名曲プレイバック 第4回 まちぶせ

唄: 石川ひとみ

作詞: 荒井由実  作曲: 荒井由実  編曲: 松任谷正隆

1981年(昭和56年) NAVレコード(現 ポニーキャニオン)

 夕暮れ時の街角、喫茶店をちょっとのぞいたら、見覚えがある二人がいたの。一人はわたしが密かに思いを寄せる人。一人は知り合いの子。わたしの好きな人とその子は仲が良くて、もうデートを重ねているみたい。そうか、あの子がきれいになったのはあなたに恋をしているからなのね。そんな二人の様子を近くで見ているけど、わたしはあなたのことが好き。でもなかなかその想いを伝えられない。それでもいつかあなたを振り向かせるんだから。ある日、あの子がフラれたという噂を聞いたわ。わたしはあの子みたいに言い寄るなんてしない。あの人からわたしに言わせるの。だからね、別の人からのラヴ・レターを見せたり、まちぶせしたり。わたしがそこまでする理由はなぜかって? それは、胸の奥でずっとあなたのことを想っているから。ただそれだけ。きっとあなたを振り向かせるわ。

 小説風にストーリーを書けば上記のような形になるだろうか。

 透き通るようなコーラスとストリングスのイントロに始まり、石川の声で夕暮れ時の描写がやさしく歌われ曲が開く。その合間に聞こえるチェンバロが哀愁を誘う。全体として温かみのある弦の響きが美しい。なぜだか目頭が熱くなる。なぜだか胸がキュッと締め付けられる。誰でも一度はあるのではなかろうか、こんな甘く切ない恋模様。青春の1ページ。

 モノローグのように語られる恋物語のヒロインは時に「怖い女」「ストーカー」とまで言われる。果たしてそうだろうか? 誰だって、追いかけたくなる人がいるのではなかろうか。実際行動せずとも心の中ではずっと追っている、そんな人がいるのではなかろうか。もし、好きな人が別の異性と喫茶店で対面していたら、あなたはどう思うだろうか。ある人は嫉妬に燃え上がるかもしれない。ある人はスッと身を引くかもしれない。それでも嫌いになってしまったわけじゃない。どこかでその人を追いかけている。そんな恋愛もあるのではなかろうか。

 三木聖子の楽曲として1976年に発表されて以降、石川ひとみによる大ヒットを経て、男女問わずさまざまな歌手がカバーをしてきた。なぜこの歌は長く歌い続けられるのか。それはこの描いた恋の形にあったのだろう。字面だけ見れば、確かに怖いかもしれない。でもおそらく各々心の中にはこの歌のようなもう一人の自分がいる。それを鏡のように映されているから怖いのだ。

 この歌は恋愛の真理を描いていたのかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?