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PLANETS CLUB ESSAY

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2020年8月の記事一覧

「歌バカ」の禅譲と慰留 −平井堅「怪物さん feat.あいみょん | 小陳泰平

 「死生観や恋愛感を赤裸々につづるセンセーショナルな楽曲」  「感情を包み隠さず率直に表現する歌」  Apple Musicであいみょんの説明書きを見る度に、やはりあの曲は「世代交代」の試みだったのだと感じる。  2020年3月に配信限定でリリースされた楽曲「怪物さん feat.あいみょん」。近年若い世代を中心に人気の高いあいみょんと、往年のバラード歌手である平井堅とのコラボは大きな話題を呼んだ。2人が出演するMVに加え、いつか(イラストレーター)が歌の世界観を表現したイラス

日常生活を飛び越えるサンダル | 佐次安一

ワラーチというサンダルがある。 ワラーチは、メキシコ北西部の先住民族タラウマラ族が日常生活で使用している手製のサンダルだ。タラウマラ族は、自らを「走る民族」=ララムリと呼ぶほどに長時間の走力に長けており、その一族の強者と、超長距離を走るウルトラランナーのチャンピオンがメキシコの荒涼とした山域で競り合うレースを描いた、クリストファー・マクドゥーガルのベストセラー「BORN TO RUN」をきっかけに広く知られるようになった。そして、「BORN TO RUN」のサブテーマである

潜って、作って、慈しむ。 ーオンラインジグソーパズルのすすめー

「人生で一度もジグソーパズルをやったことがない」という人は、おそらくほとんどいないだろう。多くの人が、隣り合うピース同士がはまったときの「パスッ」という快感を経験したことがあるはずだ。ジグソーパズルの魅力とは一体何か。一般的に、ジグソーパズルの魅力といえば「出来上がったときに達成感がある」「集中力や記憶力がアップする」といったものが挙げられる。いずれもジグソーパズルの代表的な魅力と言えるだろう。しかし、私がここで提案したいのは、こういった側面を一切無視した、言わば「ジグソーパ

motoni±0のちから:『まんが訳 酒呑童子絵巻』レビュー |ミズキヒロ

『まんが訳 酒呑童子絵巻』大塚英志監修/山本忠宏編  この作品は、古典や歴史資料集に載っているあの絵巻物たちを、まんがのコマ割りを使ってだれにでも読めるように翻訳した作品である。  大半の人にとって絵巻物は、博物館の展示などで目にしても簡単に理解できるものではない。顔はだいたいが「おてもやん」で、よく似た顔の登場人物を誰が誰なのか判別するのがまず難しい。何の場面か理解しようとしても、余白に書かれた文章はミミズのような筆の草書体で、解読不能だ。百歩譲って、その文章が現代語に訳

私の坂道論 | 吉村裕美

 昭和の終わりから平成初期にかけて、NHK教育テレビで放送された「たんけんぼくのまち」(1984年4月―1992年3月)のことを今もよく憶えている。同じくNHK教育テレビ「いないいないばあっ!」のワンワン役でおなじみのチョーさんが出演されていた小学3年生向け社会科番組である。「♪知らないことが おいでおいでしてる 出かけよう 口笛吹いてさ」というオープニングを思い出すと、仕事をしながら楽しそうに町を走り回るチョーさんの笑顔が浮かんでくる。小学生だった私にも自分の町に気に入って