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無機質なデジタルカウンターの向こうに「他人」と「生」を考える / 宮島達男 クロニクル 1995−2020 @千葉市美術館

薄暗い、静かな空間で、厳かな雰囲気で1〜9までの数字をカウントし、ぱっと光が消えるLEDのデジタルカウンター。

例えば、原美術館の《時の連鎖》、六本木ヒルズの《Counter Void》、それに東京都現代美術館の《それは変化し続ける それはあらゆるものと関係を結ぶ それは永遠に続く》。宮島達男さんの作品といえば、そんな厳かな雰囲気のイメージ。

だから、「宮島達男 クロニクル 1995−2020 (千葉市美術館)」は、冒頭から割と衝撃的でした。

「生」と「死」を意識する パフォーマンス作品

森美術館で開催中の「STARS展」にも、日本を代表する作家6人のうちの1人として展示中の宮島達男さんの首都圏では12年ぶりという個展です。1995年を起点とし、時間と空間に深く関わる作品表現の本質に、「クロニクル(年代記)」というテーマから迫る展覧会。

さて、私が最初に驚いたのは、宮島さん本人が9から1までカウントダウンをし、0になるタイミングで墨汁の桶に顔を突っ込む…ということを延々と繰り返す作品《Counter Voice in Chinese Ink》。真っ白なシャツが徐々に墨汁でどんどんと黒くなっていきます。

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《Counter Voice in Chinese Ink》 / 宮島達男(展覧会チラシより)

同様に、異なる国籍の3人のが赤ワインに顔を突っ込む作品も。繰り返し繰り返しカウントダウンし、顔を突っ込みながら、どんどんと苦しそうな表情になっていく様子は見ているのも苦しい…

学生時代には渋谷のスクランブル交差点や新宿のタカノフルーツパーラーの前でサラリーマンの格好で突然大声をあげるようなパフォーマンスを行なっていたという宮島さん。そういったパフォーマンスを”定着”させることを考え、機械を使ったパフォーマンス・オブジェをつくっていくところに繋がったのだとか。(※)

今回の展示作品は2018年以降のものですが、パフォーマンスを再開したのが95年だったということで、今回の95年を起点とした展覧会のひとつキーとなる”転機”あたるものなのかもしれません。

循環し続ける 輪廻のようなデジタルカウンターの作品群

「それは変化し続ける」「それはあらゆるものと関係を結ぶ」「それは永遠に続く」という3つのコンセプトに基づき、1987年から88年にかけて、デジタルカウンターを作品につかうことを思い立ったという宮島さん。今回の展示ではデジタルカウンターを使った作品群を部屋一面に配置した展示も。

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また、1996年の同美術館での開館記念展で発表されたという「Tranquility—静謐」に出品された《地の天》は、薄暗い部屋の中、池のように青色LEDのデジタルカウンターが配置された作品。

よく見ると、なんだか少しLEDは柔らかな青色にも見えます。高輝度青色LEDが発明されたのが1993年。まだ本当に初期の青色LEDが用いられているようで、ここまでの時間を感じさせます。

「死」から「生」を考える、他人との繋がりを考える

デジタルカウンターの数字の繰り返しは、人間にとって普遍的な問題である「生」と「死」の循環を、見る者に想像させるといいます。その一方で、直接的に「死」を意識せざるをえない強烈な作品が、《Dethclock for particitpation》。「あなたの死ぬ日付を入力してください」というコンピュータの指令に従って日付を入力し、PCのカメラで自分の肖像が撮影されると、自分の肖像の前に死ぬまでの時間のカウントダウンがはじまる作品。しかもこの会場では、大きなスクリーンの中で再生されていく。

そこに入力する数字がどういうものなのか分かっていても、目の前で刻々とカウントダウンがなされているのを見ると、長めに設定したつもりの数値も、”どんどん減っていく”というのが可視化されると、この残った時間をどう使いたいか、と思わず考えてしまいます。

そして、展示室全体に貼り出された見ず知らずの人たちの写真と数値を見て、「他人の生」にも意識が向きます。

宮島さんは95年にパフォーマンスを再開したことで、そこにいる「観客」といかに切り結ぶかということを考えてきたといいます。(※) また、95年は”被曝した柿の木2世を世界各地に植樹する「時の蘇生・柿の木プロジェクト」”をスタートさせた年でもあるといい、他社との関わりの意味の転換の時でもあったのかもしれません。

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デジタルカウンターの作品は目にすることも多く、また、人と関わるプロジェクトの話題も多く耳にするので「知った」気になっていた一方で、実は全然知らなかったのだなぁと感じました。

無機質なLEDのデジタルカウンターの向こうに、「人」そして「生」を考えるような展覧会でした。

「宮島達男 クロニクル 1995−2020」展は2020年12月13日までです。


(※参考:「インタビュー なぜ安東孝一は問うのか?」より)

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【展覧会情報】千葉市美術館拡張リニューアルオープン・開館25周年記念宮島達男 クロニクル 1995-2020

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会場:千葉市美術館
会期:2020年9月19日[土] – 12月13日[日]
休室日:10月5日[月]、10月19日[月]、11月2日[月]、11月16日[月]、12月7日[月]
観覧料:一般1,200円 大学生700円 小・中学生、高校生無料
※ナイトミュージアム割引:金・土曜日の18:00以降は観覧料半額
10月18日(日)は市民の日につき観覧無料


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