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6月20日は世界難民の日~バングラデシュ、コックスバザールの光と影、そして希望

この度、プラン・インターナショナルを長年支援くださっている作家の角田光代さんとともに、プランが実施している「ロヒンギャ難民の識字教育」を視察するため、バングラデシュ南部コックスバザール県を訪ねました。
そこで過ごした3日間で見聞きしたことを報告します。

別名「バングラの熱海」コックスバザール

連日大勢の人が集うビーチ

全長125キロメートルにおよぶ世界最長のビーチがあるコックスバザールは、2026年には後発開発途上国(LDC)からの卒業も予定され、順調な経済成長を見せているバングラデシュで人気の国内観光地です。インド洋に面するビーチには、昼夜問わず数えきれないほど大勢の人々が集い、着衣のまま広大な海原に身を託したり、ビーチバレーや音楽、ダンスに興じたりして、各々が思い思いに日常を離れたひと時を過ごしています。

暗闇に光を放つナイトマーケット

観光地として名高いコックスバザールの目抜き通りには、野生の牛やヤギに混じって「ローミングチルドレン」と呼ばれる子どもたちが路上を徘徊し、半裸の状態で道に寝転がっている姿が日常の風景になっています。

主に「ローミングチルドレン」の保護活動に取り組んでいるNGOの日本人スタッフに話を聞いたところ、彼らの住まいや保護者の有無は不明で、正確な人数を把握することさえ難しい状況だそうです。多くが大人によってシンナーやドラッグ漬けにされ、児童労働や人身取引の標的となっていることから、保護体制の強化が急務であるとのことでした。

劣悪な環境のロヒンギャ難民キャンプ

コックスバザールの中心地から1時間ほど車を走らせた丘にあるのが、今や世界中にその名を知られているロヒンギャ難民クトゥパロン・キャンプです。もともとは、象が憩い水資源に恵まれた森を切り拓いて設けられたこのキャンプは、2017年8月以降、ミャンマー国軍による無差別な武力弾圧を逃れてきた人々が流入し続け、今やそこに暮らす難民の数は、累計約100万人近くに膨れ上がっています。

当初は同じイスラム教徒として受け入れを決めたバングラデシュ政府も、ロヒンギャの人々が永住してしまうことを嫌い、キャンプ内には、耐久性に欠く竹やビニールシート、トタンといった簡易な資材で作られた仮設のテントがひしめいていました。密集したテントの中を幅2メートルにも満たない細い道が縦横無尽に広がっており、支援のために頻繁にキャンプを訪ねるプランの現地スタッフでさえ一度入ったら抜け出すことが困難な迷路のようだと話していました。

キャンプ内で就業の機会がなく生計手段を持たないまま日々をしのいでいる難民の人々は、援助団体からの配給に頼った生活を強いられています。また、9割近くが非識字の状態で、配給や公的サービスを受けるための書類作成など最低限の事務手続きを行うのにも困難が伴う状況です。キャンプ内を歩くと、流入後に生まれた6歳以下の乳幼児の多さに驚かされます。十分な衣服を得られず半裸でキャンプ内を駆け回っている5歳未満の子どもたちの15.1%が急性栄養不良に苦しんでおり、世界保健機関(WHO)が定めた緊急事態を示す「栄養不良率15%」を超えていることがわかっています。
困窮した生活にも関わらず子どもが増え続けている原因を尋ねたところ、もともと一夫多妻制で多産の傾向にあるロヒンギャの人々は、避妊や家族計画に対する抵抗感を持っていることに加え、乳児であっても1人と数えられる毎月の現金や食料支給を確保するために子どもを産む傾向にあること、また仕事を持たず特にすることがなく時間をやり過ごすしかないこと、見通しが立たないキャンプ生活のなかで子どもの存在が唯一の希望となっていることも多産の一因となっているそうです。
性と生殖に関する健康についての知識を持たない思春期の子どもたちが望まない妊娠・出産に至るケースも多発しています。私が視察したプランが実施している識字クラスに参加していた女の子たちの15人中9人が早すぎる結婚をしており、そのうちの半数近くがすでに出産を経験していました。


男女別で開催されている識字教室

キャンプ内には、軍への勧誘やドラッグ、犯罪や殺人事件など、多くの危険が潜んでおり、子どもたちが安心して過ごせる環境とは程遠い状況です。
そのようななか、プランが実施する識字クラスに参加している若者たちの学ぶ喜びにあふれたキラキラした瞳に、明日への希望を見出すことができました。彼らのなかからロヒンギャを牽引するリーダーが誕生することを願わずにはいられませんでした。

ホストコミュニティが直面する課題

難民キャンプに隣接し、ミャンマーから流入してきたロヒンギャの人々を受け入れる立場にあるホストコミュニティの人々の暮らしも垣間見ることができました。
難民キャンプがあるウキア郡、テクナフ郡は、バングラデシュ国内でも特に貧困層が多い地域です。キャンプによる地域への負担が増すなか、次第にホストコミュニティの住民たちの間に不満が蓄積するようになってきたそうです。
住民たちによると、難民キャンプができたことで、森林が伐採され、水資源が枯渇し、犯罪が急増するなど負の影響が顕著になってきているとのこと。過酷な難民キャンプの実情を見た後では、移動の制限がなく職業の選択肢もあるコミュニティの人々の生活は各段に良いものに見えましたが、互いの状況を知る術がないホストコミュニティの人々と難民の間に軋轢が生じてしまうのは致し方ないとの思いに駆られました。
難民だけでなく、もともとこの土地に住んでいる人々を守るために、バングラデシュ政府は、避難民キャンプで人道支援を行うNGOに対して、全支援額の25~30%をホストコミュニティへ支援するよう義務付けています。住民たちの話を聞いて、立場の異なる双方に配慮し、緊張状態を緩和し関係改善にむけた支援を継続することは非常に大切であると実感しました。
ホストコミュニティでは、プランの支援により施設の整備とジェンダートレーニングが行われた学校2校を視察しました。教師や学校運営委員会がジェンダートレーニングを受けた学校では、これまで男女を列ごとに分けて座らせて行っていた授業を、男女混合で自由に座らせることにしたそうです。これにより、以前には男子が座る列を優先的に指導していた教師の教授法にも変化が見られ、男女を分け隔てなく指導するようになりました。また、児童たちも性別にとらわれず男女平等に機会が得られるようになったことで、自信を持って発言するなど自尊心の高まりが見られるようになったそうです。
将来の夢を尋ねると、教師や医師、エンジニアや警察官などそれぞれ異なる夢を口々に語った、彼らの夢がかなうことを願わずにはいられませんでした。

ホストコミュニティの学校にて

息の長い支援が大切

視察の最終日、バングラデシュの国統括事務所長は、日本の皆さまからのご寄付とジャパン・プラットフォーム(JPF)のご支援により、ロヒンギャ難民識字教育プロジェクトが7年目のフェーズを迎えようとしていることは非常に喜ばしいことであり、このように長きにわたり実施するプロジェクトこそ、持続可能な支援として真の成果をもたらすものであると感謝の意を伝えてくださいました。

私たちにできることは非常に限られており、大海の一滴であるかもしれません。けれども、その小さな支援の積み重ねが子どもたちの希望の種となり、次の世代に結実すると信じて、支援を継続することの大切さを実感しました。

若者の未来を変える​「ロヒンギャ難民の識字教育」プロジェクト(バングラデシュ)

国際NGOプラン・インターナショナル 
マーケティング・コミュニケーション部 平田 泉