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「トランスジェンダージャパン」が求める「人権」とはなにか~「特例法」と手術要件

◆トランスジェンダーの「人権」

トランスジェンダーの権利が主張されるなか、
「人権」という言葉が使われることがあります。
「それは特別なことではなく普通のこと」
という風にも言われます。
実際に求められているトランスジェンダーの「人権」とは
どんなことなのでしょうか。

まずは以下のビデオをご視聴ください。
トランスジェンダーの「人権」について訴える団体、
「トランスジェンダージャパン」のデモの映像です。

◆戸籍変更と「特例法」手術要件

トランスジェンダー当事者という人たちのなかには
服装や容姿、ふるまいなど、
自身の生活実態を変えるだけではなく、
法律上・戸籍上でも別の性別になりたいと
願う人たちがいます。
日本では、「性同一性障害特例法」(以下「特例法」)
という法律によって、
戸籍変更のための2つの「手術要件」が定められています。
映像のなかでも語られていましたが、以下の2つです。

 1)性器の見た目を女性なら女性器に、
   男性なら男性器に近づけなければならない
 2)断種(生殖機能の除去)をしなければいけない

ここでは詳しい説明を省きますが、
現行の法律は、様々な議論のなかで作られ、
戸籍上でその性別であるためには、
その性別の身体的機能と特徴を有していることを
重要な要件として定めているのです。

◆それは「普通」の「人権」か

トランスジェンダー当事者のなかには、
戸籍変更のための上記の「手術要件」が高いハードルであり、
そのハードルを無くしてほしいと求めている人たちがいます。
その代表ともいえる人たち、当事者であり活動家が
動画でご紹介した「トランスジェンダージャパン」です。

共同代表の畑野とまと氏は「特例法」について
「『子どもを作るな』という法律」であり
「人権が置いてけぼりにされている」と述べています。
また、この「特例法」のハードルを下げることについて、
「特別なことを願っているのではなく、
私たちが普通に日常を暮らせるように
 ……そういう状況を私たちは願っている」とも述べています。
その主張は妥当でしょうか。

「トランスジェンダージャパン」共同代表
畑野とまと
トランスジェンダーは子どもを作るなと、そういう法律です。人の人権が置いてけぼりにされるというのは、非常に困るわけですよ。「議論が必要だ」とか、人権って議論するものではありません。

トランスジェンダーの性別変更に関するルールを一刻も早く変えていただきたい。日本の法律には2つの手術要件があります。
1つは、性器の見た目を女性なら女性器に、男性なら男性器に近づけなきゃいけないという要件。もうひとつは断種しなきゃいけない。これはひどいですよね。

特別なことを願っているのではなく、私たちが普通に日常を暮らせるように、何の問題もなく、たとえば就職活動ができる、何の問題もなく学業に専念できる、そういう状況を私たちは願っているわけです。

同じく共同代表の浅沼智也氏は
手術によって女性から男性へと戸籍を変更した
「トランス男性」当事者として、
自身の現在の状況を含めて以下のように述べています。

「トランスジェンダージャパン」共同代表
浅沼智也
私自身、戸籍を変えれば性別を変えればバラ色になると思っていました。
しかし、健康被害で悩まされています。23歳という若さで生殖器を永続的に欠く状態になりました。ということは、ホルモンが分泌されない状況がずっと続いています。ホルモン療法でホルモンを補給しなければいけない。しかし、ホルモン療法は未だに自費診療なんです。ホルモン療法があまり体に合わないのか、肝機能障害で年に1回入院しています。そして更年期障害にも悩まされているんです。正直言いますと、子どもが産みたいと思っています。しかし、今もう生殖器はなくした状況ですから、子どもが産めない現状です。

浅沼氏は戸籍上女性でしたが、
手術をして男性に戸籍変更しました。
社会的に、法律的に、男性として生きる決断をしたわけです。
しかし、氏は「子どもを産みたい」と述べています。
畑野氏の言葉を借りるならば、それを「人権」として、
「特別なことではなく、普通の日常」
として求めているわけです。
このことに大きな疑問を感じます。

男性が子どもを産むということが可能でしょうか。
それは果たして「人権」のことがら
「特別なことではなく普通のこと」でしょうか。

◆「普通の日常」を阻む差別と「普通ではない」権利(?)の主張

両氏の主張を聴くと、
トランスジェンダー当事者の「普通の日常」を阻む
差別が存在しているということが述べられています。

 ・就職活動において不利益を被る
 ・就職してからも偏見や暴力の被害に遭う
 ・学校生活においても同様の被害に遭う

「トランスジェンダージャパン」共同代表
畑野とまと
特別なことを願っているのではなく、私たちが普通に日常を暮らせるように、何の問題もなく、たとえば就職活動ができる、何の問題もなく学業に専念できる、そういう状況を私たちは願っているわけです。

「トランスジェンダージャパン」共同代表
浅沼智也
たとえば就職です。面接でトランスジェンダーと話しただけで、事例がないからといって落とされたことが3社ありました。どう思いますか。ただ仕事をしたい、働きたいだけで、トランスジェンダーを理由に落とされるんです。そんな時代でした。そして、やっと仕事が見つかって、男性として働ける職場に巡りあえても、アウティング、第三者に自分の性別をばらされる、そういったことの不安があり、実際にばらされました。

しかし、これらの偏見や差別、不利益や被害と、
戸籍の変更は直接関係がないことのように思われます。
浅沼氏も「籍を変えれば性別を変えれば
バラ色になると思っていた(=実際にはそうならなかった)」
と述べていますが、
手術をし、戸籍上の性別を変更したとしても、
それらは解決しなかったというのです。

その上浅沼氏は、手術をした現在も
「精神的、身体的、金銭的苦しみが続いている」
と述べています。

精神的苦しみとしては、
変わらず存在する偏見や差別、不利益や被害、
身体的苦しみとしては、ホルモンバランスの変化による苦痛、
金銭的苦しみとしては、ホルモン治療等のための費用が、
氏の話から想像できます。

精神的な苦しみについては、
手術や戸籍変更によっても「バラ色に」解決しなかった……
それは戸籍上の性別変更によって
解決される問題ではないのです。

身体的な苦しみについては、
一番難しいところかもしれません。
現状は、様々な議論の上で手術要件が設けられており、
その要件を受け入れて手術をした場合、
身体的な変化は当人も承知の上でしょう。
それらの理由から、手術後に後悔をする当事者も
少なくないといわれています。

金銭的な苦しみについては、
まず当事者といわれる人たちには
就職・就業上の困難もあるため、
確かに大変であることが想像できます。
ホルモン治療の必要性については、
これも手術前に必ず説明があるはずで、
それについても当人は承知の上で手術を行うはずです。
また、治療が自費であるということ
についての解決については、
性同一性障害は「治療が必要な病気ではない」扱いとなっているため、
(当事者や活動家も、「治療が必要な病気」という扱いは拒んでいる)
保険適用の道は現実的には難しいでしょう。

「トランスジェンダージャパン」の
共同代表である両氏の主張は、
決してトランスジェンダー当事者すべての考えを
代表するものではありません。
しかし、「特例法」の変更を
「人権」のことがらとして主張しようという意見の
わかりやすいひとつの例です。
上記のように見てくると、そこでは
「普通の」「権利」、「人権」として主張されるには
無理がある、以下のような主張が
述べられているのではないでしょうか。

 「戸籍上は男性になりたい。けれども女性の体で子どもは産みたい」
  (戸籍上は別の性別になりたい。けれども体は元の性別でもありたい)」
 「身体を変化させたい。けれどもホルモンバランスが崩れるのは嫌だ」
 「病気として扱われたくはない。けれども医療費は保険適用してほしい」

どれも、畑野氏がいわれる「特別ではなく普通のこと」ではなく
「普通ではなく特別なこと」であるように思います。

そして繰り返しになりますが、
トランスジェンダー当事者が味わう精神的な苦しみの根本的原因は、
戸籍の変更によっては解決しないということも重要です。

◆トランスジェンダーの「人権」とはなにか

「トランスジェンダージャパン」は、
戸籍変更のための「特例法」手術要件について
そのハードルを下げること、
そのことによって、トランスジェンダー当事者が
「普通の日常」を過ごすということを「人権」として
主張しています。

しかし、そこで述べられていたのは、
たとえば「戸籍上は男性になりたい。
けれども女性の体で子どもは産みたい」
(戸籍上は別の性別になりたい。
けれども体は元の性別でもありたい)」
というような、決して「普通ではない」権利(?)の主張でした。

また、自身が望んだはずの戸籍変更によっては
その苦しみは解決しなかった……
いやむしろ、そのために行った手術を通して、
更なる苦しみを負うようになったようにも思われます。

戸籍変更……そのための手術……
手術要件のハードルを下げること……
手術がなくとも体を変化させていくホルモン治療という方法……
それをしやすい環境を整えていくこと……
それらは本当に、当事者の「人権」を大切にする方法なのでしょうか。

少なくとも、「特例法」について述べられた
上記の「トランスジェンダージャパン」の主張は、
「人権」を求める主張であるとは言えないように思われます。
トランスジェンダー当事者の
精神的、身体的、金銭的苦痛の解決のため、
幸せな日常のために、本当に必要なことはなんなのでしょうか。

トランスジェンダーの「人権」について
皆さんはどう思われるでしょうか。

感想をお待ちしています。


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