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ほめ言葉の力

「お姉さんのレジ打ち、誰よりもスピードが速いから、いつも見ていて気持ちがいいの。うん、やっぱり今日もすごいわね。」

これは、学生時代にアルバイト先のパン屋でお客さんに言われた一言だ。

食べることが大好きというだけの(不純な)理由で、近所のパン屋でアルバイトを始めた私。しかし、一つ一つのパンの値段が違うこと、しかも古いレジ打ち機だったため「192円、364円…」と端数まで覚えて、打ち込まないといけない事はバイトを初めてから知った。

なんたる不覚…。できることなら、大好きなパンを並べる仕事だけしたい…。でもレジ打ちだって、パン屋にとって大事な仕事である。

それから必死に値段を覚えて、自分の中でいかにレジ打ちを楽しめるか戦略を立てる日々。ある日「リズミカルに、正確に、最速で値段を打ち込む」ことが、最高に楽しいことに気付いた。

こんなこと、本当に私以外の人にとっては「ものすごく、どうでもいいこと」であるから、もちろん誰にも言わなかった。でもある日、冒頭のお客さんが気付いて、それをほめ言葉として伝えてくれたのである。


人知れず努力していることを、人から褒められることがこんなに嬉しいなんて!!

その一言を、約10年経った今でも鮮明に覚えているという事実からも、必死に働いていた学生時代の私が、その一言にどれだけ励まされたか伝わるのではないかと思う。




時は過ぎ、私はいまアメリカで小学校教員として働いている。

そして教員として私が何よりも大切にしていることは、子どもたち一人ひとりのよさや努力を見つけて、どんなことでも言葉にして伝えることである。

もしかしたら、その子にとっては何とも思っていなかったことかもしれない、悲しい出来事があった日かもしれない、でも大人だって、子どもだって、人からもらった「ほめ言葉」で笑顔になれる、前向きに生きていけると信じている。


私のクラスでは、日本、シンガポール、アメリカの小学校、どこでも必ず「ほめほめシャワータイム」を実施してきた。

これは、クラス全員がその日に選ばれた子のいいところや頑張り=「ほめ言葉」をシャワーにように、次から次へと伝える時間である。それを私は高速で紙に書き留め、私からのメッセージも添えて、その日の帰りにその子にプレゼントするのである。

これをクラスで行うと、聞いているだけで心がほんわか温まる素敵な時間になる。そして、伝える方は

①どんどん人や物事のよいところに注目できるようになり

②それを言葉で具体的なエピソードとして伝えられるようになる


伝えられる方は、

①自己肯定感が高まり、クラスでもどんどん積極的になって

②自分しか知らないような友達のよさも見流さないようになる

のである。みんなで幸せな気持ちを共感できて、いいことだらけである。


コロナの影響でオンライン授業に切り替わってからも、もちろん実施した。1年生のクラスの子たちが発表したのは、「いつも笑顔だから、一緒にいると元気になる。」「大好きって言ってくれて、嬉しい気持ちになる。」「一人でいた時に、砂場で遊んでくれて、転んだ時には、助けてくれて嬉しかった。」「サッカーが上手!」「アートが得意ですごい!」「○○をなくした時に、一緒に探してくれて、やさしかった。」「授業で勉強したお話のキャラクターのお面を、自分で作ってきていて、すごいと思った。」などなど…。

すると保護者から、

「お友達に褒めてもらうところが一緒に聞けて、自分も褒められたようで嬉しかった。」

「学校のことをあまり話してくれないので、自分の子どものよさを、私がもっとよく知れました。」

「もらった紙を、子どもが嬉しそうに壁に飾っています。」

など本当に嬉しい反響がたくさんあった。そんな言葉が、どれだけ私の励みになることか!褒められて嬉しくない人なんて、やっぱりいないと思う。


アメリカでは、呼吸をするように日常的に人を褒める。カフェで注文するとき、駐車場で車に乗ろうとしている時、散歩中に目が合った時。すれ違う人に、別に声をかける必要はないと思う人もいるかもしれない。でも、昔の自分がその一言に励まされたように、自分が気付いた「その人の素敵なところ」を私はこれからも声に出して伝えていきたい。


机上の勉強ももちろん大事だけれど、正直そんなことよりも、世界中の子どもたちに自分のことをもっと好きになって、人の苦手なところや世界の悲しい事件だけではなく、人のよいところや恵まれている環境にもっともっと目を向けて、自分らしく人生を生きていってほしいと切に願っている。




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