始まりを告げる街

 迷いながら進んでいこう。

 見慣れない路地をゆく。春の訪れを見るために。

 ここはどこへ向かう道なのか、僕の目的地はどこなのか、それさえ僕にはわからない。

 けど、ふと塀から顔を出す梅や、膨れ上がる桜の蕾、冬枯れの木が頭上を覆う自然のトンネルに、僕は目を奪われる。

 この道を歩きたい。

 散歩をするように気さくな足取りで、春を祝うようにゆっくりと景色を眺めて。

 時には、空が暗くなって道が見えなくなってしまうかもしれない。

 そんなのは当たり前だ。夜は来るものなのだから。

 暗さに怯えずに、その中に光を見つけられるものでありたい。家のぬくもり、星の輝き、月の眩しさ。

 僕は、迷いながら歩いてゆく。

 この街はきっと、うつむきがちな僕の顔を上げてくれる力を持っている。

 葉の擦れる音が、高らかに歌う花の誇らしげな歌声が、小鳥たちのささやかな噂話が、僕の背筋を伸ばすのだ。

 迷いながらも、この道を歩いていこう。

 春がほら、始まりがほら、海の見える街で煌めいて、僕らを待っている。

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