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あまり知られていない...サイバーパンクの隠れた名作・傑作・カルトSF映画①

こんばんは ぷらねったです 
ハイテクな社会において 人間と機械が過剰なほどに結びついた サイバーパンクの世界観
今回は「あまり知られていない サイバーパンクの名作・傑作・カルトSF映画」をテーマに 素晴らしい作品を紹介していきます


1.電脳ネットワーク23/マックス・ヘッドルーム (1985年)

監督は ロッキー・モートン, アナベル・ヤンケル
コンピューター生成されたテレビ司会者をテーマにした イギリスのサイバーパンクSF映画です

舞台は 20分後の未来
改革派ジャーナリストのエジソン・カーターは テレビのリポーターです
カーターは たとえ不正を起こしているのが自分の雇用主であるテレビ局のネットワーク23だったとしても その不正を暴くと決意している男でした
ある時カーターは とあるアパートで起きた爆発事件を調査していましたが テレビ局の経営陣によってその調査から外されてしまいます
しかし カーターの新しいプロデューサーであるセオラ・ジョーンズは 上層部からの圧力にもかかわらず さらに調査を進めることに合意
2人は ネットワーク23が危険なサブリミナル広告を放送し それが爆発を起こしている事実を隠蔽していることを発見しますが それをきっかけに危険に巻き込まれていく...というストーリーです


本作品は 日本でも一部で有名な『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』で知られるロッキー・モートン, アナベル・ヤンケルを共同監督として映画化されました
彼らはトムトムクラブやトーキングヘッズ, マイルス・デイヴィスなど 名だたるミュージシャンのミュージックビデオ製作でも知られています
作中では"マックス・ヘッドルーム"という名前の コンピューターで生成されたテレビ番組司会者の誕生にまつわる物語が描かれます
危険なサブリミナル広告を企むテレビ局と そこでリポーターとして働くエジソン・カーター...いかにして彼がマックス・ヘッドルームになったのかを映しだすストーリーです


あくまで前日譚であるため 肝心のマックスヘッドルームの登場シーンは少ないのがもったいないところですが やはりコンピューターから生まれた司会者というテーマはとても魅力的です
約1時間というコンパクトな尺であり 実は日本版DVDもリリースされていますが 現在かなり手に入りにくい状況になっています

かなり特殊な製作背景を持っているのも この映画の特徴です
まず この映画の主人公である"マックス・ヘッドルーム"が 新しく放送されることになったミュージックビデオ専門番組『マックス・ヘッドルーム・ショー』の司会者としてレギュラー出演することになり その司会者の背景や誕生秘話などを伝える目的で 本作品が制作されました
この番組は「バックトゥザフューチャー」のテーマソングでも有名なヒューイ・ルイス&ザ・ニュースなどと契約していた クリサリス・レコードというレコード会社の一部門が制作したものでした


若者向け番組にふさわしい司会者として構想された"マックス・ヘッドルーム"のキャラクター設定は まず"派手な個性をもつ司会者では若者にアピールできない"というところから始まりますが これが転じて"若々しい雰囲気に対しても若者たちは疑いをもつ"というところに行き着きます
これが最終的には"若者文化を理解していない 傲慢で保守的な中流階級の白人男性であり ミュージックビデオについて退屈な手法を用いて話す シンプルなスーツを着た司会者"という捻くれた設定に至ったそうです
勝手な見解からすれば ある意味 知性やユーモアを排除したタモリさんみたいなイメージなのかもしれません

こうして生まれた"マックス・ヘッドルーム"というキャラクターですが 当時のイギリスにおいて「Max Headroom」という言葉は 駐車場の入り口にある高さ制限を示す標識に使われていた 馴染みのある言葉だったそうで これが人々に強い親近感を与えたとされています ※現在では「Max Height」という表記が一般的だそう
また 知性の欠けた人物設定なのに対して「Max Headroom」という全能感のある名前を付けたのは かなりの皮肉になっています


その後 実際にミュージックビデオ専門番組『マックス・ヘッドルーム・ショー』は3シーズンに分けて放送されることになった上に イギリスではなくアメリカで 本作品の設定にある程度基づいたテレビシリーズとして『マックス・ヘッドルーム』が公開され 日本では『未来テレビ局・ネットワーク23』というタイトルでも放送されたようです
また アメリカでは『The Original Max Talking Headroom Show』というトーク番組も1シーズンだけ放送されたことがあるそうで 非常にややこしいことになっています


さらにアメリカでは"マックス・ヘッドルーム事件"なる電波ジャックが1987年に発生しました
これは アメリカンフットボールの結果を伝えるスポーツ番組の生放送の途中 画面が突然暗転し その後マックス・ヘッドルームに扮した人物が画面上でニヤニヤしながら映り込んだ事件です
その翌日にも 人気SFドラマ『ドクター・フー』を放送中に同じ事件が起き この時は前述のスポーツ番組の司会者を馬鹿にしつつ 当時のコカコーラ社の宣伝文句だった"Catch the Wave"という言葉を ペプシコーラの缶を手にして言い放ったり その他にも卑猥な言動を取ったりしています
これは未解決事件となっていて 日本版Wikiにもまとめられており 実際の映像も味わい深いので リンクを貼っておきます
https://ja.wikipedia.org/wiki/マックス・ヘッドルーム事件

少し逸れましたが そんな"マックス・ヘッドルーム"を演じたのは『バーチャル・ウォーズ2』や『ウォッチメン』映画版のモーロック役などで知られる マット・フリューワーです
彼は 1970年代の番組『メアリー・タイラー・ムーア・ショウ』のテッド・バクスターが醸し出す偽りの友情をイメージし"初対面の相手にも10年来の友情を前提とした態度を取る"ということを演技の際に心掛けたそうです
こうしてマックスは 世界で初めての"コンピュータ生成されたテレビ司会者"として宣伝され この映画が初めて放映された際のイギリスでは なかなか反響が大きかったようです
放映から8か月後 コカコーラ社は本作品の権利保有者と契約を結び ニューヨークでの2500万ドル掛けた広告キャンペーンにマックス・ヘッドルームを起用
このキャンペーンについては リドリー・スコットが監督したそうで アメリカでは 1988年末頃までマックスが登場していたそうです

そんな 1時間の作品でありながら 製作背景にも強烈なものがある 本作品
個性あふれるキャラクターであるマックス・ヘッドルームを知る方も 知らない方も ぜひ観てみてください


2.コンピュータ・ショック/メモリー・バンク 原題:Overdrawn At The Memory Bank (1984年)

監督は ダグラス・ウィリアムズ
仮想世界をテーマにした サイバーパンク要素を含むSF映画です
今回紹介させていただく中では 一番知られていない映画かもしれません

舞台は近未来
巨大企業ノヴィコープに勤めるアラム・フィンガルは 聡明なコンピュータープログラマーでしたが とても退屈していました
彼は勤務中に映画鑑賞を楽しんでいたところ 勤務態度を監視するシステムのチェックに引っ掛かります
そして診断を受けさせられた結果 強制的に"ドップリング"というリハビリテーション療法を受けさせられることになってしまいました
こうして"ニルヴァーナ・センター"と呼ばれる施設に送られた彼は そこで更生のためのプログラムを受けさせられますが 子どものイタズラが原因で重大トラブルに巻き込まれる...というストーリーです


本作品はテレビ映画であり 製作費は100万ドルを大きく超えた金額だとされています
「ミレニアム」の著者でも知られる ジョン・ヴァーリーの短編小説を原作として映画化されました
ファミコン時代のゲームを思い出させるようなオープニング映像からはじまる本作品は ディストピア的な未来を舞台に ある男が仮想世界へ閉じ込められたまま出られなくなってしまう...そんな物語が描かれます


作中では"ドップリング"というリハビリテーション療法を受ける患者が存在し 彼らは"ドップラー"と呼ばれ 主人公はその内のひとりです
このリハビリは『動物に患者の人格を転送し 野生の世界を体験させる』というものであり 仮想世界のシーンは 自然を観察する番組のような気の抜けた映像で描かれます
実際このシーンの映像は すべて『ビューティフル・ピープル/ゆかいな仲間』という1974年の映画から流用されているそうで これはアフリカの動物を映したドキュメンタリー作品だそうです

そんなこの映画は仮想世界をテーマにしているにも関わらず お昼のファミリードラマ的な雰囲気にもなっており 賛否両論は必須ながらも個性的な内容となっています

そんな本作品ですが カナダの会社とアメリカのテレビ局によって製作され その後アメリカの小さなケーブルテレビを放送する会社へ販売されたといいます
限られた予算だったこともあり フィルム撮影ではなく 全編がビデオで撮影されているため 映画らしい画質ではなく ホームドラマ的な映像となっています
これについてプロデューサーは『フィルムで撮影していたら「ブレードランナー」と同じくらいお金が掛かったであろう』ということを主張しています
テーマとしては仮想世界がメインになっており サイバーパンク的な内容でありながらも「トワイライトゾーン」のような雰囲気になっている 稀有な作品です

インターネット初期を思い出す おそろしいほどにチープな映像は頻出するのですが それこそが本作品の個性となり シュールな世界観を生みだしています
海外サイトでは酷評する声もありますが 個人的にはかなり好きです
ちなみに この映画の原作となった短編小説は1976年に出版されており サイバーパンクの代表的な小説「ニューロマンサー」以前に存在したサイバーパンク的作品のひとつと称する声もあるようです


一応 日本でもビデオ発売がされたことのある 本作品
サイバーパンクとファミリードラマの要素が混ざったような 奇妙なカルトSF映画となっています

3.マインド・シューター (2008年)

監督は アレックス・リベラ
2か国間の社会問題をテーマにした アメリカ・メキシコ合作のサイバーパンク映画です

舞台は近未来
ハッキングに興味をもつ若き青年のメモ・クルスは メキシコのサンタ・アナという貧しい地域で 家族と共に暮らしていました
かつて豊かな水が流れていた近くの水源には デル・リオ・ウォーター社が建てたダムがあり 人々はお金を払って水を得るしかなくなっていました
メモは暇がある時に 廃棄された機械の部品をいじったりして さまざまな通話の音声を拾うアンテナを組み立て 盗み聞きすることを趣味にしていました
そんなある日 メモの盗み聞きがハッキング行為として扱われ ダムの治安部隊の監視網に引っ掛かってしまいます
そして 遠隔操作の戦闘用ドローンによって作業小屋が吹き飛ばされたことにより 父親が犠牲に...
罪悪感に苛まれるメモでしたが 残された家族を養うための稼ぎ先を見つけるため"未来の都市"と呼ばれるメキシコのティファナへ向かうことに...というストーリーです


本作品は 短編映画やミュージックビデオ方面での経歴をもつ アレックス・リベラ監督によって映画化されました
作中では“ノード”と呼ばれる装置を体内に埋め込み 神経と接続したプラグを経由して脳波をコンピューターとリンクすることにより 労働に従事する人々が描かれます


特に印象的な"スリープ・ディーラー"と呼ばれる工場では ノードを接続したメキシコ人労働者たちがロボットの遠隔操作をおこない アメリカのために労働しています
アレックス・リベラ監督はアメリカ生まれですが ペルーからの移民である父親をもち ラテン系アメリカ人に関する問題をテーマにした作品を中心に取り組んでいるそうです
本作品もそんな作品の一つであり アメリカとメキシコという2つの国の関係性について問題提起するような物語になっています
大企業による搾取 そしてそれに伴って起きる問題や 家族のストーリーが描かれるのです


壮大なスケールにせず あくまで個人の目線で紡がれる 素朴なサイバーパンクの物語
SFと社会問題を強く結びつけたような本作品は 独特な魅力に溢れる 味わい深い映画となっています

4.フリージャック (1992年)

監督は ジョフ・マーフィー
代替品となる身体をテーマにした SFアクション映画です

1991年の世界 新鋭レーサーのアレックスは 時速230キロの速度で走行中 レース事故の瞬間に 2009年の未来にワープしてしまいます
その未来では『人間の精神をコンピューターに保存し それを新たな身体に移せる』という超富裕層向けの"フリージャック"という技術が存在
この技術のために 死ぬ直前の若者の身体が過去からタイムトラベルさせられていましたが アレックスはその対象にされてしまったのでした
さらに タイムトラベル後に逃げだした者は追われることになり 法的な身体の所有権は フリージャックを管理する巨大企業マッキャンドレス社にあるという ディストピアな社会です
そんなフリージャックの対象にされたアレックスは 現在マッキャンドレス社に幹部としてつとめ 年を重ねた恋人のジュリーを見つけて協力を仰ぎ 自由の身を求めて逃走を続ける...というストーリーです


製作費は 3000万ドル
ロバート・シェクリイの原作小説を元に 以前紹介した隠れた名作「クワイエット・アース」のジョフ・マーフィー監督によって映画化されました
主演は「レポマン」のエミリオ・エステベスで 名優アンソニー・ホプキンスに加え ローリング・ストーンズのミック・ジャガーも重要な役で出演しています
作中では 不死を可能にする技術の実現された 2009年の未来世界に飛ばされてしまった元レーサーのアレックスが"フリージャック"の対象として 追手から逃走する物語が描かれます


未来的...個性的なデザインを施されたさまざまな自動車が登場し カーアクションは 破壊,爆破,炎上など なかなか派手なシーンもあります
また 一部では「ブレインストーム」を彷彿させる映像演出もあり なかなかの奮闘を見せていますが 特殊効果は「トータル・リコール」と同じくドリーム・クエスト・イメージズが担当しています


当時 ミック・ジャガーは撮影1週前にオファーを受けたそうで 短いあらすじをその場で説明され そのまま出演を決定したそうです
当初は1991年に公開されるはずだったオリジナル版は よりアクションに重きを置いたものだったそうですが 試写会での反応がかなり酷いものだったといいます
そのため公開は延期になり ダン・オバノンと共同で「エイリアン」や「トータル・リコール」などを手掛けてきたロナルド・シャセットを助っ人として招聘
40%以上のシーンを再撮影することになり 人物描写やユーモア演出を追加したそうです


そんなロナルド・シャセットは メイキング映像で『ヒッチコックの未来版であり トータル・リコールよりも優れている』と豪語しています
脚本家が自信満々だった本作品ですが 興行的にはうまくいきませんでした
ちょっとあっけないようにも感じるラストのオチですが 個人的には結構好きです
ブルーレイも再発されたので 当時から見た近未来のイメージを ぜひ観てみてください

あとがき

今回は「あまり知られていない サイバーパンクの名作・傑作・カルトSF映画」についてのお話でした
サイバーパンク特集を作ることになって 改めてサイバーパンクの定義について真面目に考え いろいろ調べてみたのですが 明確な定義付けは難しいところがあると感じます
ただ やはり語源としては"punk"という単語が含まれているだけあって『機械化されたハイテクな社会における 大きな力への反抗的な姿勢を描いた作品』...これが最もしっくりくる定義付けだと感じました

そうは言っても海外サイトなどでさえ 例えば「ロボコップ」や「ニューヨーク1997」がサイバーパンクに分類されていたりすることもあるので やはり定義は曖昧にされてきたのでしょう
そんなサイバーパンクは やはりディストピアと被るところの多いテーマではありますが もはや現代社会がサイバーパンク的になってきていることもあり この分野で驚くような新作を作るのは非常に難しい印象です

そういえば ウィリアム・ギブスンが1984年に発表した古典的名作サイバーパンク小説「ニューロマンサー」が Apple TV+で配信されることが決定したそうです
配信日は未定ですが こちらも楽しみにしたいと思っています
最後までご覧いただき ありがとうございました

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