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思い出の中と今と

今日は休日だったが、抗生剤の点滴をやらなければならない人がいたので、ちょっとだけ出勤した。
そして帰りが夕暮れ時になった。

ところで、今の勤め先に通っている道で、何故だか思い出す人が居る。

もしかしたらもう二度と会うこともないだろうと思う。もう何年も経って、その人も私もそれぞれ違う場所へ引っ越した。勤務先も変わった。

そう言えば、その人の引っ越し先は、この沿線の二つ手前の駅だったなあ。全然違う場所なのに、何故この道を歩いていると時々思い出すのだろう?
多分数年前にその人がライブをやった会館がその道筋に建っているからだろう。

そんなことを思っていたら、その小さな通り沿いにある薬局の前に見覚えがある人が居る。

買い物をしたのか、自転車に乗ろうとしている様子だった。

『Iちゃん?』と私は声をかけた。

その人は、目をまん丸くして驚いた顔をして数秒間声を発しなかった。

『なんで、こんなところに居るの?』

それはこっちのセリフだった。丁度今思い出していた人だった。

私は今、この先の施設に勤めていて仕事帰りで、彼女は反対方向にある勤め先からの帰り道なのだとか。いつもこの道、この時間、私とは反対方向に向かって二つ先の駅にある家まで帰っているのだと。

しかも『やっぱりそうだ!』とその人が言う。『自転車で走っていて、何度かすれ違ったんだよ!よく似た人だなあ?って、その度に思ってたんだ。やっぱりOhzaさんだったんだ。』と。

その人とは色んなことがあった。大事な友達だった。でも、ちょっとややこしいことがあったり気まずくなったり。

互いに退職して会わなくなってから一度だけ飲みに行った時だろうか。『本当はこれこれしかじかだったんだよ。だからアピールしていたのに。』と言っていた。

そんなの、言ってくれなきゃわかるか。というか嘘ばっかり!とお茶を・・・でなく酒を濁した。本当に不器用な人だった。でも、今でもあなたは大事な友達。

『Kさんは?』と訊いてくれたので、『同じところに勤めているよ。』と答えた。

『そうか。良かったね。』とその人は言った。『やっぱりなあ。』と。

この道は細長い一本道。

いつだったかその人がくれた絵本にちょっと素敵な物語があった。男女が居て、隣同士の部屋に住んでいて、一人は右周りに進む癖があり、もう一人は左側に進む癖がある。
だから、二人はなかなか出会えない。
でも、最後は出会うというロマンチックな話だった。

『どうだった?』と感想を聞かれて、同時に『Ohzaさんはどっち向きに動く人?』とも訊かれた。

確か『気まぐれに全方位に・・・』と答えて怒られたと思う。本当のことだったのに。『そんなのだめだ。ふざけてる。』と、その昔不機嫌にさせた。

私たちが今日出会ったのは一本道。向こう側からとこちら側から、この町に足を踏み入れるようになってから互いに何度もすれ違っていたらしい。

世界は広いがどこに行ってもそんな不思議なことはある。

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