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心に【桜の樹】を持っているということ

私は冬生まれである。

しかも夜中の3時に生まれ、産声ではなく第一声があくびだった。大事だから二回言う、あくびだった。

そして母親と生まれて初めて対面したときにかけられた言葉はこれである。

「こら、泣け」

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 春と聞けば、日本人であればたぶんきっと桜を連想すると信じている。

 そして、とても印象に残っている話がある。

これはずいぶん昔に聞いた話だから、本当かどうかは、わからない。

本当が知りたければ、ぜひとも調べて「千羽はるの言っていることなんて嘘っぱちじゃねえか」と思ってほしい。

だからこれは、私が「本当」と思っているだけの話。

 染物で、あの淡く美しい桜色を出すとき、本当に桜の木を使うと聞いた。

しかも、花が咲く直前のタイミングで、桜の木の皮を煮出す。このタイミングでなければ、あの繊細で貴重な色は出ない。

木の皮を煮だせば、当然、あの濃い茶色の色が出てくると思っていたので、その話がとても印象に残った。

「冬の間、桜の木の中は薄紅色に満ちている。花を咲かせるというのはとてつもない生命力を使うので、樹は自分の内側すべてを使い、年に一度の開花に備えている」

たしか、ものすごく要約すると、こういう内容が書いてあったと思う。

その時から、私の中で桜が特別な花になった。

淡く優しい美しさの裏に潜む、尋常ならざる命の燃やし方を、教えられた。

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 桜といえば、少し不思議な話をしよう。

高校生の頃だと思う。夜桜の夢を見た。

詳しくは覚えていないけど、とても美しく吹雪を散らす夜桜があって、それを見上げていた気がする。

そして、いつの間にか、ずっと目を奪われるその風景が、一つの扇子の中に仕舞われて、私はこの扇子を大切に持つ――という内容だったと思う。

 その扇子は全体が黒く、桜の樹が右端にあって、そこから桜吹雪が左にまで流れていた。

とても綺麗な扇子で、起きて手元にないのが本当に残念だったので、「そういう夢」を見たことはよく覚えていた。

それだけなら「へぇ、そうなんだ」で終わるのだけど、我ながらちょっと驚いたのはこの後。

その扇子、本当にあった。

鎌倉の扇子屋に入って、ふと見たら「夢通り」の模様があった。

なので、今ちゃんと手元にある。

あの朝の私よ、残念がらなくていいんだよ。


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 以前、どこかで書いた気がするけど、私は10年以上、奥底に眠っている物語がある。

 これの主人公は「命を燃やす」生き方を選んだ奴で、未だに彼を書ききれる自信がないので書いていない。

 もし彼と、彼の世界を書くときは、私自身が真剣勝負のように生きるか死ぬかの覚悟を決めて挑まねばならないのだろうと、ぼんやり考えているからだ。(まぁ、書き出したら、そんなことないのかもしれないのだけれど)

 この彼は、常に桜の樹を背負って立っている。

背後にあるのは、あまりにも長い時間を生きる怪物のような巨木。節々にはこぶがたくさんあって、深い山奥でたった一本、威厳ある王者のように満開の花を揺らしている。

 夢に出てきた夜桜も、たぶん、この木だった。

心の中に、現実には見たことのない一本の桜の樹がそびえていることに、今これを書いていて気が付いた。

普通は「儚さ」や「美しさ」を連想させる桜。

私にとって、「命の燃やし方」を表す樹。

そう、桜は、とんでもなく強いのだ。

冬をじっと耐え、春には満開の花を咲かせ、そしてまた次の春までじっと命の力をためる。

揺らがぬほど静かに、息をひそめるほど強かに。

 春という季節は、命が本領発揮する季節だ。

植物たちは、「せぇーの!!!」と死に物狂いで花を咲かせ、子孫を残すべく力を発揮する(というイメージ)。

人に生まれてよかったなぁと思うのは、「春」が選べることかもしれない。

私達には準備を整える「冬」がちゃんとあって、自分のすべてを使って「春」を開始することができる。

少なくとも、私はそう思う。

「春」を開始するのも、しないのも、きっと自分次第。

ふわぁとあくびと共に、冬に生まれた私は、思いきり出し切ることのできる「春」を、これから起こせると信じている。

仕事でもいい。趣味でもいい。

「春」は、いつだって何度だって始められる。

心の中にある桜の巨木は、「お前の開花は始まっちゃいないぜ」と、背中を押してくる。

この声に答えるかどうかは、自分次第。


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――――と、いうわけで。

sakuさんの素敵な企画に参加させていただきました。楽しい企画をありがとうございます。

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バトンを渡してくれたのはカラエ智春さん。

いぇーいチハル仲間!!と一方的に呼んでいたら、なんとご本人も認めてくださり、大変感謝しております。やったぜこれで公認(?)。

カラエさんの文章、めちゃくちゃ好きなんです。大ファンなんです。

「スカッ」としたところとか、「ズババーン」としたところとか(すべて記事を読むときに脳内再生される擬音でお送りしております)。

一度読めば絶対ハマる「カラエ節」を、ぜひ皆さんも味わって下さい。

(カラエさんへ 私も森博嗣氏大好きなんですけども?!!)

 頂いたテーマは『春』。

「春よ春よ」と色々頭をひねり、松任谷由実さんの「春よ来い」を聞きまくり、最終的にひねりすぎて怪奇ヨガのポーズみたいな文章になったと思います。反省。しかし後悔はない(たぶんな)

 さて、次のバトンを受け取ってくださったのは、古越千鶴さんです。

千鶴さんは、推しへの文章ももちろんのこと、撮っている写真が本当に美しいんです。

「あぁ、この方の世界をもっと知りたい」と常々思っていたので、今回バトンを渡させていただきました。

テーマは〈ささやかな煌めき〉。

千鶴さんが伝えてくれる世界は、私にとって太陽光を受けた水面のようにきらきらと輝いて見えるのです。

千鶴さんの文章、とても楽しみにしています。





読んでいただきありがとうございます。 頂いたサポートは、より人に届く物語を書くための糧にさせていただきます(*´▽`*)