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#15Plat Fukuoka books&cycling guide「自動車の社会的費用」と公共交通・自転車の未来@エスプレッソスタンド&ギャラリーTAG STÅ

 Plat Fukuoka cyclingは福岡がbicycle friendlyな都市(まち)となるための様々な提案を行っていきます。

 bicycle frendlyというと「自転車にやさしい都市」となると思いますが、私は「自転車がやさしい都市」になってほしいと考えています。それは歩行者に対しても、バイクやバス、自家用車…つまりは都市に対して自転車がやさしくできる都市でありたいと思うのです。
 Plat Fukuoka cyclingの目次は下記よりリンクしていますので、ご覧ください。(随時更新)

0.Plat Fukuoka cyclingの描く未来 
1.Copenhagenize Index2019を読む 
2.Plat Fukuoka books&cycling guide 
3.Plat Fukuoka cargobike style 
4.Fecebook ページ
5.Instsgramページ

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 「Plat fukuoka cycling books&guide」では本とサイクリングで寄りたいスポットをご紹介する連載になります。第6回は1970年に出版された日本のモータリゼーションへの警鐘を鳴らした本と福岡市の市場横にあるカフェの紹介です。

〇宇沢 弘文(著)『自動車の社会的費用(岩波新書)』(岩波書店、1974.6)
 本書が「自動車」に注目しているのは、「自動車」ほど戦後の日本の高度経済成長の特徴を端的にあらわしているものは他にないこと。そして、「道路」の建設は、市民の基本的生活が豊かになることになく、むしろ自動車通行を便利にするということに重点がおかれ、自動車通行が市民生活に与える被害が、もはや無視できないものになってきたことなっている現状を経済学的な視点で分析された本です。本書の刊行は1974年と日本は高度経済成長であると同時に、オランダやドイツではモータリゼーションに対する反対の動きが始まっていた時期です。

 まず、本書のタイトルにある「社会的費用」について、本書より引用します。

 「ある経済活動が、第三者あるいは社会全体に対して、直接的あるいは間接的に影響を及ぼし、さまざまなかたちでの被害を与えるとき、外部不経済が発生しているという(中略)、(この)現象について、第三者あるいは社会全体に及ぼす悪影響のうち、発生者が負担していない部分をなんらかの方法で計測して、集計した額を社会的費用と呼んでいる。」

 「自動車」に関して、市民生活で重要な「道路」を自動車通行に使う場合に、この社会的費用の負担(経済学上用語で「内部化」)の事情がまったくことなることを指摘しています。

・現在の日本では、すべての人々が自動車を所有し、運転し、道路サーヴィ
 スを使用することが市民の当然の権利として社会的には認められていない
 ということ(1)である。その(略)理由は、歩行、自転車などと異なっ
 て、もし、自動車重量税、通行料金などによって、自動車を所有し、ある
 いは運転するコストが高くなったとき、自動車所有あるいは運転に対する
 需要ははるかに低くなると考えられることである。したがって、支払い能
 力があり、支払う意志をもつ人だけが自動車を所有し、運転できる、とい
 う市場機構的な原則が貫かれるべき性質のものである。
・すべての人が自動車を所有したときに、自動車通行によって他の人々の基
 本的権利が侵害されないように道路網を建設し、整備するということは、
 ほぼ不可能に近いということ。

 前者については、免許取得率など時代の違いによる相違はありますが、自動車の所有による負担は、賃金が上がらない日本にとって重くなっていると思います。カーシェアなどが広まるのも自然な流れと思います。
後者については、仮に自動車が社会的費用を責任をもって実行するとした場合の道路は、下記の条件が必要になります。

 ・自動車通行が可能になりように、道路を建設・整備し、交通安全のため
 の設備を用意し、サービスを提供すること(2)
 ・自動車事故によっておきる生命・健康の損傷を計測し、対処すること
 ・自動車交通にともなって発生する公害現象の結果生じる都市環境の破壊
 ・自動車交通の混雑にともなう経済的損失

 これらの条件を「自動車」、特に自家用車に移動手段を頼ったかたちで実現した都市は世界には実現していません(3)。
自動車の安全を高めるあまり、道路は自動車以外の歩行者、自転車などを寄せ付けない危険な状態を形成することになります。
 その結果、皆が自動車に乗らないと、安全に移動できなくなり、自動車の利用が増加、その利便性は社会的な要請となり、渋滞解消が求められ、渋滞緩和のための道路の拡幅、バイパスや高速道路の建設が行われます。しかし、それは逆に自動車の利用を促進するだけで、渋滞はさらにひどくなります。つまり、本来「自動車」は市民の基本的権利ではなく、むしろ選択的なかたちで消費されているものであるべきということになります。

 前回の#12Plat Fukuoka books&cycling guideにて、ウィーン工科大学のヘルマン・クノーフラッハー教授の「「渋滞は交通問題ではない」。都市内において渋滞が発生するような地点があるからこそ、交通の速度は落とされ、他の交通機関に乗り換える可能性も生まれる。」という言葉を紹介しました。
 渋滞は問題解決のヒントである。つまり、負担できない「自動車の社会的費用」を社会に押し付けるのではなく、オルタナティブ(別の道)を探る必要があります。その役割が鉄道、バスなどの公共交通機関や自転車になります。

〇2025年に来るといわれる自家用車移動の危機と福岡での公共交通事業のチャンスについて
 「団塊の世代が「自身で車に乗れなくなる2025年」までに、つまり市民の公共交通や徒歩交通のニーズが飛躍的に上昇する」
 これは12Plat Fukuoka books&cycling guideで紹介したドイツのコンパクトシティに関する本の一説です。
 かつて、団塊の世代の方々の大量退職が話題になりました。そして、次に来るのは彼ら彼女らが、自分で自家用車を運転することがむつかしくなるという新しい社会フェーズです。近年の高齢者の自動車事故は、その前触れに過ぎないといえるでしょう。

 一方で、公共交通はCOVID-19により、これまでの通勤需要の減少などによるこれまで以上に厳しい経営状況です。
 公共交通が利用者の運賃収入で成り立つのは、ヨーロッパ諸国でも事例としては、ほとんどありません。
 ドイツでは公共交通機関の運営にかかる運賃以外の収入として、第三セクターのエネルギー会社の収益で補填しています(4)

 公共交通事業をエネルギー事業と合わせて行うのは、実は過去の福岡で実際に行われていました。
 それは日本最大のバス会社となっている西日本鉄道株式会社の源流をつくった実業家、渡邉與八郎氏と松永安左エ門氏の功績によるものです。
実業家、渡邉與八郎氏は福岡市内中心部を循環する市内路面電車を民間事業として私財を投じて開業し、路面電車のための道路拡幅を行い、博多・天神のインフラ整備に大きな功績を残しました。福岡の路面電車は残念ながら、廃止されてしまいましたが、中心部を循環する市内路面電車の路線をいまは、現在BRT(連節バス)が走っています。連節バスが走れるのは、広幅員の道路があるからで、渡邉氏の功績です。
 松永安左エ門氏は日本の電力事業において、現在の東京電力の源流をつくるほど、日本のエネルギーに功績を残した人物であるとともに、渡邉と同時期に市内中心部を東西に走る路面電車をほぼ同時期に開業していました。
2つの路面電車の会社統合され、経営者は鉄道と電力事業を手掛けていました。

 渡邉氏は彼の名がついた「渡辺通り」があるように、福岡の都市形成において重要な功績を残しました。特に、行政に頼ることなく、民間で事業を推し進めたところについて、木下斉氏は著書『福岡市が地方最強の都市になった理由』(PHP研究所、2018.3.2)より引用いたします。

渡邉氏は「理想を掲げる力」そして「自ら行動して実現する力」の2つを同時に展開します。
大抵の場合は、理想は語るものの現実的な行動が伴わない場合か、もしくは逆に理想はないけれども具体的な行動ばかりをとる場合に分かれます。これを同時展開するからこそ、物事は動くのです。(5)

 渡邉與八郎氏の功績に恥じぬよう、これからの福岡市のインフラのあり方について、Plat Fukuoka cyclingは「理想を掲げる力」そして「自ら行動して実現する力」を積み重ねていきたいです。

ここから公共交通の問題と自転車について、話を広げるたいところですが、その先は別途取り上げていきたいと思います。

〇Plat Fukuoka cyclingでTAG STÅへ
 サンセルコショッピングモールの裏手にあるTAG STÅは、エスプレッソスタンドとギャラリーを併設した打ちっぱなしコンクリートのソリッドな空間に、ポスターやイラストレーションが張られた緊張感のある空間で、コーヒー、エスプレッソなどを堪能できます。

 お店で販売している珈琲豆のラベルにあるVelkommen Tilbage Modmohen(おかえりなさい、おはよう)はデンマーク語です。
 この店舗の前に、デンマークのショップが入っていたらしく、引き継がれたとのことです。

 早朝7時から営業しているので、朝でも立ち寄ることができます。

◆ホームページ https://tagata.in

 奥に併設されているギャラリーは、気軽に入ることができ、新しいアートの世界に触れることができます。サイクルスタンドもありますので、ぜひサイクリングの途中にお立ち寄りしてはいかがでしょうか。

 次回のPlat Fukuoka books&cycling guideは徒歩〇分の生活圏についての本と、サイクリングの帰りに寄りたい福岡の温泉をご案内します。

 そして次回は、Plat Fukuoka cargobike styleとして、前回のPlat Fukuoka cargobike style2で登場したCity Changer Cargo Bikeが今後取り組む、プロジェクトの概要について、意訳とともに紹介いたします。

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〈参考文献等〉
(1)本書が出版された1974(昭和49)年の運転免許比率は3割程度。2019年の同比率は6.5割です。(『運転免許統計 令和元(2019)年度版』(警視庁、2020.3.24))。今後は『道路の将来交通需要推計に関する検討会報告書』(国土交通省、2008.11.21)にて、予測では7割程度が取得する見込みである。よって、この指摘は、現在からすると的外れなように見えますが、国民の7割が自動車免許を何かしらの理由で取得しなければならない社会となってしまった裏返しとも言えるでしょう。自動車免許がなくとも、日常の移動や生活ができるような社会であれば、免許取得率も必要以上に高い率である必要はないという考えと解釈できると思います。

(2)自動車通行のある「道路」とは,歩行者の安全,自動車同士の事故防止の措置による安全性が確保され,周辺環境への悪影響について十分に配慮された「道路」を指し、下記のとおりです。本書P161 より引用します。

 ・歩道と車道とが完全に分離され,しかも並木その他の手段によって,
  排ガス,騒音などが歩行者に直接に被害を与えないように配慮されてい
  ること
 ・歩行者の横断のためには,現在日本の都市で作られているような歩道橋
  ではなく,むしろ車道を低くするなりして,歩行者に過度の負担をかけ
  ないような構造とし,さらに,センターゾーンを作ったりして,交通事
  故発生の確率をできるだけ低くする配慮は必要
 ・住宅など街路に沿った建物との間にも十分な間隔をもうけ,住宅環境を
  破壊しないような措置を構ずる必要はある

(3)自動車を中心で都市が作られた場合の例として、アメリカのロサンゼルスやデトロイトが挙げられます。移動の多くが自動車で行われる都市は都市計画の規制が緩い場合、都市はスプロール化し続け、「都市」が「非都市」化していくと本書P159にて指摘されています。つまりそのような「都市」は「都市」でならざるものであり、実現しなかったといえると思います。

(4)村上敦(著)『ドイツのコンパクトシティはなぜ成功するのかー近距離移動が地方都市を活性化する』(学芸出版社、2017.3)P95 3章「電力と交通を兼業するシュタットベルト」より

(5)木下斉(著)『福岡市が地方最強の都市になった理由』(PHP研究所、2018.3.2)P172より引用。筆者は木下氏のnoteマガジン「狂犬の本音」を定期購読して、日々勉強しているところです。現在のPlat Fukuoka cyclingは「理想」を求めて思考する作業ばかりですが、「行動」に移せるよう、その「理想」をもう少し地固めとしていきたいと考えています。

(6)紹介するお店は、当初柳橋連合一番内のMANUCoffee柳橋店の予定でしたが、2020年9月現在は、長期休業中です。早期の再開を期待しつつ、今回は紹介を見送りました。

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