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馬鹿者の馬鹿者のための馬鹿者による奮闘

私は自分で勝手に失言して、勝手に落ち込んでいた。その翌日がお休みで、相方と楽しく過ごしているはずなのに、気が付けば思い返しては落ち込んでいた。

つまりは、言い過ぎたのだ。

その相手とは、昨年一緒に花火を観たお婆ちゃんでもあった。

あれからも、コロナ渦で制限ばかりの世の中、さらには、その世の中よりも、もっと制限ばかりの高齢者施設で、時折コンビニ散歩へ連れ出したり、糖尿病で悪化した足のケガを処置したり、気晴らし交えて沢山の時を過ごして来た。

そうしているうちに最初は煙たがっていた職員も、段々この人の根っこが優しく暖かいのだということを知り、段々皆の”愛すべき人”となって行ったのだが。何分、よく職員を怒号するために、今でも苦手としている人々も多い。

それでも、以前と比べれば、大分皆に溶け込んで来て良かったなあ~と思っていた矢先に、まさかの私自身の失言だった。

同じような理由で落ち込んでいる職員は多い。誰でも優しくしたいと思っている。(ええ、ご家族様を筆頭に)

でも、その人は、相手の一番嫌なところを引き出してしまう。そこまで追い詰めてしまう。自分の嫌なとこを観た職員もまた傷つき、やがてはその人から遠ざかるようになる。誰でも、自分の嫌なところを見たくないからね。

うじうじ考えても仕方がないから仕事へ行こう!と言うことで、今日も施設へ行けば、またもの凄い怒号が聞こえるので「はあ~・・」と溜息が出る。さすがに、私もしばらく避けたい気分だ。

どの職員が何を言われているのか知らないけど、ごめん、私は今日は助けないで通り過ぎる!

礼節が守れるほどの距離感を保つ自信もないし。

すると、助けを求めて来たのは、職員の方ではなく、婆ちゃん本人の方だった。「おい!おい!行くな!行くな!助けてくれよう!嫌だって言ってんのに、こいつが風呂に連れて行こうとするんだよおう!人殺しぃー--!」

・・・・・・・・・。

思わず、クルリ!と振り返り、ツカッ!ツカッ!ツカッ!

お風呂は 入りなさいっ!← 顔面すれすれ

その一言で項垂れて「お風呂なんて一か月に一度でいいのに・・・」とブツブツ言いながら連行されていた。

さらには、ほっとしてエレベーターの前に居ると、まだ遠くの方からこっちを見ている職員とお婆ちゃん。

まだ何か?

「足を洗わせてくれないんですよ。」と職員が子犬のような目でこちらを見る。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

うおおおお!足を洗いますよ!でないと!傷、腐りますらかねえっ!!

「ぎゃああああ!来るな!おまえは来るな!」



15分後、ピカピカになってフロアに戻って来た彼女。何を言うのか?と思ったら、「ありがとね。」と言うので、うっかり笑いそうになった。

笑うのをこらえて、「ほら、薬の時間だから。薬もちゃんと飲んでね。」と薬の袋を切ると、「ちゃんと袋から出してね!」と言うので、出してあげていると、

「ああっ!こら!袋から出せって言ったけど、誰が触って良いと言った!ここに置けよ!」と手のひらを出して来るので「それやると、いつも自分で落として激怒するでしょ?」と言うと、今度は「テーブルに出せばいいだろが、ぶぁー--かっ!」。

・・・・・・・・・・・・・・・・・(ピキピキマーク)。

私は思わず、舌を出し、薬をベローーーン!と舐める真似をした。(ほんとには舐めないよ。)

「うわああ!馬鹿!やめろ!」

と、こういうやり取りをしているうちに、互いに大声になり、しまいには、笑ってしまっている。

「ぶわー--かっ!」

馬鹿で結構!

周りも笑っている。

私の肩をバンバン叩きつつ、引き笑いしている婆ちゃんを見ていると、何とか和解したようだと思う。

私は、ちっとも人間が出来ていない。ごめんね。あんなこと言って、本当にごめんね。あとからトイレで泣いちゃったよ。切り替えるための自分勝手な涙で、ごめんね。

上手くできないし、このままで良いとも思っていない。でも、逃げないで頑張ろうと思う。(でも、礼節は?)

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