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人は心で食べる

以前居た特養の施設でも、口からモノを食べるのが難しくなるほど衰弱した高齢者の人たちが居た。

これが何なのか?分からなくなるほどミキサーでドロドロにて提供するところも多いし、それで何年もご存命の人もいる。

が、キザミ食やペースト食、ムース食なども魚や肉の形に見立てて提供する試みというのが成されていた。これだけでも、食事に向き合った人の気持ちが少し変わる。

でも、今の施設で出会った”あいーと”という食品は本当に優れモノ。

肉じゃがやエビグラタンやすき焼き、酢豚など、様々メニューをほとんど原型で提供できる。

外観は完璧に美味しそうなまま、歯茎や舌で潰せる柔らかさ。しかも、味も良いとのこと。

これには感動した。


それでもお看取り間際の人はそれすら食べれないわけだが、ある日、冷凍庫の前のテーブルに色んなメニューを並べて、「残しても良いから少しでも食べてみようかな?と思うものを指さしてみて!」とお願いした。

ある日の豚の角煮はダメだった。が、その後、ハンバーグや野菜カレーを全量食べてくれた!

専門家の誰もが、もう食べれないと思っていた人が、全部食べてくれたものだから、嬉しすぎて騒いだ。その人の前では「食べて下さってありがとう。」とお礼を言うまでにとどめたが、立ち去った後にスタッフに空になった容器を見せてワーワー騒いでしまった。
いや、その人の前でも顔が笑って隠せていなかったと思う。

何故そこまでの無常な喜びを感じるのか?というと、理屈上、その分寿命が延びるからだ。少なくとも生きたいと思っている人の寿命が。

”あいーと”という商品名のこの優れたお惣菜の他に、水分を100㏄摂取するとカロリーも同時に摂取できるものなど、日本には実に様々な商品がある。

聴いたところによると、これは日本だけの特徴らしい。栄養補助食品の充実度は世界一。

もしかしたら世界は「そうまでして生きる意味、生かす意味があるのか?」と言うかも知れない。

でも、あるのだ。
それを口で説明するのは難しい。

が、確かなことは、食事の前にその人がウキウキとしてこれから食べるものを選んでいる様子。
小さな身体で一生懸命、力の限り嚥下している様の美しさ、目の色、感情。

多分なのだけど、そういった命の尊厳を守るのと同時に、食を楽しんで貰いたいという気持ちで構成されている。
ただ食べるというだけでなく、心を大事にしている国という側面もあるのだと思う。

あらゆる薬剤もそうなのだけど、はじまりは誰かが誰かのために考え作ったということ。

そういったことに、日々喜びと感動を感じている。
色んな人に色んな話を聴く度に、日本で看護師をやれている偶然に感謝している日々でもある。

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