目的のない旅で、喫茶店の扉を開く
旅に出る。
例えば新幹線を使って。例えば飛行機を使って。
行く先が国内でも海外でも、あなたは、ワクワクが止まらないはずだ。
見知らぬ土地への緊張と、予想できない出会いが、旅の先にはきっと待っているから。
目的のない旅を、してみよう。
・ ・ ・
新幹線、飛行機、電車に乗っていると、みんなスマホやPCを見ている。
【目的のある】旅だから、なのかな。
スムーズに事が進むように、手に収まる地図と音のない時計に合わせて機敏に動いている。
かくいう私は、ただ揺られているだけ。
行く当てもなく、知らない場所をふらり、ふらり。
スマホは極力見ないように。腕時計は、着けていない。
あぁ、ドキドキする。
手が勝手にスマホを取り出そうとするのを「コラコラ」と苦笑して引っ込めた。
さて、次はどこに行こうか。
地下鉄の駅名を見て、勘で決める。
できるだけ有名じゃないところがいい。
「ここどこだ?」と降りた途端に首を傾げるような、そんな場所であればいい。
そこで、私は喫茶店を探す。
・ ・ ・
喫茶店は、ふらりと歩いて看板を見つけ、ぴんときたところにぶらりと入る。
雑誌に載っているような、あんまりオープンなところはだめ。
かといって、「常連さんしか受け付けませんよ」という閉鎖的なところもだめ。
ひっそりと、道の中、店自体が「待っていましたよ」と言ってくれる場所を探す。
そういう喫茶店って、不思議と必ずあるものだ。
ここにも、ほらね。
ベルの音は様々。大抵、お店の人は「おっ」という反応を返す。
こちらだって明るい笑顔を期待しない。
そういうのが欲しければ、マックにでも行けばいいのさ。
気むずかしそうなおじさん、気さくなおばさん、時々硬い表情の若い人もいるよね。
知らず知らず、お客の私も密かに緊張。
案内されたり、「そこに座ってください」と言われたり。
メニューを手渡されてからこそが、本領発揮。
自分ルールその1
まずは、ブレンドコーヒー。
「あなたのお店を知りにきましたよ」という喫茶店に対する挨拶のように、お願いする。
すると、あら不思議。
お店の人の表情は、少しだけ柔らかくなる(気がする)
コーヒーを味わいながら、読書。
ゆっくりと、あつあつの一口目をすする。
一呼吸。
ページをめくる。
穏やかに冷めてゆくコーヒー。味わいが変わる。
より、豆の味わいが口に広がってゆく。
ページをめくる。
最後にミルクを。まろやかなコーヒー。
この間に、時折お店の人が話しかけてくる。
「どちらからいらっしゃったんですか?」「○○からです」「おや!遠いところから……」
花が咲く。笑顔がこぼれる。
お店の人が、素敵な場所を教えてくれることもある。目的のない旅であれば、そこへ行ける。
お店を存分に味わったら、席を立つ。
時間は決めていないけど、私には1時間ぐらいがちょうど良い。
「ごちそうさまでした。とてもおいしかったです」
自分ルールその2
笑顔と共に、こう言うこと。
ゆったりとした時間を、おいしいコーヒーを、旅の思い出を頂けたことに感謝の気持ちを込めて。
すると、向こうからも笑顔が返ってくる。
商売用じゃない、ほろりとその人らしさが伺える柔らかな笑顔。
私はそっと、心の中でシャッターを切る。
・ ・ ・
目的のない旅にでる。
当てずっぽうな、行き先のない旅路。
ちょっとだけ、非日常。
けれど、誰かの心に確実に触れる旅。
そんな時間が恋しくて、今日も喫茶店の扉を潜る。
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