クライアントとしては、そこを取っ払わないと売り上げは伸びていかないのかなと感じます。ただ、メンズコスメでも売り方や宣伝する人次第では変わるかもしれない。それこそBtoCを日本人のだれもが知っているような、スーパーアイドルの人がやったらめちゃくちゃ売れるんじゃないかな。

堀:具体的にはどういうことでしょうか?

田口:現状、メンズ美容の分野には「この人が使っているコスメを使いたい!」と思えるスーパーインフルエンサーがいないですよね。例えば、かつてのSMAPや嵐のメンバーのような影響力が大きくて、もともとかっこいい人が握ったら、きっと「僕もあんな風になりたい」と思ってついていく人は増えると思うんです。そういう意味では、誰がこの先その覇権を取るのか楽しみですよね。

堀:なるほど!そういう人が現れたら、スキンケアにまったく興味がない「潜在ユーザー」も取り込めますかね? 

田口:潜在ユーザーまでは難しいんじゃないかな…。そもそも彼らには美容に興味を持ってもらわないといけない。そのためにも、美容に気を遣った先にある幸せやプラスな出来事を体感してもらうことが大事だと思うんですよね。
そういう人達を募ってメンズ美容の企画を組めれば良いんでしょうけど、それはハードルが高すぎて無理。だから潜在ユーザーには、自分達と同じような日常を過ごしている“日常系YouTuber”から発信が効果的なんじゃないかな。彼らがスキンケアをしている動画をみて少しずつ変わっていく様子を見てもらった方が刺さると思います。

堀:なるほど。他にもメンズ美容×○○(潜在ユーザーが多そうなジャンル)みたいな企画を打ち出すのもありですかね?例えばメンズ美容×eスポーツとか。

田口:ゲームとの掛け算は面白いかもね!個人的には「メンズ美容×キャンプ」は効果あると思います。

堀:なるほど!キャンプに限らず野外活動全般と掛け合わせたら、メンズ美容への入り口が広がりそうですね!ちなみに田口さんは、キャンプのときにスキンケアアイテムを持っていくんですか?

田口:もちろん!オールインワンが多くなりますけどね。実はキャンプでほぼ必ずやる焚火って、めちゃくちゃ肌が乾燥するんですよ。それを思い知ったのは、女性と一緒にキャンプに行ったときですね。何もスキンケアをしなかった僕の肌はカサカサ、女性はスキンケアをしていたから肌がモチモチしていたんです……。かなりショックでした(笑)。

2人から見たZ世代の魅力

堀:ここからは『Z世代』をテーマにしますね。田口さんはBoys Beautyの活動を通じて、10・20代前半のいわゆる『Z世代』と多く関わってきたと思います。彼らの近くにいて違いや差を感じたことはありましたか?

田口:彼らのメイクグッズや美容アイテムを買いに行くまでのハードルの低さに驚きましたね。僕は正直、彼らはメイクコーナーに行くのも恥ずかしくて、商品を買うにも気合を入れないと難しいのかなと思っていたんです。でも彼らはそんなハードルを軽々越えていってしまった…。ハードルなんか最初からなかったみたいに(笑)。

堀:確かに(笑)! 私もBoys Beautyを始めたころは、彼らが店頭で恥ずかしさを感じながら購入する心理的ハードルを取り除きたいと思っていましたし、Boys Beautyがその一助になれるように進めていました。でも意外とハードルは低くて、むしろ「こういう考えが逆に偏見過ぎて私たちの活動を遠回りさせているのかも?」と思うこともありました。
あと彼らはリテラシーがものすごく高い気がします。情報の選定にしても見る目にしてもすごく長けてる。だからモノを売る側としては、彼らの日常に馴染むようにコンテンツを作る必要があった。広告であってもそこに見合うコンテンツを作らなければならないのが大変です。

Z世代には、どんどん新しい価値を生み出してほしい

堀:ただ彼らは、まだ年齢的に経済力も消費を動かすほどのパワーもない世代ですよね。そんな彼らが社会に出始めて影響力を持ち始めたとき、日本の消費に何か変化はあると思いますか?

田口:ポジティブな面で言えば、ダイバーシティですよね。きっと彼らは、僕らと僕らより上の世代の人達より、自分と違うものを許容する器量が大きいと思います。あとおじさん世代は嫌うかもしれないけど、年齢によって分ける階級みたいなのも無くなっていくだろうな。それによって組織の構造なんかも変わっていくはず。こうした価値転換が起こるのはポジティブな面だと思います。

堀:ネガティブな面ってありますか?

田口:あくまで個人的な考えですけど、消費は停滞すると思いますね。なぜなら、彼らがいま生きている時代には、無料かつクオリティが高いものが揃っているから。わかりやすいのがゲームで、一昔前は原則無料のゲームなんかほとんどなかったですよね。あったとしてもそこまでクオリティは高くなかったはず。でもいまは『Apex Legends』や『フォートナイト』のように無料でクオリティの高いゲームで遊べる環境が身近にあるんですよ。
映画とかアニメも同じで、いまではYouTubeでキュレーションされたものが無料で視聴できてしまう。それで満足しちゃうと、Netflixとか動画配信サイトにわざわざ月会費を払う必要なんかありませんし。堀さんは他に何か思い浮かびます?

堀:私は“所有”も減っていくんじゃないかなと思っていて。いまは何かとシェアが流行っているじゃないですか。車なんか特に維持費が大変だからカーシェアとかを利用している人が多いはず。その流れが他の物にも派生していくんじゃないかなと思っています。

田口:ネガティブな面ばかり挙げているけど、決して彼らが悪いわけではないんですよね。でも現代は、1つのコンテンツや消費行動から得られる最大幸福値がかなり下がっている時代。だからこそZ世代には、そんな時代にも負けずにポジティブに色々なものを掛け合わせて、どんどん新しいコンテンツを生み出していってほしいです。

構成・文:トヤカン

堀 かおり
2014年、電通テック入社。2018年5月より +tech labo の研究員となり、“Z 世代”を軸として開発業務を行っている。Z世代男子に向けてメンズ美容の情報を発信するInstagramアカウント「Boys Beauty」のプロデューサー。