見出し画像

【観劇記録】山田ジャパン『愛称⇆蔑称』

2024.03.14 @ 六行会ホール

 初めての六行会ホール。京急沿線には疎いので、ホールの存在自体、今回がきっかけで知った。駅近だし2列目から段差がついていて見やすい会場だった。ただ、トイレの動線がやたら凝ってて、出るときに間違えて男子トイレに突撃しかけたのはここだけの話。

長野県佐久市の川北中学校に勤務する畑中忠平(原嘉孝)は、今年で教師暦5年を迎える。田舎を出ることなく、「母校の教師になる」という夢を叶えた忠平はこの年、初の学年主任に任命された。優しい校長に、やたらと口うるさい教頭・大山佳奈(いとうあさこ)の指導のもと、癖の強い教員たちをよくまとめ、充実した日々を送っていた。生徒たちは今どき珍しい程に素直で、取り立てて問題を抱えた生徒もいない。素朴な見た目で、子供らしく“あだ名”を呼び合う。そして、ちょっとしたことでもゲラゲラと無邪気に笑い合う。そんな笑顔溢れる子供たちと川北中学校を、忠平は心から愛していた。

しかしある日、忠平が担任するクラスに、東京都中央区銀座の中学校から転入生がやってきたことで、事態は一変していく。転入1週間もしないうちに、母親から忠平に激しいクレームが入ったのだ。その内容は、「あだ名を禁止にしてください」というもの。何でも、東京都心の多くの学校が子供をいじめから守るため“あだ名”を禁止し、生徒同士に“さん付け”を義務付けているのだという。母親は呆れた様子で「この学校、地域のリテラシーは絶望的に遅れています!」と声を上げる。 これを機に、教員と親たちによる職員室での議論が始まる……。

http://yamadajapan.com/stage/aibetsu/ より引用(2024.04.05取得)

 導入こそまあまあセンセーショナルだが、蓋を開けてみれば意外と真摯に作られていた。私の好きなタイプの会話劇。もちろんそれを期待していたのだが、期待以上。終演後カフェにでも入ってしばらく反芻してから帰りたくなるような作品だった(が、終演も遅く翌日も仕事だったので諦めた、残念)。
 私が過去にあだ名で嫌な思いをしたことがあったのと、今までに見た山田能龍さんの作品の傾向からして過去を思い出してキツいかも……と警戒していたが(先月のこともあったし)、本当にキツいところの核心はうまく避けてくれていた。私個人としては助かったが、何かふんわりしてると感じる人もいそうだな、とは思った。

 もちろん議論自体も興味深いのだが、畑中の成長譚としても上手くできているのが面白い。だんだん若手とも言いづらくなってきて、学年主任として判断を下さなければいけない立場になった畑中が彼なりに問題にぶつかっていく姿は素直に応援したいと思ったし、どんな判断をするのかは純粋にわくわくした。
 そしてそんな畑中を見守る、校長、教頭をはじめとする先輩教師たち。議論の中ではあれだけ反対していても、最後に下した結論には文句を言わない。距離が近いように見えても立場はわきまえているというか、一線を引いて社会人として尊重している感じは印象に残った。まあ展開の都合上そうしてるだけかもしれないけれど。

 ちなみに、私は「個人的にはあだ名が禁止されたところで一向に構わないし警戒事項が1つ減って嬉しいけど、それで何も解決しないのにメリットを奪う必要ないよね」というスタンスで、あの議論を経ても変化はない。"仮の結論である"と明示したうえであだ名禁止にする、という結末にはわりと納得している。
 ただ、あくまで"仮"であるということは、職員室だけでなく生徒たちにも共有してほしいな、と感じた。議論の過程も(ある程度工夫は必要だと思うが)丁寧に説明してほしいかな。クローズドなままだといらぬ詮索が起きそうだし、中学生なら生徒たち自身が考えるきっかけにできそうな気がする。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?