永遠を見つけた日
施設での”お看取り”とは、配置医が診断した瞬間から始まる。「この方はもう長くはありません。」
もちろんその診断の前には、”ナースや介護職員による膨大な量の報告”という情報があるし、医師も血液データーなどをしっかり読む。
それを盾にして貰ったのがご家族との面会許可だった。もう何日も食事を摂っていなくて傾眠傾向だった。そしてとうとう水分も摂らなくなった。
苦しくもなく、痛くもなく、穏やかだけれど、酷く悲しかった。このままご家族様と会えないままだとしたら。
ところがどっこい、長女様ご夫婦が面会の際に持ってきたアイスクリームをぺろりと召し上がった。
その際、せつなくやるせない気持ちで眺めていたご家族様や私の気持ちとは裏腹に、なんでチョコレートアイスにしなかった?と苦情を述べられたのでビックリした。何せ最近は発語すること自体がほとんど皆無だったから。
なので、その後、チョコレートアイスを持参してのご面会。それもペロリと平らげた。おおおお!素晴らしい!
その次は、ビワを刻んだものを差し入れして下さった。しかし、これはバツ。
ペッ!と吐き出して二度と口を開けてくれなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・。ど、どうしよう。スプーンを持ったまま固まっている長女さんが悲しそうだ。
しかし、次の瞬間、長女さんが「あのう、プリンはどうでしょう?」と仰ったので、雷に打たれたかのようにプリンも好きですかっ!?と身を乗り出した私。← 顔近づけ過ぎ。
「はい。好きだったんですよね。よく家族皆で食べてたんですよ。」
じゃあ、今、ひとっ走り行って買って来ますよ?!コンビニで!
「いやいや、また今度買って来ますよ。ふふふ。」と笑う娘さんのその背後でお母さんもそっくりな顔で笑っている!笑ってるやん!もう、可愛いなあ!
そして後日、美味しいプリンをペロリ。さらに後日の今日は、一周回ってまたバニラアイスを完食。
いやー!凄いなあ!Fさん!と有頂天になっていたところ、後ろから肩をトントンと叩かれたので飛び上がるほどビックリした。私の相方でもある介護主任のKちゃんだった。
「あのですね。もう復活してご飯を食べられるようになったって言ってるでしょうっ!(怒)」
え?ほ、ほんとに?初耳だなあ。しっかり報告してくれないと困るなあ。
「今朝も言いました。昨日も言いました。一昨日も家に帰ってすぐ言いました。もう聞いてないじゃ通用しませんよ。」
もうとぼけられない。開き直って「じゃあ、何かい?再び面会を謝絶せよと仰るんですか。あー、そういうことですか。」と攻撃に出てみた。
「いや、昼食前にいらっしゃるとお腹いっぱいになっちゃうから午後のおやつの時間にして貰えるとありがたいですねっ!えー?こら!」
え?ああ、なるほど。言われてみればそれもそうですよね。← 再び敬語。
その後栄養士さんからも「体重が増えています。」と怒られた。
ご家族様は笑っていた。
アイスクリームはやっぱりいつか溶けてしまうだろう。
でも、ただひとつ確かなことは、ここにいる全員が、それぞれの立場でこの人のことを愛しているってことだった。
これからもずっと。永遠に。
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