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35年前のチャゲアスからエナジーを受けて思ったこと

皆さんは、邦楽ポップスデュオ、CHAGE and ASKA(以下チャゲアス)のアルバム曲で、何を知っていますか。チャゲアスのアルバムで、表題曲があるのは21枚中、16枚です。どの楽曲も、チャゲアスファンにとって、重要な楽曲として知られています。

今回挙げるアルバムは、表題曲があるものです。1988年11月21日発売された、11枚目のアルバム『ENERGY』(エナジー)です。収録シングル曲は、『Trip』のみです。ジャケットには、CHAGE(以下チャゲちゃん)、ASKA(以下あすちゃん)の片足が見えます。2人の前には、「C and A」と当時のチャゲアスのマークがタイルに彫られています。

CHAGE and ASKA『ENERGY』(1988年)

『ENERGY』は、2023年で発売35周年を迎えました。このアルバムの発売当時、チャゲアスは他アーティストへの提供曲の依頼が、忙しい時期でした。彼らは、優れた作詞作曲をする人材として注目されていた一方、デュオの作品として発表されたこのアルバムは、あまり売れませんでした。

そこまで注目されなかったアルバムでしたが、チャゲアスファンにとって、良い反応でした。

「当時ヒットしていた他アーティストの提供曲とは、全く違う雰囲気でリスナーを試してきて、すごい」
「初めて彼らの音楽を聞く人におすすめするのは難しいが、彼らの個性を思う存分楽しめるアルバムである」
「もっと評価されてほしい濃いアルバム」

アルバムについてチャゲアスファンからの反応

以上の反応から、このアルバムはリスナーを試してきて、売れ線で分かりやすい作品ではないと思いました。人を選ぶかもしれない内容だと思われる意見がありました。
この記事では、ブリが『ENERGY』を100周聞いて、思ったことをまとめました。歌詞は、あくまでもブリの独自解釈なので、一つの例として読んでください。どんな難しい内容だろうと、どこまでもアルバムを聞いていきたいので、どれだけブリを試してくるか、じっくり書いていきました。



♪アイドルとロックバンドの戦い

「歌謡曲」と呼ばれる邦楽は、じょじょに多彩なジャンルが増えてきました。1980年代後半の邦楽界は、アイドルとロックバンドが盛り上がっていました。アイドルの世界では、女性ソロ歌手、男性グループが勢いを出して、1980年代最後の盛り上がりを見せていました。一方で、邦楽ロック界では2度目のバンドブームが起きて、独特なバンドたちが人気を獲得しました。
音楽CDが少しずつ普及していくなか、日本独自の規格である、8cmCDが初めて登場しました。シングル曲を発売する媒体に使われました。CDの発売と並行して売っていた、アナログレコードは少しずつ売上が落ちていきました。

1988年の邦楽界の様子図

2つのブームが盛り上がっていたなか、チャゲアスは精力的に活動していました。1986年に別のレコード会社に移籍してから、今までのフォークと歌謡曲を中心とした作風から、ポップスとロックを中心とした作風へ変わりました。彼らの代表曲『モーニングムーン』『恋人はワイン色』がヒットしてから、当時の流行に乗りながら、独特な音楽性で彼らは注目されていました。1988年は、10枚目のアルバム『RHAPSODY』(ラプソディ)を発売して、その8ヶ月後には11枚目のアルバム『ENERGY』を発売し、それぞれのアルバムを引っさげたライブツアーを2度も行いました。

彼らの活躍は、デュオ活動だけではなく、あすちゃんのソロ活動、他アーティストへの提供曲の依頼が増えました。チャゲちゃん、あすちゃんは多くのアーティスト達に作詞作曲を提供しました。その中で最もヒットしたのは、男性アイドルグループ「光GENJI」(ひかるゲンジ)に提供した楽曲でした。彼らの代表曲『パラダイス銀河』は、同グループの流行を象徴するものでした。この楽曲から、少しずつチャゲアスを知った人々が増えました。


♪ロンドンからの創造力

チャゲちゃん、あすちゃんは、優れた作詞作曲をするアーティストとして注目されていた一方、チャゲアスとしての注目がなかなか高まりませんでした。ただ流行に乗るだけではなく、彼らの海外体験から影響を受けた音楽性を作り上げました。彼らにとって、最も影響を与えた体験は、イギリスのロンドンで行われた、日本の音楽特別番組『世界紅白歌合戦』でした。彼らは日本を代表するアーティストの1組として、選ばれました。集まった海外アーティストたちとの交流、ロンドンの風景と文化から、彼らは自分たちの楽曲でこの空気を表現したいと思うようになりました。1980年代の日本人にとって、まだ海外は簡単に行けない場所でした。海外への憧れが強かったのです。
2人は、ロンドンへ録音作業をしたいと思いましたが、予定がうまく行かずに、ロンドンのミュージシャンたちを日本に呼ぶことにしました。呼ばれたミュージシャンたちは、譜面が読めなかったので、2人は彼らにメロディーを教えて、どうにか作業でコミュニケーションを取りました。完成したアルバム『ENERGY』は、日本にはない海外の空気を音にこめました。

チャゲアスと共に楽曲制作をする、
ロンドンからのミュージシャンたち

ロンドンからの創造力が、後のチャゲアスの名曲を作り出す、重要な体験になりました。そして、彼らがアジア系アーティストとして初めての快挙を見せるのは、まだ先のことです。

このアルバムの音は、今までのアルバムと違って、ドラムとシンセサイザーにエコーがかかって、立体感があるような響きがあります。初めてこのアルバムを聞く人に伝えておきますが、楽曲の音量が非常に大きめで、音楽再生アプリのイコライザーを使って聞いている人には大変なことになるかもしれません。小さい音量で気をつけて、お聞きください。

チャゲアス『ENERGY』発売当時のポスター。
まだ「ASUKA」とローマ字表記だった。


♪愛と快楽の旅

このアルバムに収録されている楽曲は、「都会」「恋愛」「踊り」をテーマにしたものが多いです。これらのテーマ、アルバムの発売年から浮かぶのは、当時の日本が好景気ではしゃいでいた様子です。「愛」を求める男女が登場しますが、どの「愛」も人間の道徳観から超えたものでした。このアルバムから5年前、1983年のアルバム『21世紀』では、チャゲアスは「愛の唄」を歌っていました。あの楽曲では、未来の不安と期待が混じったなかで、「愛」を信じる気持ちがこめられていました。その後、このアルバムでは、快楽の「愛」を多く描いたのか、とても気になりました。
1980年代前半のチャゲアスと、1980年後半のチャゲアスを比べると、全く雰囲気が違います。前者は「少年時代の青春」「情熱」「精神的な恋愛」を描いていました。後者は「大人の夢」「人間の感情」「肉体的な恋愛」が出てきます。彼らが大人へ変化する姿が、楽曲に現れているように見えます。

あと、この作品は好景気の時代に作られたと、後から知りましたが、歌詞の中には当時の流行語、時代を示す単語がほとんど出ません。彼らの歌詞は、難しい言葉がなく、今に通じるテーマが分かりやすく伝わります。

CHAGE、アルバムでの写真より

どの楽曲も、刺激的な恋愛描写が濃く、リスナーの感情を揺さぶる内容です。好景気ではしゃぐ時代に、貞操を乱した男女が遊ぶサイケデリックロック『赤いベッド』。都会で大人の遊びを知った、外国人の女性を歌うボサノバ風ジャズ『東京Doll』。雨の中でいさかいから別れた男女の様子を描いたアップテンポのポップスロック『Rainy Night』。駆け落ちした男女のストーリーを語り、その先は想像のおまかせで締められるスローなジャズ『夢のあとさき』。チャゲちゃんが作り出した楽曲は、強烈なメロディーと繊細な歌声です。

ASKA、アルバムでの写真より

あすちゃんの楽曲も、力強い歌声と情熱的な歌詞があふれています。シングル曲『Trip』は、恋に後ろ向きな女性を男性が誘う、ロマンチックな楽曲です。突然、あすちゃんのスキャットから始まり、チャゲちゃんとアカペラを歌うアウトロで終わります。歌いやすい、キャッチーな楽曲にしない、チャゲアスの姿勢に驚きます。彼らの独特な世界観を感じる、シングル曲です。
『Love Affair』は、男性歌手の清水宏次朗(しみずこうじろう)に提供した、楽曲のセルフカバーです。男女の遊びを官能的に描いた、踊りたくなるノリノリな楽曲です。都会の舗道で、現実と夢が交わる幻想的な世界を描く『迷宮のReplicant』。エコーがかかったシンセサイザーが響くなかで、主人公の記憶をたどる歌詞で、都会の情景が浮かびます。
道徳観と本能に迷いながら、禁じられた恋に燃えて、愛し合う瞬間をこめたスローバラード楽曲『Far Away』。アルバムの最後まで、リスナーに強い刺激を刻みこみます。

表題曲『Energy』は、恋人のデートの予定と、伝えたい言葉に迷う主人公を描き、ダンサブルに歌声とメロディーを奏でます。ライブコンサートで盛り上がる楽曲として、ファンの間で人気になりました。ハチャメチャに踊るチャゲちゃん、あすちゃんの様子が楽しいです。

このアルバムの歌詞は、男女の恋愛を描いたものが多いです。ただ1曲だけ、男女の恋愛ではなく、人間の愛情を描いた歌詞があります。『ripple ring』は、チャゲちゃんがメインボーカルで、あすちゃんはコーラスを歌う、ピアノが響くスローテンポなバラード曲です。人間の平和と愛を描いた歌詞、美しいハーモニーに癒されます。彼らの音楽で「癒やしの力」があふれる魔法を象徴する楽曲です。


♪最後のアナログレコード作品

このアルバムはチャゲアスにとって、アナログレコードとして発売された最後の作品です。次のアルバムからはCDとして発売されました。アナログレコードは、普及していたCDの一方で、次第に衰退していました。レコードより耐久性と音質が向上し、小型化した音楽媒体が広がってきました。CDコンポ、CDの携帯プレイヤーがじょじょに普及しました。CDを発売するようになっても、音楽作品を発売する「レコード会社」という名称は残っています。
後に新たな音楽媒体で、チャゲアスは多くの名盤を出していきます。

1988年の日本の元号は、昭和63年です。「昭和」最後の年でした。昭和最後のチャゲアスは、力強いエナジーを刻んだ作品を残しました。

『ENERGY』発売当時のアナログレコード盤


♪まとめると冒険心あふれる刺激的名盤

以上、チャゲアスのアルバム『ENERGY』を聞いて、思ったことをまとめました。刺激的なテーマ、歌声と歌詞があふれる、非常に濃い作品でした。明るくて、分かりやすい、他アーティストへの提供曲と違って、大人っぽい、刺激的で、独特なテーマと音が、人を選ぶかもしれないと思いました。でも、情熱的でつややかな音楽があふれています。
彼らの音楽から感じたのは、「歌手はただ上手く歌えばいい」というわけではないと思いました。スキャット、コーラス、ハーモニーを駆使して、独特な世界を表現した、彼らの魂がつまっています。
簡単にこのアルバムについて説明すると、「流行にとらわれずに、思う存分に歌う、大人っぽい、冒険心あふれるチャゲアスが聞けるアルバム」ということです。

最後に、彼らが載った音楽雑誌を調べていて、印象に残った言葉を置いときます。彼らが音楽に対する、情熱をこめた言葉でした。
音楽を聞いてドキドキする感情は、時代を超えた、彼らとのシンクロ信号です。

「自分たちにしか歌えない歌
自分たちだから歌わなくてはいけない歌」

CHAGE and ASKA、ヤマハ『ミュージックシティ』1988年12月号より
ヤマハ『ミュージックシティ』1988年12月号表紙のチャゲアス。
当時のアーティスト表記は「チャゲ&飛鳥」だった。

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