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プリースト 悪魔を葬る者(2015年 韓国)ネタバレあり

悪魔払いに挑む神父たちの姿を描いたオカルトサスペンス。

これは6年前にさしたる期待もなく観た映画なのだけど、自分の中で大ヒット。

先日エクソシストの映画の話でも書いたのだけど、何はさておき、あんな恐ろしいものに立ち向かって行く人間というものが一番恐ろしい。神様が居るかどうか分かんないし、過去、神を信じて来た者たちの惨劇の歴史だって知っているだろうに。

しかし、これまでの悪魔祓いモノに登場する神父たちは、皆さん神父のイメージから外れない神父らしい人たちだったと思うのよね。

ところが、この主人公たちは、非常に親近感が湧くような人間らしい神父たちというイメージ。葛藤がある。欲もある。綺麗ごとの世界だけで生きてない。

特に、今回の悪魔祓いのために助手の神父を選別する際のプロセスが笑えるほど面白い。神学校の授業中に漫画読んでいたり夜ごと酒盛りしていたりする寅年の主人公が適任だとは。

この若き神父が行く前に、既に10人以上の神父が失敗して死んでいる。それを知っているというのに、何故震えながらも悪魔祓いに出かけたのか?それには幾つかの理由があった。

それはトラウマのせいもあるのだけど、結局は根性と信念だよな と映画を観終わった後に思った。

『おまえはいつからここにいるんだ?』という問いに悪魔は答える。

おまえたち猿が3万3630匹になった時からいる。
苦しみ 病 飢饉 戦争 そして平和なときにもおまえたちと共にいた。 歴史をよく見ろ。

悪魔の悪臭と恐怖から、逃げ出すかどうか迷っている主人公に悪魔が言う。

知恵ある者 よく聴け。 観て観ぬふりして生きれば良いんだ。

そうだ。そうやって信念なんて曲げて生きれば安全だ。と、人間社会でも言われて来たことだろう。

それでも屈しないと、悪魔は次の手を使う。命知らずで脅しが効かないなら、愛するものを不幸にするぞと脅しにかかる。

ペテロ おまえは4年後牢獄で血を吐いて死ぬ。 甥っ子の目玉をくりぬいてやる 妹の子宮をえぐり出してやる。

とどめに、悪魔が見せる幻影は、病に侵された自分自身の姿だった。その自分が目の前に立って言う。

逃げろ。それが、おまえの特技だろ。

これが一番こたえた。自分自身が自分に貼ったレッテル。

いつも弱虫で逃げる者。

ここで一旦は逃げ出す。幼い頃、裸足で逃げ出した時のように。

しかし、逃げ出した後の夜の街角で、再び見せられた幻影は、その昔、ある恐ろしい出来事から泣きじゃくりながら裸足で逃げ出した幼い自分自身の姿だった。その昔の自分の姿を観たあと、自分の足を観ると、今回も靴も履かずに逃げ出している自分に気が付く。

自分自身を見つめたのだ。

彼は戻った。再び立ち向かうために。

先輩神父に『何故 戻った?』と訊く。負けず嫌いの若い神父は『靴を忘れたので。』と答える。

とても印象に残ったシーンはここから先だった。

先輩神父は言う。

『悪魔祓いをした神父は一生悪夢にうなされて眠れないぞ。しかも、このことを誰にも信じて貰えないし、認めても貰えないぞ。』

つまり出世とは無縁であり、この先も孤独が待っている。それでもやるのか?と問いかけている。

それに答えて主人公は一節を唱える。

『人の子よ 彼らを恐れず 彼らの言葉も恐れるな
例えイバラに囲まれても さそりの群れの中に住んでも』

飲んだくれてばかりでなく勉強もして来たんだなあ。

再び戻って来た二人に対して悪魔が応戦した方法も印象的だった。人間たちに未来起こるであろう不幸を早口で叫び続ける。

342日後に橋が落ちて78人が死ぬ。7803日後5棟のビルが崩壊し5680人が死ぬ。6680日後、お前たちは人間を創る。おまえたちが憎い。4万275日後飲み水が無くなる。8万5938日後黒い風船が破裂する。728万4430人が死に、オゾン層が破壊される。9万325日後おまえたちの半分が死ぬ。

つまりは、おまえたちが闘って何になるんだ?全部無駄だぞ!という戦法だった。しかし、もはや二人には迷いは無かった。

『俺たちは人間を肯定する』

その意志に屈して、悪魔はとうとう自分の名前を明かしてしまうのだった。

あの逃げ出した街角で、幼い自分の幻影を見せてくれたのは誰だったのか?幼かった自分自身を、今度こそ自分で救え。それが出来るのは、他の誰でもないぞ!と示唆したのは、誰だったのか?

もちろん、決して悪魔ではないはずだ。

これはある意味、『克服』のドラマえもある。

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