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肩こり以外にも効く(メーカーの回し者ではありません)

高齢者施設は一般的に老人ホームと呼ばれているわけだが、必ずしも80歳90代の方々ばかりとは限らない。
毎日メイクなさる若めの女性もいらっしゃる。皆さん色んな事情があってここに辿り着いた。

で、勤めたての頃、バイタル周りをしていると、この人にジッと見詰められて、ちょっと怖かった。長い黒髪とブルーのアイシャドウで、ちょっと魔女っぽいイメージがあるからだ。『な、何か?』

『あなた、霊感あるでしょう?』

・・・・。いや、あるような、無いような。でも、コントロールできないし良く分からないままのことの方が多いので、自分では無いってこと分類しています。(過ぎ去ると全部夢だったのかな?と思うことも多いのよね。)

『うん、わかるよ。わかる、わかる。』

何が分かるのか分からないのだけど、そのまま雑談を楽しんでいた。

『夜中にね、時々、知らないおじさんが来るのよ。』

ごくごく軽度の認知症もあるがお若い頃に統合失調症を患ったこともあるそうだ。そのせいで誰に言っても「はいはい。」と妄想扱いされているのだと思う。

が、私はこれ、本当だなと思った。何故か?というのは理論的に説明できないけれど。

そうですか。そのおじさんは何か害を与えて来ますか?

『何もされないんだけど、寝ている私に顔を近づけて来たり、上に乗っかったりして凄く重いし気持ちが悪いの。顔をハッキリとみる勇気がないけど、もしかしたら若い頃に付き合っていた人かも知れない。そんな気がする。』

うーん、困ったなあ。ここの看護師は夜勤がないから、その場で追っ払ってあげるってことが出来ないんですよね。だから、今度自分で「嫌だ。おまえ、嫌い。止めろ、消えろ!」って言って貰えます?情け容赦しないできちんと。

今でも美しい人なので若い頃はさぞモテモテだったことだろう。けれどもモテるということは良いことばかりでもない。男からも女からもマイナスの、しかも、しーーーっつこい恨みや妬み嫉みを向けられる。

『分かった。』

後日その人が『夜中にガチギレしたら、本当に消えたよ。あれから全然来ないよ!ありがとう!』とのこと。

とっつきにくい感じの方だったのだけど、それから普通に喋ってくれるようになった。

***

あれから何か月も月日が流れたある日、その人のところへバイタルを測りに行ったら『ど、どしたの?珍しいじゃん!くっついてるよ!乗っかってるよ!』と言われた。朝の忙しい時間帯である。

そうなんだよ。お盆の始まり頃に疲れが溜まっていたというのもあり、うっかり生霊に乗っかられた。

『何?怖い!〇〇さんにそっくりじゃん!凄く歪んでるけど!』

忙しいので、そうなんだよ、そうなんだよと言いつつも彼女に手早く血圧計を巻く私。

何が左肩に乗っかっているのかというと、すっごい執着が強い人で、誰にとっても自分が一番でないと気が済まない、しかし、恨んでいる人からも好かれたいという、ありがちな、実に面倒臭い思念の塊のような人が居て、どうもその人の仕事と私生活がうまく行っていないとのこと。物理的には部署が移動したので安心していたのだが、何でもかんでも人のせいにする人なので何故だか不幸を祈られているらしい。

何もしていなくとも恨まれるということがこの世にはあるのだ。

慄いている彼女に『そうそう、そうなのよ。』と言いつつ、血圧の数値が出してくれるまで少し待たなければならないので、その間にポケットからアンメルツヨコヨコを出して自分の肩や首筋に塗る私。『まいっちゃうよ、まったく。』とヌリヌリ。

『な、何やってんの?』

いや、何かほら、こういうのって、肩こりとか首寝違えちゃった時と症状が似ているでしょ?

『いやいや、原因が違うんだから効かないでしょうよ!』

血圧計が弾き出した数字が190代だった。いかん。動揺させ過ぎた。測り直し。

効くよ~。とにかく良くなるために、自分に何でもするという姿勢を行動に移すと、何でも効くよ~。死霊だろうが生霊だろうが、悪霊は皆、自分をいたわるポジティブな行動大嫌いだからねー。居心地悪くなるからねー。
だから、うっかり乗っけちゃったときほど楽しく過ごすよー。

今日はどんな美味しいもの食べてやろうかなー?って思いつつ働いているよ。あ!素晴らしい!血圧120/58だよ!こりゃ若い人の数字だね!

その数字に凄く喜んで爆笑しつつ『あ、ほんとだ。○○さん、少し薄くなった。』という彼女。

でしょー?でも、こいつは相当しつこいからね。もうちょっと本気で自分を楽しませて生きないとね。

『私もそうする!』と言う彼女は、テレビのチャンネルを気ままに変えて毎日を楽しんでいる。そうかと思うと『あ!今日はお風呂の日だった♪』と言って、いそいそと支度を始めている。良いねえ。湯舟につかったりシャワーを浴びることは実に良いよ。(心霊的な意味でも)

ここは老人ホームだ。でも、楽しければ場所なんてどうだった良いのだ。

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