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【羽地朝和インタビュー】スタッフが社長に15分1on1をしてみる①「新任管理職研修」

近年、組織開発のなかで部下の成長を促す方法として注目される1 on 1
この企画では、それを立場を反転させて行うことを試みます。そのようすをインタビュー記事にしたものです。

話し手:
羽地朝和(プレイバック・シアター研究所所長・コンダクター・研修講師)

聞き手:
向坂くじら(プレイバック・シアター研究所スタッフ・詩人)


新任管理職研修となると、何か暗いムードが漂うのでは


―今週(2021/10/11-17)はいかがでしたか?

実は、けっこうキャンセルがあって、研修は月曜と金曜の二回だけでした。それぞれ新任管理職研修をやったの。新任管理職ってわかる? 今年度管理職になった、つまりこれまでは管理職じゃなかった方に向けた研修ですね。同じ職場にいても、普通に働くのと、管理職として働くのとでは違うのですよ。

―わたしの偏った認識では、「組合を抜ける」みたいな……

えっ。笑 そういう視点なんだ、なんでそんなこと知ってるの。

―夫が言ってました。

まあ、もちろんそういう見方もありますね。ただ、それはあくまでもその会社の組織上のことですね。何が違うか簡単に言うと、野球の選手と監督の違い。選手はフィールドに出て試合をする、監督はフィールドに出ない。その代わりに何をするかっていうと、勝つために指示を出して、選手を動かしたり代えたりする。

―働く側から働かせる側になる、みたいなイメージはめっちゃあります。

そうだね。おもしろいからその面で話をしようか。
それはあるかもしれないけれど、僕は現代においてはあてはまらないと思う。昔の管理職は、資本家、経営者と同じ会社側。ある意味では労働者を管理する側、という構図があった。
その傾向は、特に欧米が強いと思ってるの。例えば欧米だと、企業の幹部とそれ以外とでは食堂が違う。ところが、日本はみんな一緒。管理職と管理職じゃない人とで、待遇はそんなに大きく変わらない。
逆に日本の場合はもっとすごくて、管理職が搾取されている時代になっている。どういうことかと言うと、社員には残業代が出るけど、管理職になると残業代が出ないんだよ。最近は、「残業させたらいけない」とよく言われてるでしょ。でも仕事量は減ってない。じゃあ、そこは誰がやっているか、というと、全部管理職がやっている。

―じゃあ、新任管理職研修となると、何か暗いムードが漂うのでは。

そこを僕は明るくする、というか……新任管理職研修に行くと必ず、「今の若い人は誰も管理職になりたがらない」と言われる。

―それは人事の方が?

ううん、参加者が。初めは「だから若者はだめですね」という口調なの。でも、僕がそこで必ずハッキリと言うことにしているのは、「いや、それ皆さんが魅力がないからですよ」ということ。「皆さんがもしかっこよくて生き生きしてて、管理職は最高、管理職だからこんなに仕事がハッピー、という姿を見せていたら、みんな管理職になりたがるはずだ」と。
ですから、皆さんがいかに輝いているか。で、プライベートも仕事も含めて、幸せに生き生きとしているか。少なくともそういうことが、直接口で言わなくても体から滲み出ていたら、みんな管理職に殺到しますよ。ですから、みなさんぜひ若い人から見てあこがれの管理職になれるように、今日一日学びましょう……という導入が最近は多いかな。


課題達成機能と集団維持機能


―新任管理職研修があるということは、管理職になる上で必要なことがあるわけですよね。

二つあります。技術やスキルを学ぶことと、心構えを持つこと。よく企業の言葉ではマインドセットともいうね。多くがこれまでと同じ職場で管理職になっているから、共に働く人も一緒、やっている仕事も一緒、でも立場が違う。っていうときに、これまでとなにが違うかって言うことです。

―技術やスキルでいうと、具体的に何が必要になるんですか?

マネジメントスキルです。

―マネジメントスキルって、言葉は聞きますけど、あんまりよくわかりません。

大きく分けると、課題達成機能と集団維持機能の二つの機能があります。課題達成機能は、とにかく決められた数字を上げて、職場全体の目標を達成する。もしくは、そこで起きた問題や課題を解決する。これがひとつ。
で、集団維持機能というのは、チーム、組織をよい状態に保つこと。要は、皆が生き生きと働ける場づくりとか、皆のモチベーションだったり一体感を高めるとか、場合によってはちゃんと育てる環境を作るとか。あとはまあ最近だと、メンタルヘルスとかストレスに関してもよい状態を保つ。
この二つを両立させることです、っていう風に僕は言ってます。ただし、これは片方さえあればいいというわけではなく、やっぱりどちらもできないといけないでしょう。課題を達成するにはみんなが生き生きと助け合うことが必要だし、もう一方では仕事にしっかりと取り組んでアウトプットを出すことがみんなの成長にもつながる。だから常に相互に補完し合っている。



「わかる」と「できる」の間をどう埋めるか


―前から、企業研修に対して疑問に思っていることがあって。たとえば、「課題達成や集団維持が大事ですよ」と言われて大事だとわかる、ということと、それが実際にできる、ということとは、すごく別のことですよね。

そのとおりです。

―そんな中で研修は一日しか時間がない。というときに、今回で言うとどこからどこまでを研修の中で扱うことになるんですか?

まず、必要な知識はお伝えします。そして僕の場合は、その次に「自分の仕事エネルギーが10だとしたら、課題達成と集団維持の比率は何:何ですか」という問いかけをして、皆さんに書いてもらう。すると、多くの人から「課題達成8、集団維持が2かな」というような話が出てくる。
そこで、「組織、チームがこれからちゃんと継続的に成果を出し続けるためには、本来何:何ですか」と問いかけをする。すると、「あーやっぱり5:5かなあ」と返ってくる。「じゃあ、8:2から5:5にするためには何を変えて何を止めないといけませんか」……と考えてもらうと、「あぁ、ちゃんと部下の育成とか、マネジメントとか、そっちをやらなければ出来ませんね」みたいな気づきが起きてくる。そこではじめて、じゃあこれから具体的に何をやるか、何を止めて何を始めるか、ということをグループで話してもらう、という時間にしています。一日だと、確かにここまでだね。

―バランスをとるのが肝要ということですかね。

えっと、僕はね、バランスをとるというより、8:2がいいと自分で思ったらそれでもいいと思っているの。何も5:5をやれとは全然思っていない、これもはっきり言います。もしね、例えば緊急事態だったら、もう10:0だよね。でも10:0でずーっと続くと育たない、そのうちみんなの心がバラバラになって、疲弊しちゃう。

―集団維持側の緊急事態、ということもありますもんね。

そう、逆にね。みんながぞろぞろやめちゃったようなときにはまずケアしてあげないといけない。


シェアードリーダーシップ


だからもう、これ俺に当てはめるといいんだよ。俺はなんだかんだ言って結局自分で稼いじゃう、仕事しちゃってる。ということは、俺はもう多分9.5:0.5ぐらいだよ、いま。

―そうですか?

もちろんくじらちゃん、うらら、ゆりさんはもちろんあまり僕が育成しなくてもちゃんと自分で自立的に仕事をしてくれているけど、僕は正直に言って、ゆりさんに集団維持は任せてるなぁと思ってる。

―それはでも、広く羽地さんによるマネジメントということもできますよね、ゆりさんに集団維持を任せるということ自体が。

くじらちゃんやっぱりあなた頭いいわ。

―えへへ。

いいマネージャーになるよ。その点については次に説明をしようと思ってたけど、「シェアードリーダーシップ」というものがある。シェアっていうのは、つまり「分ける」こと。
だから、「私は課題達成やるから、あなたは集団維持をお願いします」っていうふうに、二人のリーダーが二つの機能をそれぞれ相互に補完する。それがうまくできていると、良いチームとして機能しながら、みんなも生き生きと育つ。ということは、研修でも必ず言うようにしています。くじらちゃんの言う通りです。


ストーリーはストーリーを引き出す


―わたしがおもしろいなあと思ったのは、さっきも言ったように、研修という場で集団の維持、課題達成、と言っても、それが現場でどのように実現されるか、ということとは、すごく遠いじゃないですか。でも、その普遍的なことをそれぞれの個別な問題に置き換える、という手順は、羽地さんがやるんじゃなくて、受講生の方が自ら考えられるようになっている。そのプロセスが、羽地さんがやろうとしていることなのかなあ、と思いました。

そのときに僕は、自分の事例を出すの。経営者として、管理職として、自分の場合はこうだったということを語ると、みんなも「それは自分に当てはめるとこういうことだなあ」と思える。
これは、プレイバック・シアターとも同じだと思う。プレイバックの時も言うけれど、「ストーリーはストーリーを引き出す」。今くじらちゃんが言ったこともストーリーの働きに似ていて、他の人のストーリーを聞くと、「自分にもこんなことあった」と思いながら聞くことができる。それと全く一緒だね。

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