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「あやしい絵展」を観た後には… 東京国立近代美術館コレクションで楽しむ、もうひとつの「あやしい絵」たち。

妖しい、怪しい、奇しい… 不思議な魅力をはらんだ「あやしい絵」たち。東京国立近代美術館ではじまった「あやしい絵展」は、江戸末期から昭和初期までの絵画が「あやしい」という切り口で紹介され、人気を博しています。この「あやしい」という切り口、面白いですね。

あやしい絵展

一方、企画展を観た後に見落としてしまうこともあるコレクション展ですが、現在、企画展と連動して「あやしい絵展」ともつながりのあるテーマの作品が多数展示されています。

正式定義はなく、主観でも捉えられる「あやしい」という切り口。もしコレクション作品から、自分なりの「あやしい絵」を選ぶなら、どの作品を選ぼうかな?」なんて想像してみるのもアリでは?

このnoteでは、現在の東京国立近代美術館のコレクション展の中から、勝手に作品を選んでもうひとつの「あやしい絵展」を作ってみようと思います。

「あやしい」= 神秘的、不思議、ぞくっとする… そして、視線を引きつける魅力的な作品たちを自分なりに選んでみました。(一般に撮影可能な範囲で撮影・掲載しています。)

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≪花下月影≫ /  中沢弘光 (1926)

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妖艶な雰囲気の3人の女性たちの持つヴェールから振り落とされる花びら。その落とされた先に目を向けると、そこには中性的な人物から、こちらを観ているような虚ろな視線にはっとします。

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≪花下月影≫ /  中沢弘光(部分)

平安時代後期の歌人で僧侶の西行法師(1118-90)の詠んだ歌、「願わくは花の下にて春しなんそのきさらぎの望月のころ」から着想したものとのこと。その歌から想像すると、この虚ろな眼の人物は生と死の間をさまよっているのか… 裏に隠された物語に想像の広がる作品です。

≪女のまはり≫ ≪感傷の整理に就いて≫ / 古賀春江 (1930, 1931)

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「『猟奇』と『尖端』の時代」と名付けられ、昭和初期の作品を紹介する章で印象的な、日本の初期のシュルレアリスムの代表的な画家・古賀春江の≪海≫

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≪海≫ / 古賀春江

今回のコレクション展では、代表的なこの作品とそのモデルとなったポストカードとともに、フォトモンタージュの手法を油彩画に応用した多数の作品が紹介されています。

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≪女のまはり≫ ≪感傷の整理に就いて≫の下絵

雑誌に挿入されたその絵画には、現実に存在するものたちによって現実にはあり得ない光景が構成され、そこに主役として登場する女性をよりミステリアスな雰囲気にしています。是非、下絵と併せてご覧ください。

≪No.273(影)≫ / 高松次郎 (1969)

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白いキャンバスに写り込んだ、天井まで届く高さのある二重の赤ん坊の影作品を照らす2つのスポットライトを見ると、思わず、実在しないけれどそこに”いるはず”の赤ん坊を想像してしまいます。

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実在しないものを存在を感じさせる、気配だけを感じる… そんな不思議さのある作品です。

≪かつて鳥だった女≫ / ジョエル=ピーター・ウィトキン (1990)

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こちらは、コレクションによる小企画展「幻視するレンズ」のコーナーから。目の前にあるものを性格に写し取るのではなく、「幻想的な」な雰囲気を醸し出す「あやしい」写真表現の作品たちが集められています。

その中でもひときわ目を引いたのが、「死」や「奇形」を連想させるイメージの組み合わせで強いインパクトの作品を作り上げるアメリカの写真家・ジョエル=ピーター・ウィトキンの作品。

背中から羽をもぎ取られたような傷跡とコルセットで締め上げられた腹部は生々しい痛みを感じる一方で、サイボーグ的・SF的な雰囲気も感じられます。

≪ガーデニング(マンハッタン)≫ / 大岩オスカール (2002)


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227mm×555mmと巨大なキャンバスに描かれた絵画は、引いて観ると一見、カラフルな花畑のように美しい絵画。

近づいてみると、草原のように見えていた風景は、ニューヨークの都市であることに気づき、さっきまでカラフルな花に見えていたものは、無数の煙幕に見えてきます。

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そして、画面を横切るのは巨大な鳥か飛行機のような影。これが描かれたのは、アメリカ同時多発テロの翌年。そんなことに気づくと、絵画の見え方は一気に変わってきます。

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ちなみに直接関連はないのですが、現在横須賀美術館で開催中の「ヒコーキと美術」展のなかにもこんな作品があり、同様な不気味さを感じます。姿が見えないけれども迫り来る巨大な影… 実態が描かれないからこそ、さらに不気味なあやしさが増して見えるようです。

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≪影(蘇州上空)≫ / 向井潤吉 (図録より)

≪BLACK OF DEATH 2013≫ / Chim↑Pom (2013)

空を覆い尽くすほどのカラス。なんだか不吉な事が起こる全長のようにも感じてしまうこの光景。カラスが仲間を呼ぶ声を拡声器で流しながら、カラスの剥製を掲げて移動することで、仲間を助けようとするカラスたちを集結させる作品。

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2007年に制作された後、震災後の2013年に場所を変えて再制作されています。その場所のつながりは…

企画展「あやしい絵展」のなかでも、カラスの描写が印象的な作品がありました。不吉な予感をさせながらも。怪しげな美しさがありますよね。

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《道行》/ 北野恒富 (「あやしい絵展」より)

≪反映・思索≫ / アントニー・ゴームリー (2001)

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コレクション展の最後に、2階の出入り口にたたずむ映し鏡のような像。自身の身体を型取りしてつくる人体像で知られる彫刻家です。日中に観てもインパクトのある作品ですが、夜間開館時には、闇夜に浮かび上がるその姿はさらにミステリアスな雰囲気を醸し出していますね。

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今の時期は、同じように闇夜に浮かび上がる桜も併せて、その不思議な雰囲気が際立つようです。

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膨大な作品数のコレクション展ですが、「自分だったらどの作品を選ぼうかな?」という切り口で観ると、普段の鑑賞とはまた違った見え方になるかもしれません。

企画展で満足してしまうと見落としてしまうこともあるコレクション展ですが、こちらでも是非、もうひとつの「あやしい絵」たちを楽しんでください。

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≪猫≫ / 稲垣仲静 (あやしい絵展より)

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