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40年前のチャゲアスからの愛の唄を聞いて思ったこと

皆さんは、邦楽ポップスデュオ、CHAGE and ASKA(以下チャゲアス)のアルバムを聞いたことがありますか。大半の方々は、チャゲアスの代表曲が収録されているアルバムか、シングル曲だけのベストアルバムを聞いていたと思います。
チャゲアスのオリジナルアルバムは、全部で21枚発表されました。ブリは、全てのアルバムを聞きました。気に入ったアルバムは、リマスター盤を手にするほど、大切にしています。

この記事で紹介するのは、ミリオンセラーとなったアルバムではなく、チャゲアスがスーパースターになる前に発売されたアルバムです。マニアックな方向を試したくなるブリは、非常に気になるのです。
1983年6月29日に発売された、4枚目のオリジナルアルバム『CHAGE & ASUKA IV -21世紀-』についてです。「IV」はローマ数字で「4」を意味します。フルタイトルでは長いので、この記事では『21世紀』と書きます。チャゲアスのアルバムで、初めてアルファベットと数字が入った題名です。

2023年でこのアルバムは、発売40周年となりました。まさに現在、21世紀を生きています。若きチャゲアスが想像できなかった未来が、今です。2人は別々の道を生きています。このアルバムを作った頃の2人は、25才でした。

CHAGE and ASKA『CHAGE & ASUKA IV -21世紀-』
(1983年)

この神秘的なジャケットが特徴的なアルバムですが、チャゲアスファンのアルバム人気ランキングでは、紹介したランキング最下位のアルバムとともに、最下位の位置でした。そんなに地味な印象なのかと思われますが、チャゲアスファンからの反応は良いです。

「真のチャゲアスファンは聞くべき名曲」
「聞いてると心が浄化されるアルバム」
「なつかしくて、かわいい若い2人が好きな人におすすめ」

アルバムについてチャゲアスファンからの反応

この頃のアーティスト表記は、アルファベットの「CHAGE and ASKA」ではなく、カタガナと漢字の「チャゲ&飛鳥」でした。1979年から1988年までその表記でした。ジャケットでのアルファベット表記で、ASKA(以下飛鳥)はまだ、「ASUKA」と表記されていました。作詞作曲での名前は「飛鳥涼(あすかりょう)」です。この記事で愛着をこめて、チャゲは「チャゲちゃん」、飛鳥は「あすちゃん」と呼んでおきます。

「真のチャゲアスファンは聞くべき名曲」だと聞いて、アルバムに対する興味がわきました。この記事では、『21世紀』が聞くべきアルバムである理由をまとめました。アルバム人気ランキングで最下位の立ち位置である理由、ブリが感じたこと、今に通じるメッセージ、チャゲアスの個性を出した内容を簡単に書きました。歌詞は、あくまでもブリの独自解釈なので、一つの例として読んでください。



♪このアルバムの印象

ブリは、このアルバムを100周くらい聞きました。このアルバムを聞きこんで感じたのは、素晴らしい名盤だと思いました。今に通じるメッセージ、楽しさと神秘性がつまった歌詞、若き2人の美しい歌声が素晴らしかったです。この作品で、後のチャゲアスの個性と方向性を作り出したと感じました。

しかし、ブリが驚いたのは、このアルバムの魅力があまり知られていないことです。チャゲアスは名の知れたアーティストなのに、この頃の作品について、あまり触れられていない様子でした。実は、ファンの世代が違うゆえに、知らない方々がいます。『21世紀』を知るファンは、1980年のシングル『万里の河』からファンになった方々が多いです。一方、チャゲアスのブーム中に発売された、1991年のシングル『SAY YES』、1993年の『YAH YAH YAH』からのファンには、ピンとこないかもしれません。
このアルバムの話を知り合いのチャゲアスファンに言ったら、こう返されました。

「すごくマニアックで渋い」
「若くてかわいい2人」
「そのアルバムを知る人は長いファン歴を重ねている」

知り合いのチャゲアスファン

このアルバムを当時聞いたのは、ブリより2倍も年上のファンです。『万里の河』を歌う、若きチャゲアスを当時見ていた、ブリの両親の世代です。この時代の楽曲は、「懐かしい昭和歌謡曲」のイメージです。このアルバムを聞いていた当時の少年少女たちは、若きチャゲアスと思い出を重ねていました。非常に長い推し活動をしている方々です。俗に呼ばれる「最古参」(さいこさん)ランクのファンです。
ちなみに、ブリの両親は彼らのファンではありません。

このアルバムを初めて知る若い邦楽ファンに伝えておきますが、40年前のアルバムだからと思って、年配向けの音楽という難しいイメージを持ってはいけません。今の少年少女、世界にも通じるメッセージがあります。一見、抽象的で難しい歌詞に見えますが、難しく考えずに、自由に受け取るだけで良いです。時代背景がある、固有名詞や流行語は一切ありません。分かりやすい漢字や言葉づかいになっています。
音が現代の邦楽と比べて、ゆっくりして、スカスカしているような、古く感じると思いますが、落ち着くサウンドなので良いです。若き2人の歌声に粗さが若干ありますが、純粋に良い歌声なのでおすすめします。


♪若き2人の純粋な音楽愛

1983年当時の邦楽界は、アイドルブームでした。数々のソロアイドルたちが過熱していました。ギターを演奏するフォーク、日常や感情を描いたニューミュージック(現在の邦楽ポップスの前身)で、栄えていた邦楽界は、1980年代に入って、海外の音楽の影響を受けて、多彩な音楽ジャンルが増えてきました。演歌、ポップス、テクノ、ロックが流れていました。1970年代に盛り上がっていた、フォークとニューミュージックは終焉を迎えていました。若きチャゲアスは、衣装が派手なアイドルたちより地味な雰囲気と思われて、存在が隠れていました。
(若き彼らが売れなかった理由を考えた別記事はこちらからどうぞ。)

1983年の邦楽界の様子図。

テクノグループ、YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)が発表した楽曲が日本国内外でヒットして以来、邦楽界に打ち込み音楽が浸透してきました。この年、YMOは活動5年目でグループ解散をしました。彼らはこの出来事を「散開」(さんかい)と呼んでいます。この言葉は、後のアーティストたちの間で語り草になりました。彼らが残したノウハウは、現在の打ち込み音楽へつながっていくのです。

雑誌の写真より。海水浴に来た、若きチャゲアス。

このアルバムを発売した頃のチャゲアスは、まだ代表曲が『万里の河』しかないと言われていました。でも、ライブコンサートの動員は伸びていました。フォークが終わりを迎えるなか、どうしても次のヒット曲を出して、フォークデュオのイメージから抜け出したいのです。アルバム収録曲のなかには、フォーク作風だけではなく、ポップス作風を出した雰囲気が少しあります。このアルバムを最後に、チャゲアスはフォーク作風の楽曲を作らなくなります。

ブリは、このアルバムを聞いて感じたのは、彼らは相当練って、制作したと思いました。とにかく音が繊細で、神秘的な雰囲気なのです。癒される弦楽器隊、ノリが良いシンセサイザーの曲調、多彩な作詞作曲と編曲だと思いました。歌詞は一見、難しそうだと思いましたが、きれいな言葉で、純粋に感情を描いたような内容でした。まるで天使みたいで、温かい、純粋な気持ちになれる音楽でした。
このアルバムにかけた、制作期間は1年くらいでした。デビュー4年目のアーティストが、1年でこの素晴らしい作品を仕上げたことに驚きました。まだ新人の彼らに1年ぐらい制作を支えた、スタッフの方々の忍耐に頭が下がります。


♪未来への願いと不安

『21世紀』なるアルバム名を読んで、皆さんのなかに疑問を持った方がいたと思います。「今は21世紀だけど、それがどうした」と。
実は、若きチャゲアスにとって、21世紀は遠い未来と考えていました。1980年代前半の人々には、まだ見ぬ世界なのです。きっと便利な技術が広まり、人々が幸せになっていくだろうと考えられていました。一方で、未来はどうなるか分からない不安も漂っていました。世界中で絶えず、戦争は起きています。天災が世界でいつ起きてもおかしくないのです。感染症や犯罪、すれ違う人間関係は、いつの時代も社会の悩みなのです。明日、世界が終わってもおかしくない、先の見えない不安がありました。それゆえに、世界の終わりを語る創作物が人々を引き寄せました。

アルバム表題曲である『21世紀』は、未来への願いと不安がこめられています。歌詞の主人公は、海辺で緑の髪の女性に出会いました。その女性の不思議な美しさと、彼女が奏でる歌に、主人公はうっとりします。ブリはその女性は一体何者か考えました。「世界」を女性に例えたものだと考えました。世界の混沌に涙して、悲しい歌を竪琴で鳴らしていた。主人公は何を歌っているのか分からない。でも、不安があふれる未来だけど、未来を信じていこうと願うのです。

夜の魔法の世界に惑わされているようだ
きっとそうさ
立ち去ることも出来ず ただあなたの瞳見てた
21世紀に愛の唄はありますか
21世紀に愛の唄はありますか

CHAGE and ASKA『21世紀』(1983年)

この楽曲の作詞をしたあすちゃんは、戦争の悪夢を見て、その怖い気持ちから歌詞を書きました。この楽曲の歌詞は、1980年代を感じる固有名詞や流行語が一切ありません。なので、今聞いても古くさい言葉に聞こえないのです。単なる恋愛曲ではなく、40年前の彼らからの「愛の唄」は、人間の普遍的な温もりを伝えています。2人の美しいハーモニーは、心に訴えかける力を感じます。

『21世紀』歌詞カードでの若きチャゲアス。
写真左からASKA、Chage。
Chageはまだサングラスがなかった。


♪ノリが楽しくて幻想的な歌詞

以前のアルバムと比べて、このアルバムで変わってきたところは、曲調、歌詞、個性です。1枚目から3枚目のアルバムまでと比べると、フォーク作風が少なくなり、ポップスな雰囲気になりました。
以前のアルバムでは、恋愛や青春を描いた歌詞が多かったですが、今回は架空の世界を描いた歌詞が増えました。そして、収録された楽曲にチャゲちゃん、あすちゃんの個性が分かれているような感覚がありました。

ノリの良い打ち込みポップスロックを奏でる女性応援歌『眠ったハートに火をつけて』、片思いの約束を夏の風景に乗せたカントリー楽曲『Fifty-Fifty』。この2曲は、作詞家の松井五郎(まついごろう)が作詞しました。彼は初期チャゲアスの楽曲の作詞に関わっています。後に、光GENJIの有名なアニメ主題歌『勇気100%』の作詞をします。
破れた愛の心境を叫ぶインド風ギターロック『闇』、ハーモニカとギターで奏でる失恋スローバラード曲『夢を見ましょうか』、チャゲちゃんの明るくて切ない、美しい、幅広い作曲を楽しめます。

あすちゃんの楽曲は、神秘的な世界観を展開しています。鐘の音から始まるマーチングドラムとコーラスが流れて、世界の夜明けを描く『自由』、夏の開放感あふれる恋のときめきを奏でる『あの娘にハ・レ・ル・ヤ』、幼少期の風景を幻想的に描いた『不思議の国』は、アコースティック楽曲です。チャゲちゃんとあすちゃんのあどけなくて、深く繊細な歌詞と歌声で、幻想的な世界が展開されます。
パイプオルガンとゴスペルが響く讃美歌『O Domine』(オー・ドミネ)は、後のあすちゃんソロ曲を思わせる、壮大な天の世界へ昇る、ロングトーンの歌声が美しい楽曲です。曲名はラテン語で「おお、主よ」という意味で、キリスト教の神である、イエス・キリストを呼ぶ言葉です。
ちなみに、チャゲアスはそういうのを信仰していません。彼らの歌詞に「神」という言葉が出ますが、特定の宗教ではなく、「目に見えない人間の力を越えたもの」を意味する存在だと思います。

「架空の世界」、「神秘的な音」、「繊細なメロディー」、これらは後のチャゲアスの名曲、各ソロの名曲につながる世界観だと気づきました。お互いの作風をともに見せ合って、尊重する姿勢を持ち始めました。彼らは4枚目のアルバムで、メンバーそれぞれの個性と、世界観を築き上げていきました。


♪実はシングル曲はおまけ

ちょっとした話ですが、『21世紀』は、チャゲアスのオリジナルアルバムで唯一、シングル曲が収録されていないアルバムでした。なんと、全てアルバム曲です。全て新曲という、挑戦的内容です。実は、このアルバムと同じ年に出たシングル曲は、『マリオネット』と『華やかに傷ついて』でした。しかし、これらは収録しませんでした。収録しなかった理由はおそらく、アルバムの雰囲気と違うと思ったかもしれません。

『マリオネット』(1983年)

ちなみに、後のリマスター盤では、未収録だったシングル曲『マリオネット』とそのカップリング曲『謎2遊戯』、『華やかに傷ついて』のカップリング曲『少年』が、ボーナストラックの3曲として収録されました。次のアルバムに続くおまけとして、シングル曲『華やかに傷ついて』は、カップリング曲とは別になったと思います。

『華やかに傷ついて』(1983年)


♪実は初めてのこけら落とし

このアルバムを発売してから3ヶ月後、1983年9月30日にチャゲアスはコンサートツアーで初めて、東京都渋谷区にあるスポーツ施設、代々木第一体育館でライブコンサートを開催しました。邦楽アーティストのライブコンサートで、初めて代々木第一体育館を使ったのは、彼らでした。紆余曲折あって、国の許可を得て、ようやくコンサート会場として使えるようになりました。
彼らの1歩は、後のアーティストたちのライブコンサートにつながりました。若き彼らは、アジアのスーパースターになっていく未来をまだまだ知りませんでした。

1983年当時の代々木第一体育館。
チャゲアスのライブ映像『Good Times』より。
チャゲアス『21世紀への招待 Part 1』コンサートツアーのチケット。
当時のチケット代は3000円。LPレコード盤1枚分の値段である。
当時の少年少女たちにとって、高値である。


♪まとめるとフォークポップス最後の名盤

以上、チャゲアスのアルバム『21世紀』が素晴らしい作品だとまとめました。簡単にこのアルバムについて説明すると、「フォークが終わる頃に作られたポップスアルバムで、人間と愛を描いて、癒されるチャゲアスの特徴が作られた」ということです。
ちなみに、「愛」という言葉は、後の楽曲でも登場します。さまざまな形の「愛」が描かれています。「愛」は重要なキーワードです。いつの時代も、未来を恐れても、人間は「愛」を求め、生きていくのです。多くの邦楽曲で「愛」を歌い、想いを継いでいくのです。

ブリはこのアルバムのジャケットが、一番好きです。雲の上にいるような、非日常空間に置かれたチャゲアスの不死鳥マークがきれいです。ブリは、このアルバムの歌詞カードにある、ステンドグラス風の不死鳥マークをnoteのクリエイターページのヘッダー画像に使っています。

『CHAGE & ASUKA IV -21世紀-』歌詞カードのチャゲアス不死鳥マーク。

チャゲアスは、他のデュオにはない「癒やしの力」が楽曲にあると思います。ただ勢いまかせで熱く歌うだけではなく、繊細に組まれた歌声、歌詞、メロディーは、リスナーの心に響かせて、不安や疲れを癒やしてくれます。この「癒やしの力」は、彼らが愛される理由の一つです。
フォーク作風が最後となったこのアルバムの次に、チャゲアスは打ちこみポップスの世界へ向かうのでした。

2023年は、1983年当時の世界と比べて、大幅に技術が進歩して、音楽の聞き方も、アーティストについて知る手段も、変わりました。チャゲアスの初期作品は、小さなカセットテープやCDに変えました。レコードもカセットテープもCDも、形のないデジタル媒体になりました。当時の媒体はどこかに残っています。音楽雑誌は減り、インターネット上の文字データになりました。

時間も、手間も省ける方法で、手軽に音楽を知ることができました。一方で、大量の情報を見ることになり、人々は疲労がたまり、音楽を聞く余裕が減りました。人々は疲労を癒やすものを求め続けています。音楽からの癒やしを求め、音楽を愛する人々が、今もいます。40年も伝わる「愛の唄」は、21世紀を生きるブリたちを癒やしています。

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