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生きづらさを描く『空白』 2021年10月15日(金)

話題の吉田恵輔監督の『空白』を観てきた。

(ネタバレあり)

港町で漁師(古田新太)の娘がスーパーで万引きを見られて逃走したところ交通事故に遭い死亡。父親である漁師は娘の無実を信じてモンスター化していき、スーパーの店長(松坂桃李)は追い込まれていく。

漁師はモラハラ体質でもともと娘との会話もほとんどない状態で、仕事も腕は良さそうだけど一緒に働く藤原季節演じる若い漁師もうんざりしている。
スーパーの店長は元々やりたい仕事ではなく親が突然亡くなったため仕方なくスーパーを継いでいることがわかる。やる気は元々ないが、必要最小限のことを淡々とやっている感じ。近くに大型スーパーができて、万引きも多発。相談する相手もいない様子である。
亡くなった娘も友達もいなくて、先生からは考えて行動するように言われている。
若い漁師も田舎の港町で働き口はなく、漁師を辞めたらホストになるしかないとこぼす。

そんな風に大きな問題が起こる前から皆、生きづらさ、周りと合わない感じを抱えており、事故をきっかけにそのことが顕在化していく。
世間と折り合いの付けられない苦しみが描かれているのは、西川美和監督の『すばらしき世界』や藤井道人監督の『ヤクザと家族』と同じでかなり近い印象を持った。
(『ヤクザと家族』と『空白』は同じ制作会社だ)

漁師は性格に難があり、威圧的でやり過ぎな面は否めないが、被害者として気持ちはわかる部分はあり、スーパーの店長は波風を立てぬよう生きてきたのに突然理不尽な嵐に襲われたようで可哀想な面はあるが、もう少し主体性を持って対峙できないかと思ってしまう。
そういう風に、善悪、白黒がハッキリするわけではなく、一様にグレーなのである。我々が生きている世界はそのように出来ている。

寺島しのぶ演じるスーパーのパートの善意の押し付け、土足で踏み込んでくる厚顔なマスコミ、責任逃れを平然と行う学校など人間模様の複雑さが丁寧に演出されている。

後半、漁師は娘との”空白”を埋めようとする。
ハッピーエンドではないが、バッドエンドではない。これからも彼らの人生は続いていく。たぶん、上手く世間に馴染めずに辛いことも多々あるだろうけど。

『BLUE/ブルー』に続き、傑作を生み出した吉田恵輔監督。次回作も期待したい。

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