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チャゲアスの「転換点」を聞いて思ったこと

皆さんは、邦楽ポップスデュオCHAGE and ASKA(以下チャゲアス)で、印象に残るヒットは、何が浮かびますか。1980年代前半のフォーク作風の『万里の河』か、1990年代前半に起きた『SAY YES』のブームか、どちらかのヒットが浮かぶと思います。
彼らは長く活動をしてきたアーティストなので、年代によって、姿も音楽も変わっていきました。彼らの音楽から、当時の音楽の流行が見えてきます。多くの名曲から、彼らの豊かな創造性を感じます。

今回は、彼らの転換点となった作品を紹介します。フォーク作風が強かった感じから、ロックな感じに変わったチャゲアスの作品があります。1986年4月21日に発売された、7枚目のアルバム『TURNING POINT』(ターニングポイント)です。英語で「転換点」を意味するアルバム名は、チャゲアスにとって、飛躍の作品となりました。収録シングル曲は、『モーニングムーン』のみです。これはチャゲアスの代表曲の1つです。
堅い岩盤が張り裂けて、燃えるようなマグマが現れたジャケットがかっこいいです。以前の初期チャゲアスの作品にあった、不死鳥マークはなくなって、「C and A」と、鋭い線の書体のロゴマークがあります。1986年から1989年までの作品は、このチャゲアスのロゴマークが付いています。

CHAGE and ASKA『TURNING POINT』(1986年)

以前の初期チャゲアスの不死鳥マークがあるジャケットと比べて、今までにない雰囲気があります。このアルバムに対する、チャゲアスファンの感想は驚きと良い印象がありました。この作品から、ブリたちの知るチャゲアスになってきたように見えます。

「収録シングル曲から知って、聞いていた」
「シンセサイザーを響かして、ロックな感じになった」
「私たちの知ってるチャゲアスに近づいたように見える」
「フォークみたいな雰囲気から変わって、驚いた」
「ロックな曲だけじゃなく、しっとりする楽曲もあって良い」

アルバムについてチャゲアスファンからの反応

このアルバムはブリにとって、以前の記事で紹介した『21世紀』『ENERGY』と並んで、1980年代のチャゲアスのアルバムで、トップ5に入る作品だと思います。ロックな感じといっても、激しく演奏したり、シャウトするようなものではありません。じっくり歌うバラード曲、アップテンポな楽曲があって、かっこいいです。

あと、歌詞の内容が、これから新しいことを始めたり、何かにくじけた人の心を癒やして、励ますようなものになっているので、きっと時代に関係なく、共感できると思います。このアルバムが発売されたのが春だったので、今年の春にこの記事を書いてみました。

この記事では、ブリが『TURNING POINT』を100周聞いて、思ったことをまとめました。どうしてこれがチャゲアスの「転換点」となった作品なのか、彼らの体験が音楽に現れたものだと気づきました。あと、彼らの音楽活動から、アーティストが直面するビジネス事情をまとめました。



★ショーウィンドウで輝く歌謡曲

1986年の邦楽界は、1980年代前半のニューミュージック中心の世界から、違う世界へ変わりました。シンセサイザーを奏でる楽曲が増えて、ポップス、ロックなど、音楽ジャンルが多彩になりました。この頃の邦楽は、まだ「歌謡曲」と呼ばれていました。海外の音楽に影響を受けてきた、日本の邦楽界は、次第に今日の「J-POP」へ近づいてきました。
この頃は、アイドルを中心に活発な流行が起きていました。中森明菜、松田聖子といったソロアーティスト、チェッカーズ、おニャン子クラブ、少年隊のようなアイドルグループが人気でした。

アイドル達が盛んになっているなか、後に1990年代にヒット曲を生み出す、TUBEや米米CLUB(こめこめクラブ)といった若いアーティストが、少しずつ知名度を重ねていました。その頃、デビュー7年目のチャゲアスは、ライブ活動の動員数を伸ばしていました。CHAGE(以下チャゲちゃん)、ASKA(以下あすちゃん)は、少年少女のチャゲアスファンから人気でした。若きチャゲアスはそろそろ新たな環境へ向かうところでした。ブリたちの知る、スーパースターの彼らになるのはまだ先のことです。


★心機一転の移籍

若きチャゲアスは、ライブコンサートの動員数を伸ばしていました。大阪城西の丸公園の野外コンサート、国内アーティスト初の代々木体育館、自身初の武道館、全国ツアーも行って、キャリアを重ねていました。しかし、難しい問題を抱えていました。ライブコンサートの動員数が伸びているのに、肝心の音楽が売れないのです。1980年のシングル曲『万里の河』のヒットから、さまざまな楽曲を発表してきましたが、なかなか目立ったヒットが起きませんでした。当時所属していた、レコード会社のワーナーパイオニア(現ワーナーミュージック)は、『万里の河』のようなフォーク作風の楽曲を求めていました。次第に、いろんな音楽を作りたいチャゲアスとの方向性にズレが起きました。前作のアルバム『Z=One』(ゾーン)の発売と売上低迷の後、ワーナーとは契約期間が終わりました。彼らは新しいレコード会社への移籍を決めました。
彼らは数ヶ月間、レコード会社に所属していない状況になりました。なぜなら、「アーティストは、半年間は別のレコード会社に所属してはならない」という、会社間の紳士協定でした。アーティストが音楽活動したくても、会社とのパワーバランスに翻弄されるのです。現在は緩和されていますが、アーティストはいまだに会社との事情に悩むのです。

今日では、レコード会社や事務所に所属しなくても、若いアーティストが音楽活動に参加しやすい環境ですが、1980年代当時は、音楽コンテストやオーディションを通して、大手の会社や事務所に入らないと、音楽市場に参加しづらい環境でした。チャゲアスは音楽コンテストから、メジャーデビューへつながりました。アーティストはレコード会社に所属していないと、音楽の宣伝や媒体の発注をするのに、費用と労力が足りないからです。音楽活動は、アーティスト自身の努力と資金力が重要です。

レコード会社で迷っていたチャゲアスに、キャニオンレコード(以下キャニオン)から誘われました。幅広い音楽を表現していきたいチャゲアスと、キャニオンは意気投合して、1985年10月1日に移籍しました。後にキャニオンが、現在のポニーキャニオンに改名した後も、彼らは1986年から1996年まで、そこに活動しました。彼らが最も長く所属したレコード会社でした。

でも、新しいレコード会社に移籍すると、あるジンクスが起きると言われていました。それは「レコード会社を移籍したら、売れなくなる」というジンクスです。これは、「環境が変わると、レコード会社が求める音楽性へ変わり、音楽もファンも変わって、売れなくなる」と、音楽市場ではそう思われていたからです。シングル1曲だけヒットしていた若きチャゲアスは、周りからそう思われていました。チャゲアスファンの間でも世代によって、『万里の河』のようなフォーク作風が好きな方、『モーニングムーン』のようなポップス作風が好きな方で、分かれることがあります。同じチャゲアスでも、雰囲気によって、ファンの好みは分かれるのです。

チャゲアス『モーニングムーン』発売告知のポスター

そんなジンクスを吹き飛ばすように、チャゲアスは、心機一転で今までにない楽曲を作り出しました。彼らは、「絶対にヒットして、音楽ランキングに入って、音楽番組に出る」とファンに宣言しました。当時流行していた、ポップスロックの作風を取り入れたシングル曲『モーニングムーン』を発表しました。この楽曲はヒットして、音楽番組へ積極的に出演できました。彼らの代表曲の1つになりました。さらに、彼らにとって、初めての横浜スタジアムのライブコンサートを開催しました。レコード会社に移籍した1986年、彼らはシングル曲4枚、フルアルバム2枚、ミニアルバム1枚を発売して、今までにない勢いで活動しました。彼らのエナジーはここから燃えてきました。

チャゲアス『TURNING POINT』アルバム発売当時のポスター


★夢と愛を抱きしめて

このアルバムは、半分ロックな感じと、半分しっとりとした楽曲が入った内容です。聞きやすくて、力強さと優しい歌声を表した楽曲が豊かです。夢、恋愛、生きる力を描いた歌詞があります。夢や恋愛と言っても、単純ではないストーリーが描かれています。前々作のアルバム『INSIDE』の時からある、都会の街を舞台にしたような歌詞が見えます。
歌詞カードのチャゲアスの写真を見て、『万里の河』の頃の2人と比べて、まるで別人のように変わった青年たちに驚きます。そして見た目は、ブリが知る、おなじみのチャゲアスだと思いました。

シングル曲『モーニングムーン』は、早朝の月のもとで別れた男女が、いろんな感情を振り返って、復縁した大人の恋愛を描いたポップスロック曲です。疾走感があるイントロから、急降下するギターとシンセサイザーととも、歌詞のラブストーリーを展開しています。特に印象的なサビの歌詞が心に響きます。よく言われる「恋」や「愛」ではなく、さまざまな心境を越えた、愛情の尊さを感じます。

愛だとは呼べず 恋と決めず
ただ君を 心から大事に思った

CHAGE and ASKA『モーニングムーン』(1986年)

ノリの良いアップテンポな曲があって、楽しくなります。『キャンディー・ラブになり過ぎて』は、かわいらしい曲名だけど、かわいいシンセサイザーの音としっとりしたテンポに、流行や恋愛に熱が入り過ぎて、置いてけぼりの主人公を描いた楽曲です。チャゲちゃんの明るいハイトーンと、サンプリングされた声が目立って、恋愛ギャグコメディーを描いた『キューピッドはタップ・ダンス』。恋愛は思い通りにいかない、こっけいな様子に共感します。
水のように冷たいシンセサイザーの低い音に、チャゲちゃんのつややかな歌声が響く、恋をあきらめそうになる女性を歌うスローバラード『ショート・ショート』。トランペットのようなシンセサイザーが鳴って、街で美しい女性を振り向かせたい男性の緊張感を歌う、『HIDARIMEが感じてる』。
ちなみに、チャゲちゃんの楽曲の作詞は、作詞家の澤地隆(さわちりゅう)が担当しました。彼にとって、このアルバムは作詞家デビューとなり、1980年代のアーティストたちの作詞を担当しました。後に彼はチャゲちゃんのバンド、MULTI MAX(マルチマックス)のほうでも作詞に関わります。

CHAGE、歌詞カードの写真

『砂漠のイリュージョン』は聞いて驚いた楽曲でした。スラップの聞いたベースと鋭いギターのなか、最後まで歌声を重ねて歌うチャゲアスの2人に驚きました。街を広く渇いた砂漠に例えて、恋に憧れる人々を大人っぽく歌う2人のハーモニーに心が高まります。
あすちゃんの楽曲は、失恋や回帰を描いた歌詞が多いです。『ロンリー・ガール』は、失恋によって傷ついた女性の心を癒やして、心を委ねてほしい男性の想いを歌う、ポップスバラード曲です。この曲はあすちゃんの甘くて、若々しい歌声でリスナーに親近感を持たせる、素晴らしい楽曲です。愛情が尽きた相手に冷めて、別れの言葉を思い出す主人公を描いたバラード楽曲『Key word』。あすちゃんの歌声が次第に高まる様子に、圧倒されます。一つの部屋で暮らした恋人たちが、ケンカや涙があって、別れた場面を回帰したバラード楽曲『くぐり抜けてみれば』。ピアノのようなシンセサイザーが、さびしさを表しているようです。

ASKA、歌詞カードの写真

表題曲『TURNING POINT』は、さまざまな人々にあてたポップスロック応援歌です。にぎやかな街のなか、夢を追いかけて、くじけそうになる少年少女、大人たちに向けて、諦めてはいけないと励ます、ポップスロック曲です。諦めそうな時、大切な人がいるから一人ではないと、生きる力を与えてくれます。若きチャゲアス自身も、さまざまな困難があっても、音楽を届けることができたと、音楽に想いがこめられています。

あいつのために生きれば いつか自分を愛せるさ
押し込められた時代に瞳を閉じるのはまだ早い

君の愛する人を息が止まるぐらい
もっと もっと もっと もっと抱きしめてやれ

CHAGE and ASKA『TURNING POINT』(1986年)

ブリはこの楽曲を聞いて、不思議な気持ちがしました。楽曲が出た当時と、今日の時代や状況が違うのに、落ちこんでいた心に、彼らの歌声と歌詞が響いたのです。時代に依存せずに、人間は音楽を通して、愛と勇気を受けて、励まされるのです。


★サングラスを身につけた個性

実は、シングル曲『モーニングムーン』から、チャゲちゃんはサングラスを身につけるようになります。以前は、おしゃれで一時的にサングラスをかけて、常に素顔でいました。『モーニングムーン』のジャケット撮影の時に、何かあったらかっこいいと思い、サングラスをかけたら、良い印象でした。素顔のあすちゃんとは対照的に、サングラス姿はチャゲちゃんの個性となりました。チャゲちゃんはこの後も、サングラスをかけて、神秘的なかっこ良さを見せます。
ここからブリたちが知る、チャゲちゃん、チャゲアスの個性が現れてきました。

チャゲアス、歌詞カードの写真。
写真左のCHAGEがサングラスをかけて、右のASKAは
一歩前へ立っている。


★実は有名アーティストに関わったデザイナー

『TURNING POINT』の独特な模様のジャケット、「C and A」のロゴマークを作り出したのは、アートディレクターの西本和民(にしもとかずたみ)です。彼は、1980年代後半、1990年代前半のチャゲアスのジャケットデザインを担当しました。チャゲアスの他に、あすちゃんのソロ作品、チャゲちゃんのMULTI MAX、B'z、THE ALFEEなどのジャケットデザインを担当しました。写真にうつる人物にグラデーション、模様を重ねるところが、彼の写真の特徴です。

西本さんは、ジャケットのデザイン、チャゲアスの2人の写真撮影で、こう語っていました。彼らの個性を表現した写真に力を入れていました。ブリは、西本さんの話から、彼らの独特な個性に吸いこまれる意味に、共感しました。

「僕がやりたかったのは、飛鳥のぎゅっとした目、あの鋭さが素晴らしい一行の詞を書かせるわけですよね。チャゲのひそめた眉、あのナイーブさがメロディーを書かせるわけです。静かに足を組んでいても、彼らにはものすごい熱い血が流れてるんです。そんなものを表現できるような写真を撮りたかったんです」

西本和民、『C&A 10年の複雑』下巻より


★まとめるとスーパースターの第一歩を踏み出した名盤

以上、チャゲアスのアルバム『TURNING POINT』を聞いて、思ったこと、若きチャゲアスの想いをまとめました。
チャゲアスにとって、いろんな転換点がありました。1990年代のチャゲアスブームだけではなく、1980年代の出来事にあります。デビュー前の音楽コンテストへの参加、メジャーデビュー、初めてのヒット、そして、今回の記事で紹介したレコード会社の移籍です。アーティストが誰しも通る、音楽活動の転換点です。彼らが、新しい環境で心機一転の勢いが高まる時、さまざまな圧やジンクスに立ち向かいました。彼らの運と情熱によって、音楽を届けることができました。彼らがポップスロックの雰囲気で、よりカッコ良いアーティストを魅せて、彼らの個性が生まれました。そして、ここから彼らが邦楽界のスーパースターとして、知られていく第一歩となります。
簡単にまとめると、このアルバムは「チャゲアスの個性が生まれて、彼らがスーパースターの第一歩を踏み出した名盤」です。アルバム曲が素晴らしいので、シングル曲『モーニングムーン』から興味を持った方に、おすすめします。
ブリがこのアルバムで感じたのは、彼らが優れたアーティストと思っただけではなく、時代や状況に依存せず、彼らの音楽は愛と勇気を響かせる力があると、気づきました。ブリが彼らに癒やされ、励まされた体験から、確信しました。きっと、時代を越えて、彼らの音楽はこれからも愛されていくと、信じています。偉大な推しデュオを、息が止まるくらい愛していきたいです。

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