チャゲアスのアルバム人気ランキング最下位の作品を聞いて思ったこと
皆さんは、CHAGE and ASKA(以下チャゲアス)のアルバムで、好きな作品は何ですか。現時点で、チャゲアスのオリジナルアルバムは全部で21枚発表されました。1979年から2009年までの30年間の活動で出されたアルバムは、どれも優れた作品で、ブリたちに感動を与えてくれます。全てのアルバムを聞くと、邦楽史の進歩が聞ける作品です。
ある日、インターネットの記事で、チャゲアスの歴代オリジナルアルバムで好きな作品は何か、読者からのランキング投票を見ていました。以下結果です。
上位に挙がったのは、彼らのブームの始まりの1989年、ブームまっただ中の1991~1995年に発表された作品が多いです。
そのなかで、ブリが最も気になったのは、人気の1~3位よりも、最下位にある作品です。なぜなら1~3位の作品はたくさん聞いたので、ちょっとマニアックな視点で聞いてみたくなりました。
アルバムランキング最下位になってしまったのが、1985年に発売された、6枚目のアルバム『Z=One』(ゾーン)という作品です。
チャゲアスのアルバムで、初めて記号が入ったアルバム名です。
収録シングル曲は、『標的(ターゲット)』、『マリア(Back To The City)』、『誘惑のベルが鳴る』、『オンリー・ロンリー』の4枚です。
このアルバムについて、いろんなチャゲアスファンに話してみたところ、こんな答えが返ってきました。
これだけ名の知れたデュオなのに、ファンでも知らないアルバムがあることに驚きました。実は、ブーム前の1980年代前半のアルバムは知られていないことが多いです。このアルバムが出た時に聞いていた、少年少女のチャゲアスファンがいました。当時の少年少女たちは現在、ブリの両親とほぼ同世代、50代半ばから60代半ばの方々です。
この記事では、ブリが『Z=One』を聞いて思ったこと、おもしろいところについて、書きました。そして、なぜこのアルバムの知名度が低いのか、考えてまとめました。あくまでもブリの独自解釈なので、一例として受け取ってください。このアルバムの立場をからかって書いた記事ではありません。
♪初期チャゲアス最後のアルバム
このアルバムが発売された背景を簡単に説明すると、レコード会社がアーティストに求めている音楽、チャゲアスのやりたい音楽とのすれ違いが起きていました。レコード会社はヒット曲『万里の河』のようなフォークと歌謡曲の作風を彼らに求めていました。前作のアルバム『INSIDE』から、コンピューターの打ち込みポップスに取り組んだチャゲ(以下チャゲちゃん)と、飛鳥(以下あすちゃん)にとって、もはやフォーク風の歌謡曲は作りたくない様子でした。1980年代前半の邦楽界は、フォークは終わり、打ち込み音楽が浸透してきたのです。チャゲアスは、ギターからキーボードでの作曲をするようになりました。『Z=One』は作風と制作体制の移り変わりで作られたものです。
このアルバムは当時、全然売れませんでした。なぜなら、アイドルブームまっただ中の邦楽界で、彼らの存在は「ライブコンサートが盛り上がっている新人」だと思われていました。このアルバムを最後に別のレコード会社へ移籍しました。
(若き彼らが売れなかった理由を考えた別記事はこちらへどうぞ。)
ちなみに、1980年代前半のチャゲアスのアルバム6作品は、当時のレコード会社が数字をつけた表記があります。当時発売されたLPレコード盤には、1~6番目の数字がアルバム名に書かれています。
『Z=One』と同じランキング最下位になったアルバム、『CHAGE&ASUKA IV -21世紀-』と、『INSIDE CHAGE&ASUKA V』に番号がふられているのは、当時の残りです。レコード会社の移籍後、過去のアルバムのリマスター盤では作品名が他のアルバムと並んでも、違和感なく、単独作品として見えるように、それぞれは『21世紀』と『INSIDE』と記されています。
1980年の『風舞』から、1985年の『Z=One』までのアルバム6作品が、初期チャゲアスのアルバムシリーズになっています。
♪実験的で世界観が追いつけないリスナー
このアルバムが最も地味と思われる理由が、統一感のない世界観、とっつきにくい雰囲気であると思います。若きチャゲアスの写真、黒一色のジャケットは他のアルバムと比べて、異質で地味に見えます。彼らにスーパースターのイメージを持つ、ブリから見て、シュールな方向性だと思いました。
特に、1990年代のファンにとって、1980年代特有の打ち込みとギターサウンドで、曲調に物足りなさ、古さを感じると思います。若いリスナーが、この作品を好んで聞くのが、一部のファンから見て、「昭和レトロ好きなのが変わってる、落ち着いた好みだ」と言われる理由でしょう。
1980年代からのファンは、打ち込みに挑戦する作風に新鮮に感じていました。一方、『万里の河』のようなフォーク作風が好きだったファンには、とっつきにくく、作風を変える実験に振り回される気分になったと思います。打ち込みになっても、独特の歌詞とハーモニーは変わりません。
収録シングル曲は、個性があふれます。
踊りたくなる恋愛歌謡曲『標的』と、ノリが良いジャズ風ダンス『マリア(Back To The City)』、疾走感あふれるコミカルな『誘惑のベルが鳴る』、失恋を癒すバラード曲『オンリー・ロンリー』。チャゲアスらしい多彩な世界観を広げています。若さゆえのあどけなさとノリは、シュールに見えるかもしれません。収録曲の雰囲気は、まとまりがないように見えます。それが微妙なアピールになったと思いました。
このアルバムの収録曲は、シングル曲に負けない魅力があります。楽曲の内容は決して劣っていません。
アルバム表題曲である『TWILIGHT ZONE』は、心の傷と、誰かに見られたくない禁忌を描いた、スリリングなポップスロック曲です。『棘』(とげ)は、恋人の裏切りに苦しむ人間を生々しく描いた、打ち込みギターロックです。チャゲちゃん、あすちゃんのロングトーンが素晴らしいです。
コーラス隊ときらびやかなサウンドが美しい、ロマンチックなミドルテンポ曲『星屑のシャンデリア』、哀愁漂うシンセサイザーが響く、別れのバラード曲『さようならの幸せ』は、あすちゃんのあどけない、美しい歌声が心に染みます。
スローテンポで片思いの独り言を歌う『J's LIFE』、アパートの混沌な人間模様を音のサンプリングで遊んで描いた『メゾンノイローゼ』、妖しい女性と主人公の一夜限りの恋愛をノリの良い打ち込みダンスで歌う『マドンナ』、これらはチャゲちゃんの変化球な作曲があふれた楽曲です。
歌詞の世界観は暗く、クセのある曲調があります。もちろん、チャゲちゃんとあすちゃんのハーモニーが楽しめる、楽曲がつまっています。30年以上前の作品でも、変わらない人間の感情に共感します。
ちなみに、このアルバムには、意外な作曲家と編曲家が参加しています。
この作品から、チャゲアスのサポート演奏をする、「THE ALPHA」(ジ・アルファ)というロックバンドが、1980年後半のチャゲアスを支えます。バンドのギタリストである、村上啓介(むらかみけいすけ)は、後にチャゲちゃんが組むバンド、MULTI MAX(マルチマックス)のメンバーになります。彼はチャゲアス作品、マルチ作品、あすちゃんのソロ作品で関わります。
編曲には、久石譲(ひさいしじょう)が参加しています。『メゾンノイローゼ』と『マドンナ』は彼の編曲です。彼は後に、ジブリのアニメ映画『天空の城ラピュタ』、『となりのトトロ』など、多くのジブリ作品の音楽に関わります。
今は亡き、邦楽の歌謡曲時代の名ギタリスト、矢島賢(やじまけん)が率いる、Light House Project(ライト・ハウス・プロジェクト)というグループは、『J's LIFE』の編曲をしました。
♪チャゲのサングラス姿が初登場
実は、このアルバムで初めてチャゲちゃんがサングラスを付けた姿が見られます。若きチャゲちゃんは、サングラスを全く付けていませんでした。このアルバムが発売される前の年、1984年のデュエット曲『ふたりの愛ランド』で、チャゲちゃんは注目されます。彼にとって、デュエット曲での明るいイメージと、チャゲアスとして彼のイメージに違いを出したかったと思われます。
若きチャゲちゃんの姿を見て、この頃のサングラス姿はかっこ良く、瞳をのぞかせない神秘性が、見る人を魅了します。サングラスを付けたあすちゃんも、顔立ちの良さを魅せています。あどけない2人のかわいらしさが好きです。
♪まとめるとあどけない過渡期のアルバム
以上、チャゲアスのアルバム人気ランキングで、最下位の称号を与えられたアルバム『Z=One』について、説明と感想をまとめました。若きチャゲアスの挑戦と、迷いがある作品だと思いました。彼らが世界観を作る出すなかで、音楽作風を変えようと迷っていた時期を知るきっかけになりました。この頃も、彼らの個性である、歌声と歌詞とハーモニーは、素晴らしいです。当時の音楽技術に依存せずに、良い楽曲を作り出したことに頭が下がります。打ち込みが多い今日の音楽では、気軽に音楽を作れますが、1980年代前半は、保存した音楽データがすぐ消えたりして、苦労が絶えませんでした。
簡潔にこのアルバムをすすめるなら、「打ち込みが出てきた頃の邦楽で、こんな挑戦をした若きチャゲアスがあった」と、受け取ってください。アジアのスーパースターになる前の彼らを知ると、彼らの進歩と、邦楽の進化が見えてきます。1980年代の昭和歌謡曲が好きな邦楽ファン、過去の邦楽に好奇心を持つ若いリスナーは、ぜひ聞いてみてください。
ちなみに、『Z=One』というアルバム名についての由来です。実は、表題曲『TWILIGHT ZONE』にちなんで、『ZONE』というアルバム名にする予定でした。しかし、初期チャゲアスの最後のアルバム、レコード会社との別れもあり、「終わりは始まり」を意味する、この変わったアルバム名になりました。
「Z」はアルファベット最後の文字、等しさを意味する「=」(イコール)の記号、英語で「ひとつ」を意味する「One」、つまり「最後だけどこれから始まります」ということです。何かを変えることは、何かの始まりでもあるのです。
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