AKB48選抜総選挙を語ってみる

HKT48指原莉乃が第1位を獲得し、史上初の二連覇を成し遂げて終幕した第8回AKB48選抜総選挙。今の中学生あたりは「総選挙」というとアイドルものという印象を持っているのではないか、というくらいに総選挙=AKB48というイメージが付いた。

傍から見れば、「総選挙商法」と揶揄されるようなシステムである。一人一票でもなければ、投票方法も一つではない。CDの投票権のほか、モバイルサイトの投票、当日会場での投票など多岐にわたる。ゆえに、指原莉乃は24万票余りを獲得した。地方都市の首長選でもなかなか目にしない数字である(そもそも有権者が24万以上でないとありえない数字)。票集め=金集めに見えるあたりが、この「選挙」に批判が集まるゆえんである。

そんな選挙であるが見ていると実に面白い。私自身は第3回から、少ない票数であるが投票に参加し、見てきた。そこで分かったことは、総選挙がファン心理を理解したり、メディアの力を理解したりするのに、もってこいのイベントなのだ、ということである。マーケティングに生かせるのだ。毎年注目される「スピーチ」もまた面白い。しかし、そんなアイドル市場を映し出す鏡のような総選挙も、リアリティ溢れるエンターテインメントであると同時に、当事者のアイドルたちにとっては地獄のような時間であるのだ。それでも彼女たちは全力でぶつかっていく。この「ガチさ」がなければこのようなイベントは8回も開かれなかっただろう。

総選挙が映す「ファン心理」。これは、第1位が交代していく形ににょじょつに現れる。今回の指原連覇により奇しくもこの流れは断ち切られたが、その「断ち切り方」も実にファン心理を映し出している。

指原は自身の番組「HKT48のおでかけ!」で「ファンは、前年の結果や速報の結果でそのモチベーションが変わる」ことを示唆した。つまり、第1回より熾烈な争いを見せた「前田・大島戦争」は前年の結果を覆すために行われたともいえるし、近年の「指原・渡辺戦争」も同様である。速報結果によるモチベーションは今回如実であった。速報段階での一位渡辺と二位指原の票差は1000票に満たない。これが大差であったらまた違っただろうが、わずかな差であることがよりファンのモチベーションを上げる。まして、情報として「渡辺陣営は相当力が入っている」と入ってくれば、指原陣営が本気を出すのは言うまでもない。指原が昨年より5万票も票を伸ばせたのはこのような背景がある。ファン心理を突くこのイベントは、実にうまくできているといえる。

メディアの力は、「SKE48の失速」と「選挙に弱いNMB48」に現れると考えられる。AKBの拠点である関東、SKEの拠点である中京、NMBの拠点である関西の人口差を考えれば、圧倒的に関東有利である。この関東で番組を得られるか否かは大きい。事実、SKEが強かった数年は関東ローカルでの冠番組(「マジカルラジオ」シリーズや「エビ」シリーズ)を持っていた。この1年、SKEとNMBの地上波の冠番組はない。人口の多い=ファン層の多い関東で知名度を上げられなかったのは痛かった。どんなにテレビの斜陽化が訴えられようとも、いまだにその広告力は健在であるが故、関東ローカルを持つHKT(「HKT48のおでかけ!」や「HaKaTa百貨店」シリーズ)との差が出てしまったのは致し方ない。

上位にメディア露出の多い各グループのエース級メンバーしかしないあたりもこの「メディアの力」を示している。これまで多少見られた「(メディア基準で)無名のメンバーが突如選抜に入る」ことはなかった。そこそこ期待されたメンバーや、圧倒的な知名度を誇りつつあるメンバーが占める今年の結果は、メディアの力の大きさを感じる要素として十分である。いくらSHOWROOMやTwitterを駆使していても伸び悩むメンバーをみると、テレビの存在の大きさを見せつけられているように感ずる。

選挙が終わると劇場支配人が頭を下げる様子が見られる。うまく分析すれば今後に生かせるはずなので、ぜひに運営陣には選挙の分析を細かくやっていただきたいものである。

この総選挙でよく言われるのは「浮遊票」の存在である。これもよくよく考えればおかしなもので、推しがいなければ「投票しない」このことのほうが多いと思われる。本物の総選挙(衆議院議員選挙)でも無党派層の存在が重要視されるが、無党派層ならずとも、良い政党がなければ投票しないこともある。ゆえに投票率は低いのだが。いくら票を持ったメンバーが立候補しなかったとしても、よほどの箱推しファンか「誰でも大好き」(所謂DD)でなければその浮遊票は生かされない。浮遊票は黙っていては勝ち取れない。何らかの行動に出なければならないのだ。そこを考えれば、今後の「総選挙の勝ち方」が見えてくるだろう。

何はともあれ指原莉乃が一位であった。王道アイドルの渡辺麻友ではなかった。名古屋のエース松井珠理奈でも、難波のエース山本彩でもなかった。テレビ露出度もダントツを誇る指原が次なにを見せてくれるのか、楽しみである。


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