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タイム・マシン

"ぼくらが時間の中を動けない、というのは誤解なんだ。たとえば、過去のできごとを鮮明に思い浮かべているとすれば、ぼくはその過去に戻ったと言えないだろうか。"1895年に発表され文学における【時間の概念を更新する】と共に【人間知性の儚さ】を描いた表題作他九編を収録した本書は時代を超越した著者の奇抜な着想がそれぞれに素晴らしい。

個人的には様々な作品に登場し馴染み深いタイムマシンという言葉自体は違和感なく受け入れているものの、その元祖的な表題作は読んでいなかった事から興味をもって手にとりました。

そんな表題作は時間飛行家と呼ばれるタイムマシンを発明した人物が、集まった知識人の前に【実際に行ってきた】未来へのタイムトラベルについて話したのを記録した形式となっているわけですが。内容については、120年前にイメージされた未来世界は一体?とワクワクしながら読みすすめるも、当時資本主義ではなく社会主義に傾倒していたらしい【著者の政治観を色濃く反映した世界】で、ちょっと残念。また今のタイムトラベルものだと大切な醍醐味とも言える【タイムパラドックスも起きない】単調さも、求めているのと違う!うーんといった感じでした。

それでも、最近特に思うのですが。タイムトラベル、あるいは並行世界といったSF的な複雑概念が、ごく普通に様々な作品で受け入れられている現在を私なんかは【実は凄いことじゃないだろうか?】と思っているのですが。その黎明期の歴史的作品として捉えると、何ともその、時間概念がそもそも曖昧な時代に、従来にはない思考様式での著者の発想力は素晴らしいな】と、あらためて評価したくもなったり。(実際、英語の文献にTime Travelと単語が掲載されたのも、発表以降の1914年らしい!)

あと、表題作を除く作品では、隔絶された閉鎖社会を描いた『盲人国』なぜかサイボーグ009を思い出した『新加速剤』も印象に残りましたね。

あらゆるSF小説や映画の元ネタ的作品を読みたい誰かへ。表題作で描かれる120年以上前の人が想像した未来を楽しみたい誰かにもオススメ。

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